58話
筆者新生活準備のため、今後しばらく投稿ができなくなると思います。
「あ、あの。キュリロス様。よろしければ紅茶をお飲みになられませんか?」
「いや、しかし。今は勤務中ですので。」
「キュリロス師匠。俺が許します。何ならマリアもソファに座ってお茶会しましょう?そうしましょう。ね、ジャン兄様も良いですよね!?」
「え?うん。俺は構わないよ?」
あのマリア誘拐事件から、ずっとマリアとキュリロス師匠はこんな感じだ。
明らかに意識しているマリアと、紳士な対応でつとめて普段通りすごすキュリロス師匠。
ジャン兄様はあれからはじめて会う二人のいつもと違う様子にきょとりと目を瞬かせている。
紅茶を自分の前から向かいのジャン兄様の横に移動させ、俺もジャン兄様の横に座りなおす。
必然的にマリアとキュリロス師匠は紅茶を飲むためには隣に座らなければならない状態だ。
そのことに気づいたキュリロス師匠はしょうがなさそうに眉尻を下げ、マリアは目に見えて顔を赤らめさせた。
「?………!ッッ!?」
しばらくふたりを観察し、ハッと何かに気づいた様子のジャン兄様が二人を交互に指さし始めたのでこくりと頷いて肯定する。
「!!!!やっぱり!?ニャルコス!マリア!おめでとう!!!!」
「ははっ。ありがとうございます。ですが今は返事を待っている段階ですので、これ以上はご容赦を。」
「俺、二人が結婚したら二人に絵をプレゼントするね!」
「け、結婚…………っ!」
さらに顔を赤くさせたマリアを見かねてキュリロス師匠が固まるマリアをソファに座らせ、自分自身は俺とジャン兄様の側に膝をつく。
「確かに私はマリア殿に求婚いたしましたが、返事をお待ちしている段階です。女性にとって結婚とは男のそれよりも大切なものでございます。あまりそう急かして差し上げないでいただけませんか。」
そうキュリロス師匠に言われて初めて、マリアの気持ちを言葉で聞いていないことに気づいた。
途端に先ほどまで膨らんでいた気分がシュンとしぼんだ。
「そ、そんな。気になさらないでください!」
焦ったようにマリアがそう言うも、彼女の気持ちを聞かずにはやし立てたのは事実だ。
日本ならセクハラで訴えられても仕方がない。
結婚は女にとっても男にとっても大切なものなのだから。
「マリア、俺もごめん。ニャルコスとマリアが結婚したらいいなって思ってたから。でも!二人がもしも結婚することになったら教えてね!?」
ジャン兄様が興奮で若干上気した顔でマリアにそう言うと、マリアは耳まで真っ赤にさせてぎゅっと手で自分の膝辺りのスカートを握り締める。
お……?お!?なに!?何その反応!?
「その、本当は決まってからお話ししようと思っていたのですが………っ。じつは、父にキュリロス様からいただいたお話は、伝えてあるんです。」
頭の中で、今マリアの言った言葉を反芻する。
「おめでとう!!!!二人の子供は俺の弟妹と同義!絶対可愛がります!」
父親に結婚の意思を伝えたということは、マリア自身に結婚の意思はあると言うことだ。
あとは父親であるグリマルディ公爵からの承認を待っている段階。
つまり!マリア自身はキュリロス師匠からの求婚を受けたも同然!
グリマルディ公爵!!どうか!二人の!恋を認めて!!!!
「マリア殿、それは、………。いえ、今はやめておきましょう。」
これにはさすがのキュリロス師匠も照れているようだ。
「キュリロス師匠。俺寝室にいるので、この部屋はマリアと使ってください!ジャン兄様、行きましょう!」
「うん!じゃあね、ニャルコス、マリア。」
ライモンド様とジャンカルロ様。お二人が奥の寝室に下がっていったことにより、部屋には自分とキュリロス様だけになる。
「マリア殿、お言葉に甘えましょう。」
苦笑いしたキュリロス様にそう言われ、先ほどまでライモンド様とジャンカルロ様が座っておられたソファに彼も腰を下ろした。
何か話をしなければ、この空気感に堪えられそうにない。
しかし、いざキュリロス様の顔を見ると恥ずかしくなり言葉が紡げない。
そうやってしばし二人の間に沈黙が落ちると、キュリロス様が何かをしゃべろうと口を薄く開くのが視線の端に映った。
「わっ、わたし、キュリロス様の分の紅茶を淹れます!」
「ふふっ。では、お願いいたします。」
慌てて立ち上がった自分の思考が読まれているのか小さく笑われてしまった。
ソファに座ったキュリロス様に紅茶を淹れつつ、自分の気持ちを落ち着かせ、再びソファに座りなおした。
「先ほどのお話ですが。」
「は、はい!」
穏やかなその声に背筋が伸びる。
「あなたの、お心が私にあると………。そうとらえてもよろしいでしょうか。」
自分をまっすぐと見つめるその瞳から視線をそらせたいのにそらすことができない。
真剣な表情からは、わずかに懇願にも似た焦燥もうかがえた。
「…………はい。お慕いしております。」
ごまかしなんて効かない。
本心から出た言葉だからこそ、私も心からの言葉で返したい。
七年間ずっとそばにいた。
共にライモンド様を育てたと言っても過言ではない。
いつもそばで、支えてくれたその人を好きになるなと言うほうが無茶だ。
「今度、グリマルディ公爵様の元に挨拶に伺います。」
穏やかなその声がわずかに喜色ばむ。
それにつられるように自分の顔が朱に染まる。
「お父上殿から許可が戴けましたら、また二人で話をしましょう。あなたと二人で、未来の話がしたい。」
イヤァァァァァァ!!!ウィル オーウェイズ ラビュユゥゥゥゥゥゥ!!




