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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
幼少期編

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56話

「ほぉ?ではホフレ殿はただ話がしたくてグリマルディ家のお嬢さんを攫ったと?」

「ええ。何も問題はないはずですが、ジェラルド殿。」

「彼女はライモンド様の付き人だ。警護担当の私を通さずにまるで人さらいのような真似をなさるのはマナーに反するのでは?」

「笑止。ライモンド様のご近況をお伺いすることよりも優先されるものがあるものか。」

「…………国の防衛を考えろ。マリア嬢、ひいてはグリマルディ公爵家の顔にも泥を塗るつもりか。」

「なるほど、マヤ様とライモンド様の身の安全になるのであれば今後は考慮にいれよう。マリアに関してはライモンド様に今後そうしないようにと言われたのでな。」

城にホフレを連れてきてすぐ、バルツァー将軍の執務室に通された。

事の顛末を話せば嘘を吐けと言わんばかりに胡乱気な目で見られたが、相手がホフレということで完全に否定はできないのかバルツァー将軍は頭を抱えた。


筋書きはこうだ。

俺とホフレはもともと文通をしていたということにする。

実際には何度かホフレから手紙自体は来ていたらしいのだが、すべてマリアブロックされていたし、会うのも今回が初めてなので秘密裏に交流を持っていたことにしなければならない。

そこでホフレは匿名で、しかも城の下働きのものを通してひそかに俺に手紙を出していたことにする。

そこで俺はそんな顔も名前も知らぬホフレにポチとあだ名をつけて手紙のやり取りをしていた。

ホフレはこのことが知られてしまうともう手紙ですら俺とやり取りできないと思い隠していた。

俺も兄弟以外の話し相手を無くしたくなかったから黙っていた。

それが今回の件でホフレ=ポチと紐付けされたため公の場でも交流していこう、というわけだ。

そんなことあるか?と言われたらホフレの狂信者っぷりで乗り切ってもらう予定だ。

その際俺がホフレに延々と称賛され心に負う傷については相応の対価だと思うことにする。


バルツァー将軍はことの真偽を確かめるためにボッサに視線を向けるが、ボッサ自身もほとんど今回の件は関わっていないので部屋の隅で首を振っている。

ホフレはどや顔だ。

いいぞいいぞ。お前の謎の自信に満ち溢れたそのどや顔のおかげでバルツァー将軍を惑わしてるぞー。

「その件は………今回は真偽不明のためカッシネッリ家当主の言葉を信用しよう。では今後の警備についてだが、引き続きコジーモにはライモンド様の警護についてもらう。そしてキュリロスはライモンド様とマリア嬢の警護に戻れ。」

「拝命いたします。」

「はーい、承知いたしました。」

キュリロス師匠とボッサ、それぞれが礼をとったところでバルツァー将軍は改めてホフレに向き直った。

「で?ホフレ殿は本日はどうなさるおつもりで?」

「どういたしましょう、ライモンド様。」

「今日はもう帰っていいよ、ポチ。」

「と言うわけなので、私は帰る。」

「何しに来たんだ、お前は………。」

ほんとにな。

「それではライモンド様。何もできずに申し訳ございません。欲を言えばもう少しお話ししたいところではございますが、本日はこれにて失礼いたします。」

俺に対してだけそう挨拶をし、ホフレはセルジオを連れてバルツァーの部屋を出て行った。

と、同時にバルツァー将軍は椅子の背もたれにぐったりと体を預け、眉間を指で揉み始める。


「まったく。あのホフレは昔からいらんことばかりをする………ッ!毎度毎度、誰がお前のしりぬぐいをしていると思っているんだ!」

珍しく声を荒らげたバルツァー将軍に、今回ばかりは申し訳なさが募る。

「………………そういえば、ライモンド様。なぜあの男を信用なさろうと思ったのです。」

目元を押さえたバルツァー将軍の指の隙間から、ぎろりと鋭い眼光が見えた。

その鋭さに思わずビクンっと体が跳ねる。

「え、なんでって、言われても……?」

今回の件に関しては、どちらかと言うと成り行き上そうなっただけなのであまり理由はない。

言いよどむ俺にバルツァー将軍はにじり寄り、がしりと肩を掴んでくる。

「いいか!?あの男はだな、自分の欲のために自分の父親を当主の座から引き下ろした挙句!その後始末を面倒のひとことで関係のない俺に押し付けるような男なんだぞ!?」

「お、おおう。」

「あんな公爵家のなんたるかの自覚もないような輩より!俺の方が!この国に尽くしているんだ!!!!先代のリチニオ様は温厚で素晴らしい人格者だったと言うのに!なぁ、そのひとかけらもあいつは引き継がなかった!!!」

俺の肩から手を離したバルツァー将軍がそのままこぶしをダンッ!と机にたたきつけた。

なんというか、ホフレのせいで苦労しているんですね。

素の時の話し方はもっと荒々しいのかもしれない。

バルツァー将軍はうおおおおっ!と唸りながら自分の頭を抱えた。

「あの、バルツァー将軍。これからは俺がホフレの手綱をできるだけ握りますね。」

「……………子供に手綱を握られなければならないあいつに同じ公爵家として悲しめばいいのか、それとも負担が減ることに喜べばいいのか………。」

「とりあえず喜べばいいと思うよ。」

苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべるバルツァー将軍。

いったいホフレは何をやらかしたんだ。

まあ今回その片棒を担いでいる身としては強く言えないんだが。


叫んだことで冷静になり、バルツァー将軍は咳ばらいをし表情を取り繕った。

「そういえば、マリア嬢を見つければ何か一つ私の質問に答えていただけるのでしたな。」

急に始まった狸の化かし合いにぐっと喉が詰まる。

「………おや、それはバルツァー将軍がマリアを見つけた時の話でしょう?」

「ライモンド様がニアルコスに命じられて王宮を抜けた後、その後始末をしたのは私ですが?王族が、特にまだ成人しておられないライモンド様が十分な数の護衛もつけずに急な外出をなさるために私がどれだけの書類を書いたと思っていらっしゃるんですか?」

「耳が痛い。」

「そこまでホフレに似ずともよいかと。」

「似たつもりはないんだけど………。うん、じゃあ一つだけね。でも俺がマリアを見つけたんだから、内容は精査しますよ。」

「ええそれで構いません。」


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