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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
幼少期編

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54/140

54話

倒れたホフレをそのままにするわけにもいかず、セルジオの案内でホフレを地上の彼の自室へと運んだ。

もちろん運んだのはキュリロス師匠だが、成人した男に対しても横抱きで運ぶ姿はさすがとしか言いようがない。

キュリロス師匠ほど紳士の名をほしいままにしているイケ猫もいないのではないだろうか。


「ところで、どうしてホフレは倒れたんですか。」

自室へとホフレを運んだあと、地上にある応接間にてセルジオの入れてくれた紅茶を飲みながら彼に尋ねた。

するとセルジオは微笑まし気に表情を緩めた。

「いえ、実はですね。ホフレ様はマヤ様に恋をしておられるのです。」

「………去勢した方がいいですか。」

自分の母親を狙う輩がいる?処すべし、処すべし。

そんな少年の初恋を見守るような微笑まし気な表情されても困る。

しかし、肩をキュリロス師匠に掴まれた。そちらを向けば首を横に振られる。

駄目ですか?どうしてですか?そうですか…………。

心なしかセルジオの顔も青ざめている。

「いえいえ、まさかご自身がマヤ様とどうこうできるとはホフレ様自身もまさか思ってはいません。ただ、マヤ様のためならば何でもして差し上げたいと、そう思っておられるのです。マヤ様のためならばご自身の権力でも財力でも何でも差し上げるおつもりでいらっしゃいます。」

うっそりと笑みを深めたセルジオが恍惚とした表情で語る。

「血も肉も、髪の一筋さえ、我々の持つものすべてがホフレ様のもの。そしてホフレ様はマヤ様とその血を引くライモンド様の所有物。でございます。」


なるほどあれだな。

「まるで狂信者、ですな。」

苦い顔をしてそう吐き捨てたキュリロス師匠に、セルジオがいっそう嬉しそうな表情をした。

「ええ。私はホフレ様に、ホフレ様はマヤ様とライモンド様に。このカッシネッリ家に仕える者たちはみな等しくホフレ様、ひいてはライモンド様とマヤ様の手足なのです。」

ある種狂気じみたその笑みに、俺はにこりと笑みを返す。

「では、セルジオ含めこの家の者は俺のために動いてくれると言うことですよね。」

「ええ!左様でございます!それこそが私共の喜びです!」

この種の狂気は見覚えがある。

あれだよ。推しに命をかけるオタクだ。

命を燃やせ!金を溶かせ!すべては推しに貢ぐため!!!

狂信者と呼ばれると非常に危ない感じはするが、俺を心底推してくれているオタクだと思うとむしろ親近感さえ湧く。

前世でもよくSNSに出没していたしな。なじみはある。大丈夫、大丈夫。

「ホフレを呼んできてください。お話ししましょう?」

俺を推してくれるのであれば、その分お返しいたしましょう。

ファンサービスはいくらあっても嬉しいでしょう?

その代わり、俺のお願いを聞いてほしい。



セルジオによって起こされたホフレは、こちらが申し訳なくなるくらい緊張で体を強張らせていた。

ソファに座った俺の向かい側に腰かけたホフレは非常に落ち着かない様子でもじもじとしている。

顔は血の巡りがよくなっているのか、赤くなり汗もかいていた。

「あ、ああのっ!わ、私は、ホフっ、ホフレ・カッシネッリと申しますッ!あ、あの。お話とは、なんでしょうかッ。」

まるで乙女じゃないか。

成人男性が七歳児に対して顔を赤らめる、しかも対象が自分とかなんていう悪夢だこれ。

これだけ好意を前面に押し出してくる成人男性(顔だけはいい)をこれから利用しようと言うのか。

まあホフレだからいいか。

しかし、これじゃまるでショタコンホモ。

同性愛者に偏見はないが、俺はノーセンキューだ。

「俺と母上のこと、好きなんですよね?」

「は、はいっ!!」

「じゃあこれからは俺の言うこと聞いてくれますか?」

「えっ。も、もちろんです!」

「俺が来いって言ったらすぐ来て、俺が待てと言えばよしの合図があるまで待つ。持って来いと言ったら、何をしてでも俺が言ったものを持ってくる。できる?」

できるだけ尊大に見せるよう、ゆっくりと足組む。

「余計なことはしないで、俺と母上に関することはいつも俺の指示を仰いで。それ以外のことは今まで通り。その対価に俺はホフレのために時間を作ってあげる。どう?俺の犬に成り下がる覚悟はあります?」


今回みたいなことが今後起きても困る。

成人男性を飼う趣味なんて俺にはない。

いや、男でなくても成人していなくても人を飼う趣味はない。

でも、俺が我慢してそれでホフレを制御できるのであれば我慢しよう。

「どうします?」

俺の言葉にホフレはソファから滑るように地面にひざをつき、そのまま俺をうっとりと見つめる。

「ええ。ええ!!この私が、あなた様と道を共にできるのであれば、どこまでもご一緒いたします!あなた様からいただけるのであればどのような無理難題でも従いましょうとも!」

想像はしていたけれど、実際に俺にそう言った表情を向けられるとどうにも落ち着かない。

今まで、キュリロス師匠やマリアの時は避けてはいたが、これで人ひとりの生殺与奪の権利を俺が握ったことになる。

これから先、こんな風に他の誰かの命を預かることになるのだろうかと思うと、胃のあたりがずんっと重くなった。

でももう出した言葉は戻らないし、これから先のことを考えればキュリロス師匠やマリア以外の味方も欲しい。

ほとんど無条件でそんな味方になってくれる人がこの先どれだけいる?

もちろんホフレだってこの先俺を裏切らない保証はないけれど、今は信じるしかないよな。

「じゃあ、ホフレ。早速俺の役に立ってくださいね。」


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