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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
幼少期編

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48/140

48話

マリアが俺の部屋に来なかったその日の夕方、マリアが本当に昨夜から行方不明になっていたことが分かった。

すぐさま俺の警護にとバルツァー将軍が警備兵を多数送り込んできたが、そんなことよりキュリロス師匠をすぐさま連れて来いと伝令に走らせた結果。

ほんの数時間しかたっていないと言うのに、その日の晩にはキュリロス師匠は俺の部屋に駆けつけてくれた。


「ライモンド殿下!マリア殿がいなくなったと聞きました……っ。あなたが、ご無事でよかった。」

「俺は大丈夫だよ。それより問題はマリアだけど………。」

「今宵はライモンド殿下のお側におります。マリア殿の件は、明日ボッサ殿と話さねば、なりませんな。」

周りの警備兵からすら守るように俺を抱き上げたキュリロス師匠の目が暗闇できらりと光る。

「さて。ライモンド殿下の警護は私一人いれば十分です。お前たちはバルツァー殿のもとに戻りなさい。」

俺をその懐に抱きいれたキュリロス師匠が表情を緩ませ穏やかに警備兵たちに言った。

しかし、それに対してバルツァー将軍直々に命令を受けている警備兵たちは不服そうだ。

「し、しかし。我々はバルツァー様よりライモンド様の護衛をまかされたのです!」

「私からライモンド殿下を奪いたくば、Sランクの冒険者相当の手練れを連れてきなさい。貴殿らがいればかえってライモンド殿下を守り辛くなる。」

あくまで優しく、諭すようにそう言うキュリロス師匠に、警備兵たちは必死に言いつのる。

「我々は足手まといには!」


しかし、いつもは紳士なキュリロス師匠も今夜ばかりは紳士のままではいられなかったらしい。

瞳をスッと細め、一番前にいた警備兵の首に手を添えた。


警備兵だって軍人だから、そう簡単に急所は取らせない。

だが、キュリロス師匠がその首に手を当てるまで、誰一人キュリロス師匠がその警備兵に近づいたことさえ気が付かなかった。

「………狩りの場では、一瞬気が削がれるだけで命取りになるんですよ。貴殿らの中に、一人でも私の動きについてこられるものがおりますかな?」

ピンっと張りつめた空気が辺りを包む。

誰も、指先一つ動かすことができない。

そんな空気を緩めるように、ふっとキュリロス師匠が笑みを浮かべ警備兵から距離を離した。

「と、言うことですので。貴殿らはマリア殿の捜索に加わってください。明日からは私もライモンド殿下とお邪魔しますので、情報を集めておいてください。では。」

警備兵が唖然とし動きを止めているうちに、キュリロス師匠はすっと体を俺の部屋へ滑り込ませさっさと扉を閉じてしまう。

そのままソファのある私室をスルーし、寝室の扉を開けて俺をベッドの上におろしてくれた。


「今回の件、やはりマヤ派が?」

「おそらく。と、言いたいところだけど、正直わからない。」

「と、言うと?」

「母上の側付きはマリアの件を知らなかった。彼女たちはマヤ派の貴族です。俺の周りで何かがあって、それにカリーナ派が関わっていなければ真っ先に疑われるのが彼女たちだ。だから彼女たちの親も自分が何か仕掛ける時は彼女たちに伝えるはずだけど。」

「それがなかった、と。」

キュリロス師匠も心当たりがないか自分の顎に手を当てて思案を始めた。

「キュリロス師匠。グリマルディ家に対抗できる貴族はどれだけいますか?」

「そう、ですな……。カリーナ様のご生家であるベルニーニ公爵家、チェントロ王国の武の部分を担うバルツァー家。このふたつはカリーナ派ですな。あとは西国の流れを汲むロヴェーレ家に、マヤ派の筆頭でもあるカッシネッリ家。マリア殿のグリマルディ家を含めたこの五つの一族がチェントロの五公爵です。それぞれベルニーニが中つ国、バルツァーが北国、グリマルディが南国、ロヴェーレが西国、カッシネッリが東国の流れを汲んでいますね。」

ルドさんは俺が王位を継ぐくらいなら市井に下ると発言しているのを知っているからわざわざマリアを攫う真似はしないだろう。

バルツァー将軍は今回のことでこれだけ警備兵を動員しているし、ボッサは今朝本気で周囲を警戒していた。

今も俺の警備に大勢回すほどマリアを攫った誰かを警戒している、ということは今回の件とは無関係だろう。

グリマルディ公爵家が娘のマリアを攫う理由はないし、やはり犯人はマヤ派の公爵家であるどちらかだ。

侯爵家以下だと、マリアが付き従う理由もなければ、そのあと公爵家から与えられる制裁のリスクが大きすぎる。


だとすればカッシネッリかロヴェーレか。

「こればかりは公爵家に詳しいバルツァー将軍を明日直接問い詰めましょうか。」

「おや、今回はご自身で探らないんですね。」

「酒は酒屋に、茶は茶屋に、ってね。公爵家のことは同じ公爵家に聞くのが一番なんですよ。」


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