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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
幼少期編

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45/140

45話

「い、やいやいや!!!ちょ、ちょっと待ってください!!なんっ、どうしてマリアさんが攫われたことになってるんですか!?たまたま今日遅れてる可能性もあるでしょう!?」

まあ、普段マリアを知らないやつからしたら俺が彼女を知っているということは理由になりはしないのだろう。

でもそんなこと関係ない。

別に王子に生まれたからと言って、俺には平々凡々な前世の記憶もあったしそれを理由に偉そうにしたいとも思えないし、その責任を負えるとも思わない。

だが、今だけは別だ。

マリアは、マリアだけは必ず守ってやらなければならない。

あの人は俺のせいで巻き込まれたから。俺がこの世界で生きていくためのすべてを与えてくれたから。


「ボッサ。」

「は、はい!」

ベッドから降り未だベッドのわきで跪いているボッサの頬を両手で挟み込み上を向かせる。

「これは、お願いじゃない。命令だよ?返事は“はい”か“かしこまりました”のどちらかだよボッサ、お返事は?」

「か、かしこまり、ました……っ。」

俺の言葉にわずかにボッサの声が上ずった。

でも、まあその元気な返事に免じて許してやろう。

「わかったらすぐにバルツァー将軍に事情を話してキュリロス師匠を呼び戻しなさい。言っておきますけど、キュリロス師匠もマリアのことは身内だと思ってる。俺を育てた世話係だからっていうのもありますけど、父上と母上が仲直りするまでは二人三脚で俺を育ててくれたって言っても過言じゃない。バルツァー将軍の判断ミスがこの状況を招いたんだから、代わりに殴られる覚悟はしておきなさいよ。」

「は、はーい………。」


容易に想像できたのだろう。その顔を引きつらせて無理に笑ったボッサをくすりと笑ってから手をその両頬から離した。

「さて。じゃあ俺は身だしなみ整えてくるんで、ボッサはカーテンだけでもまとめといて。ベッドは……そのままでいいかな。」

さっさと移動して寝室の横の衣裳部屋に入り、適当に普段着を選び着替える。

着ていたパジャマは軽くたたんで衣裳部屋においてあるソファに置いておく。

さっさと寝室に戻ると、ちょうどボッサがカーテンをまとめたところだった。

「ら、ライモンド様お早いですね。おひとりで着替えられたんですか?」

少し驚いたような表情をするボッサの腕を通りすがりにひっつかみ、私室の方へと移動する。


「ちょ、ちょっと!?ライモンド様!?」

「今すぐバルツァー将軍の元に赴き、いつからマリアの行方が知れないのか調べますよ。」

「いや、はい。それはいいんですけど!ちょっとは私の話も聞いてください!!」

俺がひっつかんでいた腕を逆に引かれ、その場に立ち止まる。

目線を合わせるように膝を折ったボッサが真正面から俺の目を見つめるので、俺もそれに倣いまっすぐ見返してやる。

「なぜ、そう焦っていらっしゃるのですか。マリアさんは仮にもグリマルディ公爵家の娘でしょう。彼女を害せばグリマルディ家が出てくるのですから彼女が攫われたとしても、そう焦らずともいいのでは?」

「はっ。人をさらう輩がそんな人の道理を守るとでも?なら騎士団と言うのは随分お行儀のいい輩の相手しかしていないんですね。」

その言葉に、俺の腕を掴んでいたボッサの手がピクリと反応した。

「誘拐事件の生存率は時間に依存するんですよ。それが殺人や強姦目的だった場合生存率はもっと低くなる。これが勘違いならそれでいい。でも俺をよく思わない連中が俺を従属させるための脅しにマリアをさらったなら?事件が起こった時点で俺たちは相手の後手に回ってるんだ。焦るのは当然だろう。」


「…………わかりました。ですが本日は部屋にいてくださいよ?キュリロスさんを呼び戻してライモンド様の警護につかせます。なので、マリアさんのことは私たちに任せてくれませんか?」

「なら猶予は二日です。」

ボッサの目の前にピッ、と指を二本立てて見せる。

その本数の少なさにボッサの顔に冷や汗が伝った。

少ない?早すぎる?何とでもいえ。むしろ十分でしょう?長すぎるくらいだ。

「今日と明日の間にマリアを見つけられなかったら、俺も本格的に動くのでそのつもりでいてください。今日は、母上のところにいますから、そこまでの警護をお願いします。明日には必ずキュリロス師匠を俺のところによこしてくださいね。明後日までに見つけられなければ、俺の指示に従ってもらいますので、そのつもりで。」




ボッサの放蕩息子、コジーモ・ボッサになってライモンド様と話をしていて、これほど圧力を感じたことがあっただろうか。

確かに聡明だとは思っていた。

とはいえ、それはあくまで年相応なものだと思っていた。

だが、これは考えを改める必要があるかもしれない。

いったいどこの七歳児が誘拐後の生存率のことまで考えるのか。

子供の時から実際に誘拐に巻き込まれた経験があるのであれば、まあわかりたくはないがまだわかる。

しかしもちろん王族として一度も王宮を出たことがないようなライモンド様にそんな経験があるはずもなく。

「ねえ、何してるの。早くいくよ、ボッサ。」

「あ、ああ。すみません。」

つい考えにふけっていたようだ。

ライモンド様に手を引かれてはっとし、数歩先にいるライモンド様の側に歩み寄る。

「では、マヤ様のお部屋まで私がエスコートします。お手をどうぞ?」

なんて、今までの対応からも断られると思いつつ差し出した自分の手をライモンド様はなんとも素直に握って見せた。


ぎゅっと自分の手を、指先を握ってくるライモンド様の手の冷たさに、指先の震えに気づく。

それに、この子供らしくない子供も、やはりまだ子供なのだとわずかに安堵する。

この子が己の敬愛するジェラルド様にすがれば守ってやれるのに。

仮面を被らず、偽りの身分でもなく、ラシード・ゲルツェンとして。


「…………抱きかかえましょうか?」

「調子にのらないでくれます。今日だけなんですから。」

あー、でも。可愛くはないかな?


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