4話
俺の返事が面白かったのか、くすくすと笑いながらキュリロスさんは立ち上がり、再び城内探検ツアーが始まった。
「そういえば、マリア殿。これからどこに向かうので?」
「あぁ、ソフィア様のお部屋の近くのお庭にお邪魔しようかと思っております。マヤ様のいらっしゃる部屋の前の庭からでは東側しか見えませんので。ソフィア様のいらっしゃる南側のお庭からでしたらノトス連合王国の影は見えずとも雰囲気は味わえるでしょう?」
「そうですな。チェントロ王国からは距離がありますゆえ、ノトスの王都の千年樹の影も見えないでしょうが、あそこの庭の雰囲気は、故郷に似た雰囲気がありますな…………。」
「はい。ライモンド様はお部屋の窓から見えるオスト帝国風の庭園しか見たことがないので。…………マヤ様はライモンド様を王太子にとおっしゃっていますが、私はライモンド様にはご自分で選んでいただきたいのです。ですので中つ国だけではなく東西南北すべての国のことやそのほかの種族のことまで知っていただきたいのです。」
「その意気やまるで母のごとし、ですな。私もその考えに賛同いたします。王太子にはフェデリコ殿下がいらっしゃいますからな。いらぬ諍いの芽は生まぬほうがいい………。それに、たとえこれでライモンド殿下が王太子になったとして、ほかの殿下たちも収まりがつかなくなりましょう。」
どうやら俺の兄弟の話らしい。
王太子、ということはおそらく母がよく負けるなと俺をけしかける兄弟のことだろう。
だけど安心してほしい、キュリロス師匠。俺は王太子争いなんて面倒くさいことをするつもりはさらさらない。
というか殿下たちって俺にはいったい何人の兄弟がいるんだ?
「さあ、ライモンド様!ここが南の庭園でございますよ!」
そう言って連れてこられた庭園は何とも幻想的だった。
まるで巨大なゼンマイのような茎の先に、網状の球体の籠があり、その中にふよふよと光る玉が浮かんでいるのだ。
そして庭園のいたるところに、水の流れる樹がある。
樹の葉の間から水が流れ落ち、その水に光るゼンマイの光が反射する。
そしてそのゼンマイの光と陽の光に照らされた地面には、キラキラと色とりどりの宝石でできた花が咲き誇っていた。
「ふぉおおおおおお!!!」
あまりにも美しい光景に思わず声を上げる。
今まで部屋の庭から見えていた庭とは全く違う。
今までの部屋から見える庭は、緑と石が絶妙に配置され、どこか日本庭園と通じるものがあるような質実剛健な庭だったのに対し、こっちの庭はまさにファンタジーだ。
小さい手を必死で伸ばしてぶんぶん振り回す。
うおおおおお!!触らせろ!!この時ほど自分の小さな手足を呪ったことはない。
「あぶぶ!あう!んーま!!」
「ちょ、ライモンド様!?あぶ、危ないです!!」
「ライモンド殿下!?」
生まれて初めて行う激しい動きにマリアさんは必死に俺をその胸に抱き寄せた。
今日初めて会ったばかりのキュリロス師匠も、先ほどまでとは様子の違う俺に慌てて腕で俺の体を抑え、マリアさんのサポートをしている。
仲がいいな?え、なに?結婚する?
俺二人が結婚するのであれば全力でサポートするよ??
「だあれ?」
そんなことを考えていると、幼い子供の声が聞こえた。
「あぶ?」
「じゃ、ジャンカルロ様!申し訳ございません、騒がしかったでしょうか?」
マリアさんとキュリロス師匠がその場に膝をつき、子供に話しかけた。
「ううん。だいじょうぶだよ。あれ?あかちゃん?」
マリアさんが膝をついたことで俺が視界に入ったのか、その子供が興味津々な表情で俺をのぞき込んでくる。
軽く波打つ柔らかい金の髪。ばっしばしのまつ毛に縁どられたくりっとした瞳は少し青みがかったペリドット色をしている。
これで彼がズボンではなくスカートをはいていたのならば、俺は間違いなく女の子だと勘違いしていただろうが、その着ている洋服や名前から推察するに間違いなく男の子だ。
きっと将来はさぞや美青年に育つのだろう。
「だうあ?」
誰?という気持ちを込めてこてりと首をかしげてそう言えば、その子は目をキラキラと輝かせて俺をのぞき込む。
「うわー!かわいいねぇ!」
さらににっこにこで俺のほうに手を伸ばしてくる。
「ぷにぷにだねぇ!」
嬉しそうに俺の頬をつつき、笑みを浮かべる彼は素直に可愛い。
「きみの あかちゃん?」
「い、いいえ。マヤ様のお子様、ライモンド様でございます。ジャンカルロ様の弟君にございますよ。」
「おとうと!おれの おとうとなの!?」
弟、という言葉にはげしく反応をみせたその子は、いっそう目をキラキラと輝かせて俺を見てくる。
しかし、この子が俺の兄なのか。
俺の兄上顔がよすぎでは??
これは俺ももしかしたらイケメンである可能性があるぞ。
「はい。左様でございますよ。」
「うわー!!ジョンの いったの うそだったんだ!おれにだって おとうといるよね!」
ジョン、というが誰のことかわからないが、また兄弟のうちの一人か?
「あのね!おれはジャンカルロだよ!きみの おにいさまだよ!」
地面に膝をついたマリアの膝の上に両手をついてぴょんぴょんと跳ねながら、おにいさまだよ!と告げてくるお兄様。可愛いかよ。
ショタコンではないがこれはショタに目覚めても仕方がないレベルで可愛い。
「あのね ライだけは おれのこと ジャンってよんでいーよ!ほんとうは ジョンしか よんじゃだめ だけど、ライは とくべつ!」
可愛いかよアゲインだわ。
恐らくジョンと言うのも俺の兄弟の一人なのだろう。
これは母上のこともあってあまり楽しみでなかった兄弟たちとの交流も楽しみになる。
もう俺今日からブラコンになるわ。




