31話
もはや言葉にならずに涙を流すジャン兄様と、唇をかみしめ耐えるジョン兄様。
それをおろおろと見つめるフェデリコ兄様に、アイコンタクトを飛ばす。
(フェデリコ兄様!今です、ジャン兄様とジョン兄様を慰めるんですよ!)
俺にできることはジャン兄様の手を握ることだけだ!今です!心のわだかまりがなくなったジャン兄様とジョン兄様を慰めることができるのはフェデリコ兄様だけですよ!!!
そういう思いを込めてキッとフェデリコ兄様をにらみつけると、目に見えてフェデリコ兄様が狼狽え始めた。
(ほらぁ!!はやく!!!!ここで!抱きしめるんですよぉ!!!!)
(む、無茶を言わないでくれ!!!!私には、むりだ………っっ!!)
(なにヘタレてるんですかぁ!!?ここで俺が慰めても意味ないでしょう!?)
さあ!さあさあさあ!!と、何度も顎でしゃくりながらフェデリコ兄様を急かせば、諦めたのか、意を決したかのように立ち上がりジャン兄様とジョン兄様の方へと歩み寄った。
「じゃ、ジャンカルロ。ジョバンニ。」
本当は前から抱きしめるでも慰めるでもできればいいのだろうが、お茶会でジャン兄様とジョン兄様の前にはテーブルがあるのでそれもできない。
だから俺とジャン兄様とジョン兄様の三人で座るソファの後ろからフェデリコ兄様は兄様たち二人の肩に手を置いた。
涙をたたえた二人がフェデリコ兄様の方へと振り返る。
「………っ。あ、…………その。わ、たしは………、自分の、話をすることは苦手だが、二人のことを、もっと、知りたい………から。たまにでも、構わない。また、こうやって、私に会いに来てくれるか…………?」
「は、はい…………っっ!ぼ、ぼくも、ジャンも、必ずまた、来ます。」
「お、れも…………ッッ。ぜったい、ぜったいに……っ、来る………ッッ。」
フェデリコ兄様の言葉にもう我慢ができなくなったのか、ジャン兄様もジョン兄様も振り返り、フェデリコ兄様の首元に抱き着いた。
「あの、兄上すみませんでした。もう落ち着きました。」
「その、僕も、もう大丈夫です。お恥ずかしい姿をお見せしました。」
人前で泣いたことがよほど恥ずかしかったのか、特にジョン兄様は泣くつもりはなかったようで顔を手で覆っている。
「えー?いいんじゃない?可愛かったよー?お前普段は俺たちにも全然近寄らないし甘えもしないじゃん?」
「アンドレア兄上!あんまり僕たちをからかわないでください!!」
「えへへ。でも嬉しいよねー。おれたちからしたら弟はジョンとジャンとライだけだもん。もっと甘えていいんだよ?」
「うー………っ。オルランド兄上も意地悪です。」
ジャン兄様が俺の体に腕を回し、オルランド兄様の生暖かい視線から逃れようとする。
「今は………、マヤ様が孤立していた以前ほど各派閥の動きが活発じゃない。私たちも派閥の動きに身動きをとれなかった昔とは違う。マヤ様と父の仲が良くなったことでマヤ派の貴族の力は一気に落ちた。今はせいぜい私たち王子を自分の派閥に取り込むために婚約者候補の令嬢を差し向ける程度だ。それも、カリーナ派の貴族で押さえられる。何かあれば遠慮なく頼るといい。」
ベルトランド兄様もまた柔らかい笑みをジャン兄様とジョン兄様に向けた。
「あー。そういえばジャンカルロが今………十一?だっけ?」
「え、はい。そうです、アンドレア兄上。」
「ふむ。ジョンは中等部には進まないんだったな?」
「は、はい。僕は、魔法の才も剣の才もありませんでしたし、音楽の先生は父上が紹介してくださったので。それに、去年はまだジャンの体調が芳しくなかったこともあって学園への入学は見送っています。」
そう、この間話にも上がった学園なのだが、通常中等部は十四歳に上がる年に入学するのが一般的なのだ。
尤も、中等部に入学するにあたって貴族の社交界デビューの年である十二歳以上と言う下限はあるものの、特に上限は設けていないので入ろうと思えば十五歳になるジョン兄様はいつでも学園に入ることができる。
が、ジョン兄様が選択したように、自身で教師役を見つけられるものは学園に入学しないものも多い。
「ふーん。ジャンカルロはどうするの?」
「俺も、まだ体に不安も残るし、学園には入るつもりはないです。」
「じゃあ当分の問題はジャンカルロとライモンドの社交界デビューと、ジョバンニ含めた三人の婚約者の問題だよねー。」
「おや?ライ様にはバルツァーの後ろ盾が付くんじゃありませんでしたっけ?」
アンドレア兄様はルドさんのその言葉に、呆れたような表情を浮かべる。
「父さんはまだ認めてないだろ。しかも、マヤ派が指をくわえて見過ごすわけないって。」
「十中八九、マヤ派もライモンドに嫁をあてがおうとするだろうな。それどころか、ライモンドと仲がいいジョバンニとジャンカルロも自分たちの影響下におこうとするはずだ。」
なにそれ、ものすごく面倒だな?
「出家したい。」
まあ部屋にいる全員から一斉に視線をいただいたのは言うまでもない。




