30話
ジャン兄様とジョン兄様を加えてのお茶会第三弾、開始!
「ジョン兄様もジャン兄様も来てくれるとは思いませんでした。」
「ふふっ。ライと約束したからね。でも、その………。本当に俺も参加してよかったんですか?フェデリコ兄上。」
ジャン兄様が俺の手をぎゅっとにぎり、心配そうにフェデリコ兄様に尋ねる。
それに対してフェデリコ兄様は、よほどジャン兄様から話しかけられたことが嬉しいのか体に力が入っている。
そして、体に力が入っているということは、顔にも力が入っているということだ。
そしてフェデリコ兄様の表情筋は、眉間以外が死んでいるので必然的に顔の険しさが増すのだ。
さて、それを元々フェデリコ兄様のことを苦手としているジャン兄様が見たらどう思うか。
「あ、う………すみま、せん…………っ。」
まあ委縮しますよね。
それを見てフェデリコ兄様がやってしまったと口を開きかけ、何と声をかけるべきかわからず口を閉ざす。そして自らの情けなさに眉間のしわが深くなる。
それを見てジャン兄様はフェデリコ兄様を呆れさせたと顔をさらに青くさせる負のループ。
それを側で見ているジョン兄様も心配そうにジャン兄様とフェデリコ兄様の間で視線をいったりきたりさせている。
「…………。」
「あ……………っ、その、俺…………っ。」
「…………………。」
「…………っ。」
「ええい!!!面倒くさい!!!見つめあったら素直におしゃべりできないのは思春期の男女だけでいいんですよ!!はい!フェデリコ兄様はゆっくりでいいから、思ったことを口にする!!」
終いには泣き出しそうに目に涙をためたジャン兄様を見ていられずにフェデリコ兄様のケツを叩いてやる。
「え!?あ、ちょ、ライッ!?」
慌てるジャン兄様を横目にフェデリコ兄様を叱咤すれば、ごくりと生唾を飲み込んだフェデリコ兄様がその口を開いた。
「その、すまない………。怒っている、わけではない。その、ジャンカルロと、話すことに慣れていないから、何と言ったらいいか…………。」
余計に濃くなるフェデリコ兄様の表情とは対照的に、ジャン兄様の表情はいい意味で驚きに染まる。
それはジョン兄様も例外ではなく、先ほどまでの顔色の悪さが収まっている。
「わた、しは………話すことが、得意では、ない………ので、誤解を与えた。すまない。」
「え!?い、いえ!そんな、フェデリコ兄上が謝るようなことは、」
「駄目ですよ、ジャン兄様。フェデリコ兄様を甘やかさないでください。」
「え、ええ!?」
フェデリコ兄様には、家族位には緊張せずに話せるようになってほしい。
「わ、たしの、ことを………怖がっていることは、知っている。だが、……………できることなら、その、私は………ジャンカルロともジョバンニとも、仲良くしたいと、思っている。」
駄目だろうか?とジャン兄様をうかがうフェデリコ兄様のその手がわずかに震えていた。
それに気づいたのは俺だけではない。
ジャン兄様やジョン兄様もそれに気づき、体にこめていた力をふっと抜いた。
「えっと、俺は、ずっとフェデリコ兄上のこと、よく知らないまま避けてたけど。でも!俺も、兄上とは、仲良くしたい…………です。」
フェデリコ兄様はその険しい顔とコミュ力不足のせいで、俺からすれば情けない姿しか見てこなかったわけだが、ジャン兄様たちからしたらそういうわけでもないのだ。
常に毅然とふるまう王太子。若いながらも父の仕事を手伝うその姿を、体の弱いジャン兄様はどう見ていたのだろうか。
自分の動かぬ体に、日々弱りゆく体にいら立ちと焦燥を募らせながら、国の第一線で活躍するフェデリコ兄様のことをどんな目で見ていたのだろうか。
「……………僕も、フェデリコ兄上のことをよく知ろうともしませんでした。むしろお願いしたいのは僕たちの方です。僕は、ベルトランド兄上のように魔法に造詣が深いわけでもありません。アンドレア兄上のように人と関わることが得意なわけでも、オルランド兄上のように行動力があるわけでもない。ただ音楽を奏でることしかできない僕だけど、フェデリコ兄上の兄弟として、仲良くしたい、です…………。魔法の使えない、半端者ですが………。」
「そんなもの、関係ない。」
ジョン兄様の言葉に声を上げたのは、他でもないフェデリコ兄様だった。
ジャン兄様もジョン兄様も、ある意味俺と一緒の境遇だった。
俺は母上のことがあり周りから遠巻きにされていたが、ジャン兄様もジョン兄様も半端者、混ざり者として周囲からは蔑まれていた。
王族ゆえに直接誹られることはなくとも、ジャン兄様もジョン兄様もそれに気づかないはずもなく。
俺が生まれるまでに、ジャン兄様とジョン兄様はそれぞれ自分の生き方を見つけていたため、そこまでの葛藤を俺は知らないし、兄様たちも俺に見せようとはしなかった。
「確かにノトス連合王国の亜人と人との間に生まれた子供が半端者と呼ばれていることは理解している。だが、それとこれとどう関係がある。私の家族がジョバンニとジャンカルロ、お前たち二人であることにかわりはない。たとえ、他の誰がお前たちのことを出来損ないだと誹ろうとも、私がそれを理由にお前たち二人を兄弟と、認めないわけがない…………。」
フェデリコ兄様がちゃんと話せていることに感動すればいいのか、その内容に感動すればいいのか。
しかし、ジャン兄様とジョン兄様にその言葉は響いたようだった。
ずっと、フェデリコ兄様のことが苦手なのはその顔と言葉足らずなせいかと思っていたが、本当の理由は自分が半端者であると言う後ろめたさだったんだろうな。
「う、ん………っ。うん、フェデリコ兄上……っ。おれ……っ、ずっと、兄上たちと、」
俺の手を痛いほどに握り締めその瞳に涙を浮かべた。
瞬きをすると、ジャン兄様の長いまつ毛にふれた雫がその頬を伝った。
ジャン兄様とは反対側に座っていたジョン兄様も、涙こそ流さなかったもののその目を潤ませている。
正面に座るフェデリコ兄様たちを見ると、どうしていいのかわからずおろおろと視線をさ迷わせていた。




