26話
とりあえず震えるマリアの手から紅茶のカップを回収し、その手を両手で包む。
「市井に下るのは最終手段だから、今のところはその予定ないから。」
正直王族の兄様たちの前でいち使用人のマリアを優先するなんて普通ならやらないほうがいいのだが、兄様たちはそんな狭量じゃないので気にしないこととする。
「あと、俺マリアの結婚相手見るまで安心できない。それとキュリロス師匠の結婚相手も気になるしすぐには市井に下れって言われても絶対に下らないから。」
「…………ねえ、それならそのマリア?が結婚しなかったらお前ずっとここにいてくれるってこと?」
アンドレア兄様がちょっと悪い顔をして笑うので、そこは釘を刺しておく。
「それを理由にマリアの結婚を邪魔したら俺アンドレア兄様のこと一生恨みますから………。もっとも、マリアを嫁にもらうっていうならアンドレア兄様の用意する障害も何もかも全部乗り越えられるような男じゃないと渡したくない。」
「ライ様ってマリア嬢のことほんと好きなんだねぇ。」
「当たり前ですよ。俺の年齢さえ問題なかったら俺がマリアをお嫁さんに欲しいくらいです。」
「ライモンド様………………ッッ!」
ルドさんが茶化すように言った言葉に対し、俺が返した言葉を聞いたマリアが感極まったように口元を抑えて頬を染めた。
あれだよ、ちっちゃい子供が『おねーちゃんとけっこんするー』て言ってるのと同じことだよね。
特にマリアは俺が生まれた十八歳の時からずっと一緒だったわけだし、感動も一入だろう。
「…………グリマルディ。あなたは確か公爵家だったな。今婚約者は?」
「え!?あ、あの、今はおりません。その、マヤ様のこともございましたし、ライモンド様が成長成されるまではと父に断っていただいておりました。」
フェデリコ兄様の言葉に、マリアはおどおどしながらもはっきりと答えた。
その内容に申し訳なくなる。ごめんね、俺のせいで婚期逃してるじゃん。余計にマリアの結婚は俺が何とかしなければという気持ちが強くなるよね。
「君は今二十四だったな?ライとは…………、十八歳差か………。」
「フェデリコ兄様、それ以上言ったら怒りますよ。憧憬と思慕の念は別物です。俺とマリアの婚約とか進めようものなら二度とお茶会きませんよ。」
「そ、そうか…………っ。」
図星だったのか若干顔を青ざめさせた。
「というより、グリマルディとの婚約を進めればバルツァー家が黙っていないぞ。」
「あー………。確かに。レアンドラちゃんだっけ?確かライモンドと同じ年のお嬢ちゃんいたよね。バルツァー将軍は怒るだろうねぇ。」
「え、何それめんどくさい。」
やっぱり市井に下るべきか?
眉間にしわを寄せた俺に、考えていたことが分かったのかベルトランド兄様ががっしりと肩を掴んできた。
「いいか、ライモンド。お前が何を考えているのか大方見当はつくが、何が起きても私が守るから、早まるんじゃないぞ。」
なにそれ、ベルトランド兄様かっこいい。
「そうそう。こいつだけじゃ心配だから俺も協力するって。だからさ、ライモンドは俺たちに守られててよ。」
なにそれもかっこいい。きゃー、アンドレア兄様かっこいー。もっと言ってー。(棒)
「まあそれはどっちでもいいんですけど。えっと、レアンドラ嬢?って俺の婚約者になるんですか?え、俺婚約者いるんですか?」
何それ初耳だよね。
というか、前世がある自分からしたら、精神的ロリコンか身体的熟女好きかの究極の二択だよね。
精神的にも年を重ねるごとに体に引っ張られることが多くなったから、そこはあまり深く考えないようにしよう。
「うーん。今のところバルツァー将軍のレアンドラちゃんが有力候補じゃないかなぁ。まぁ、マヤ派の貴族が今後どうするかにもよるだろうけど。」
俺との会話を続けるなかで、俺が今すぐにどうこうする気がないと察した兄様たちは再び優雅にお茶を飲み始めた。
そしてその会話の内容に嫌な予感しかしない。
「うわっ。やっぱ派閥とかあるんですか。」
「そりゃあるに決まってるだろ。王宮なんて貴族と貴族のマウントの取り合いだって。魔物がいる限りそれが理由で戦争に発展することはないだろうけど、それでも権力欲しさの連中はいるものだしねー。」
「ちなみに、今の主流はフェデリコの母君であるカリーナ様派と、ライ様の母君であるマヤ様派の二つだよ。」
ルドさんが後ろから注釈を入れてくれる。え、本当に母上の派閥とかあるの。せいぜい取り巻き程度だと思ってた。
なにそれ、母上派閥動かす器量ないよ?
「つまり母上は派閥のお飾りトップ?」
「迷いもなく自分の母親を飾りだと判断するその姿勢は嫌いじゃないぞ。」
「えぇー。だってベルトランド兄様も母上にそんなことできないってわかるでしょ。無理ですよ。だってあの母上ですよ?」
そう、あの母上だ。頭お花畑で、口下手で、未だに恋に恋するような母上だぞ?
人の上に立つとか絶対に無理でしょ。
「母上派の貴族は俺を上に立たせて実権を握りたい。カリーナ様派の貴族は俺を取り込んで駒にしたいってことですよね。うわ、なにそれめんどくさい。」
「…………ライの口から駒なんて言葉は、聞きたくなかった。」
「諦めなよ、フェデリコ。ライ様がこんな感じだってことは知ってたでしょ?ライ様に下手な幻想抱かないほうがいいんじゃない?」
なんかルドさんが失礼なことを言っている。
コメントで次男の名前表記の指摘があったんですが、正しくはベルトランドです
最初期から表記間違えまくっててベルトランド様に土下座したくなりました
しかも、自分の中であれ?ベルトランド兄さんの名前間違ってる?って気づいたの最近っていうね……っ!!
設定書いたメモ見返して気づいたわっ!!
最近は気をつけて書いてるのに、それでもなお間違えるポンコツっぷり!!
ごめんね、ベルトランド兄さん……_:( _ ́ω`):_
そしてありがとう、コメント
初めの方の表記ミスは、追々直していく……
時間が……、ある時に……っ
指摘、批判、応援全てのコメントが私の糧です
誤字報告してくださる方々には本当に感謝の念でいっぱいです
今後ともよろしければお付き合いくださいませm(_ _)m




