25話
「あ、これオストの帝都で今話題のやつだよね?俺、これ気になってたんだー。」
「マリアが!俺のマリアが用意したんですよ!」
「マリアってその子だよね?確かお前の侍女だっけ?」
ようやく椅子に座って紅茶を飲み始めると、マリアがフェデリコ兄様の侍女に渡したケーキが提供された。
外交官として各国の流行に敏感なアンドレア兄様が目ざとくそれに気づいたので、すかさず側に控えているマリアをプッシュしておいた。
俺の侍女は世界一!
先ほどまで言い合いをしていたアンドレア兄様とベルトランド兄様だが、もともと性格があわないようで、言い合うことはしないがお茶会中も視線でけん制しあっている。
「その、ライは、学園に入ったらどの学部に進むのか、もう考えているのか?」
「うーん。悩んでいるんですよね。」
「なに?魔導士科じゃないのか?」
実際に学園で教鞭をとっているベルトランド兄様が驚いた様子を見せる。
それはアンドレア兄様やフェデリコ兄様も同じだったようで、同じく驚いたようだった。
と、その前に、この世界の教育制度について説明しておこう。
まず教育には三段階ある。
簡単な算術や、この世界、あるいは自分の暮らす国の基本的な歴史、一般教養を学ぶ初等教育。
将来就きたい職に特化した魔術や技術を学ぶための中等教育。
最後に、学園で働くことを前提とし、また自身の専攻していた学問を究めるために研究者となるためのノウハウを学ぶ高等教育。
初等教育、いわゆる初等部は、下級貴族や平民で家庭教師を雇う余裕のないもの全員に解放されている。
初等部はよっぽどの田舎でもない限り必ず通える範囲に一つは設立されている。
そして、初等教育相当の学力テストをクリアしたものが進む中等教育を受けられる教育施設のことを学園と呼ぶ。
中等部のある学園は初等部と比べても規模がでかく、五大国にひとつずつしかない。
その中でも最も規模がでかく、在籍する生徒、教授の数も多いのがチェントロ王国にある学園だ。
一般的に、学問を修める教育施設だけではなく、生徒や教師の居住区、学園に必要なものを買う商業地区なども併設されており、それらすべてを含めて一つの学園という扱いになる。
そして、そう言ったすべての施設を含んだその地域を学園都市と呼ぶのだ。
高等教育もこの学園で受けることとなるのだが、それは置いておこう。
そしてこの中等部と呼ばれる教育段階では、魔導士科や騎士科、商業科などがある。
その中の魔導士科、特に魔法論理学の授業で教鞭をとっているのがベルトランド兄様というわけだ。
今現在この王宮での共通認識として、ベルトランド兄様とお茶会を重ねる俺は魔法に興味があるというものらしい。
だから兄様たちは驚いていたわけだ。
俺も魔導士科に通うことも考えたのだが、魔導士科の履修内容はすべてベルトランド兄様に教えていただいたので、改めて講義を受けるまでもない。
というか、ベルトランド兄様とのお茶会の内容がそっくりそのまま講義内容とかぶるのだ。
「魔法については今もベルトランド兄様とのお話で十分内容はカバーできますので。どちらかと言うと、学園に入ったら騎士科に通おうと思っていますよ。」
「騎士科、か…………。まさかとは思うが、前に言っていた市井に下る話、本気じゃぁないだろうな…………?」
俺の言葉に、前回、といっても数日前の話を覚えていたフェデリコ兄様が、ただでさえ険しいその顔に追加でしわを刻んでそう言った。
それにアンドレア兄様やベルトランド兄様はもちろんのこと、そばで給仕をしているマリアや部屋の入り口で警備をしていたキュリロス師匠も目を見開いた。
「え、ちょ。うそでしょ!?お前王族抜けるの!?」
「ま、まて、ライモンド。どうして市井に下る話が出てるんだ。何があった。」
心なしか顔を青くしている二人にはあいまいにほほ笑んでおく。
アルカイックスマイルだ。肯定も否定もしない。
正直そのあたりは今後どれだけ俺の周りが面倒くさくなるかによるよね。
そんな二人よりも顔色を悪くさせているのがマリアとキュリロス師匠だ。
流石に兄様たちの前で俺を問い詰めるなんていうことはしないが、それでもマリアの手は可哀そうになるくらいぷるぷる震えている。
「マリア。まだ俺が市井に下るって決まったわけじゃないからね?」
「え、あ…………っ。はい。」
正直兄様たちは男性だし、まあ俺が原因ではあるんだけど、わざわざフォローする必要を感じない。
というか、兄様たちはたとえ俺が市井に下っても家族だと言ってくれるという自信がある。
でも、マリアは女の人だし、俺が王族じゃなくなったら確固たるつながりが消えるしね。
だから俺がフォローするのはマリアだけだ!
この場合俺は何コンになるんだ。
マリアは俺を育ててくれた母親感はあるけど、気持ち的には姉って感じだし。
シスコン?マザコン?
いや、マリア限定だからマリアコン?




