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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
幼少期編

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18話

「やあ、僕のライモンド。今日は珍しいね。ライから僕に会いたいって言ってくれたのは初めてじゃないかな?」

部屋に入ると、すかさず父上が両手を広げ俺を抱き上げ顔じゅうにキスをしてきた。

やめろー!べたべたする!!

「ち、父上!俺もうそんな子供じゃないです!」

しかしそうはいっても俺は子供なので、あくまで子供らしく父上の拘束から逃れ出る。

「…………父上。ライモンドは話があるのでしょう?」

「ん?ああ。そうだったね。さ、ライモンド。あまり時間は取れないがゆっくり話をしよう。なんて言ったって初めてライモンドが自ら僕に会いに来てくれたんだからね。」

父上の政務を手伝っていたらしい長男のフェデリコ兄様に促された父上が穏やかな笑みを浮かべて俺に席に着くように勧めた。

円形のテーブルを囲んでちょうど向かいに父上が、右側にフェデリコ兄様が座り紅茶を嗜む。

「それで?何か話があったんだろう?お父様に話してごらん?」

「はい。単刀直入に言いますが、いい加減母上ときちんとお話ししてください。」

ギチッ!っとフェデリコ兄様の持つカップから悲鳴が上がった気がするが、気にしないでおこう。

この人はどれだけ強い握力しているんだろう?

しかし、父上の表情も硬くなったことから、母上と父上の関係のことは禁句のようだった。

「し、しかし。マヤは私のことを、あー……。よく、思ってないんだよ。」

悲しそうな、諦めたような笑顔を浮かべる父上を鼻で笑う。

「片腹痛いですよ、父上!母上のツンデレを理解していないなんて、それでもハーレムの主ですか!?」

「は、はーれむ??」

ビシィッ!っと父上に指を突き付けてやる。

「つんでれ…………?」

フェデリコ兄様も父上もぽかんとあっけにとられた表情を浮かべていてちょっとかわいい。

「そうですよ!この、すけこまし!!いったい何人の女性を誑し込んできたんですか!?母上のツンデレなんて可愛いものでしょう!!」

「す、すけこまし!?誑しこむなんて………っ!ライはいったいどこでそんな言葉を覚えて来たんだい!?」

「ええい!そんなものどこでもいいでしょう!?羨ましいんですよ!いろんな美女を侍らせて!父上じゃなかったら女の敵として切り捨ててますよ!うらやまけしからん!!」

「ら、ライモンド!?」

焦ったような声を上げる父上の言葉を無視して、テーブルに半ば乗り上げてペチンッと父上の両頬を自分の手で挟み込む。


「母上はね!父上のことが好きすぎるんですよ!!」

瞳がこぼれそうなほど父上は目を見開いて驚いているが、そんなことはどうでもいい。

「母上は父上のことが好きすぎてうまく言葉が出てこないんですよ。見つめあうと素直におしゃべりできない病にかかってるんですよ。それを!経験豊富な!!父上が!!!くみ取らずしてどうします!?なんで権力なんぞにこれっぽっちも興味のない母上が俺を王太子に推し始めたのかとか考えたことありますか!?」

「い、いや………。彼女は、祖国が好きだから、」

「はいブブー!母上は、父上が本当に好きなんですよ。だから自分の黒い髪と、父上の緑の目を持った俺が殊更かわいく見えただけですよ………。俺を王太子に推せば、本当に俺が王太子になったら父上は俺に会いにくるでしょう?だから母上は俺のことを王太子にしたがったんですよ。たとえ父上が、自分のことを好きじゃなくても、会うための口実が欲しかったんですよ…………。」

どうやら話している間に下を向いてしまっていたらしい。

父上の頬を挟み込んでいた自分の両手を取られたことで、すっと顔を上げると、父上が優しい顔でほほ笑んでいた。

「ライ。今、マヤが部屋にいるかわかるかな?」

「う、うん。今日は、何も予定がないって言ってたから、部屋にいると思う。」

「じゃあ、お父様と一緒に会いに行こうか。でも、まだ怖いからライも一緒についてきてほしいな。いいかい?」

「……………うん。」


息子とは言え、たった六歳の子供の戯言だ。

それに耳を傾けてくれる父上には感謝しかない。

子供の言うことだと捨て置かれてもしょうがないと思っていたのだが。

「フェデリコ。マヤのところに行ってくるけど、お前はどうする?僕たちと一緒に来るかい?」

「………いえ。父上は家族のこととなると殊更時間を忘れがちですので。ここで先に執務を進めておきます。」

呆れられたのだろうか、フェデリコ兄様はふぅっとため息をついた。

「あの、フェデリコ兄様。すみません。」

「………………かまわない。」

いやそれ絶対構わないっていう表情じゃないでしょ。

むすっと眉間にしわを寄せた状態で構わないって言われてもいまいち信用ができないんだが。

それでも送り出してくれる辺り人がいいね。

これ幸いにと父上が俺を抱き上げて頭にキスをしてくる。

「ふふふっ!ライを抱っこするなんて久しぶりだなぁ。すっかり重くなってしまって………。国王と言う立場に不満はないが、こう子供の成長を日々感じることができないのは寂しいね。」

「父上でも寂しいと思うのですか?」

「そりゃそうさ。妻も、カリーナがいればいいと思っていたのに、アナスタシアが来て、ソフィアが来て、マヤが来た。そのたびに大切なものが増えてね。彼女たちのためにも国を安定させようとすればするほど、忙しくなって会う時間は少なくなる。その結果、こうやって私は大切なものを見落としている。そういう時、いつも僕はいったい何のために生きているのかと、不思議に思うことがあるんだ。ライにはまだ難しい?」

今まで会うたびにキスをするただのキス魔だと思っていたのだが、どうやらその考えを改める必要があるようだ。

少なくとも、キスをすることは父上にとって重要なスキンシップの一つだったんだろう。

ただのキス魔じゃない。いや、キスしたいだけって言うのはあるかもしれないけど。

「俺は、父上より母上の方が好きです。一緒にいた時間が長いですし。」

「そ、そうだよねぇ……。」

はははっ。と乾いた笑いをこぼす父上の頬に、自分からキスをすると、虚をつかれたように父上はぽかんとした表情を浮かべた。

「でも、父上のことも好きですよ?少なくとも、俺は父上が俺たちのために頑張ってくれてること、知ってますし。それがどれだけ大変なのかも、わかってるつもりです。」

「…………僕の息子が天使かもしれない。」

そう言ってぎゅうぎゅうと俺を抱きしめる父上の腕の中が暖かくて、俺はそれに甘えるように父上の首に腕を回して抱き着いた。

中身うん十歳のおっさんの行動と思えば痛いが、幸運なことにも今の俺は六歳のショタだ。

うむ、問題ない。


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