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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
留学編

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138/140

138話

「いや、それ考えてるやつアホなのでは⁇」


 いや、途中までは真剣に言葉を探していたがもう俺としてはそれしか言えん。あほか? あほなのか⁇ 頭が痛い。

 普通に考えてなんで五大国同士の均衡を崩そうとするの? 世界は戦争をお望みなの? 

 地球でも常任理事国の均衡が崩れたら世界を巻き込んだ核戦争が始まるかもとか中高生でも考えればわかるでしょ。

 オストとチェントロでも同じだよ。なんでどいつもこいつも両国の血を引く俺とかいう核爆弾を頭に据えようとするんだよ。今までの慣例通りで他に道もなくて苦肉の策とかなら俺だって文句はそこそこに真面目に頑張るよ? だって慣例通りなら前例ないしそれようの法なりなんなりがあるってことでしょ。細かいところは臨機応変にしなくちゃいけないとしてもおおまかにはそのルール通りに進めれば影響少なく治めることができるからね。

 でも、今までの慣例にないのにそんな博打みたいなことやって国ともども共倒れしたらどう責任取るの? 学級会で済む問題じゃないんだよ⁇ 

 考えれば考えるほど頭が痛くなってきて思わず頭を抱えた。

 というか、その自分の立場を理解していない浅慮なヤツって俺の母上だよね。知ってた。 母上は永遠の少女だからしょうがないね。母上は正妃ではなく側妃として後宮でお茶しているのがすごくお似合いな人だから。

 けなしているのではなく、事実として。そう思ったら、母上ってカリーナ様たちに迎え入れられた今が最高の状態なんじゃない?

「わぁ、おほしがきれいだなぁ(現実逃避)」

「ふ、ふふッ」

「………何わろてんねん」

 唐突にわけのわからないことを言った俺を従兄はギョッとした顔で見てきたが、俺が心底あほらしそうな表情を浮かべているのを見て、思わずと言った様子で笑い出した。

「い、いや……っ。君が突然そんな顔でおかしなことを言うから……っ」

 従兄の笑いのツボに入ったのか、くすくすと笑い続ける従兄をじと目で見る。

「気軽にどうぞって言った俺が言うのもなんですけど、だいぶ態度というか対応砕けましたね」

「ふふっ。ああ。君は私に媚びへつらう気が微塵もないだろう? 君は私が皇太子だろうがどうでもよさそうだ。興味がない、のとは違うようだけど。こんな扱いは初めてで、少し楽しい」

「あー、そう」

 笑いは収まったようだが、なおも機嫌よさそうににこにこと笑みを浮かべる従兄殿から顔を逸らして再び塩湖の方に視線を向ける。

「それにしても、なぁんでそんな馬鹿なこと考えるやつがこんなに湧くんでしょうね。どう考えても頭足りてないでしょう。そもそも七番目が学園入学のこの時期に表に出てきてないんだから、七番目にその気がないことなんてわかるでしょうが。捕らぬ狸の皮算用っていうか。七番目の支持も得てないくせにいっちょ前に派閥名乗って甘い汁啜る夢見てんじゃねぇよ。仕事しろって感じ」

 思わず口も悪くなるってもんだ。

 そんな阿保みたいな理由で明らかに指導者に向いている従兄を殺す計画って何?

 え、チェントロ王宮内ではそんな物騒な話聞かなかったけど、え、オストが物騒なだけ? 

それともチェントロ王宮内でもフェデリコ兄様暗殺しようとしてた馬鹿いたの? 俺が知らないだけ?

 そもそも、従兄殿が死んだとして俺絶対オストの皇帝とかならないし。俺は核爆弾の自覚があるんで厄介ごとの気配しかしないオストなんかに行かんが? 何が何でもチェントロ国内にとどまるが?

 とんでもない爆撃を従兄殿からくらって頭を抱えたまま唸っていると、当の本人が楽しそうに俺の腕をつついてくる。

「ねぇ、トラヌタヌキの皮算用ってなに?」

「んー? あー、えっと。まだ手に入らないうちからそれをあてにしてあれこれ計画立てるって意味だったかなぁ。七番目を捕まえてもないのにヴィルヘルム殿下さえ亡きものにしちゃえば第七王子殿下が喜んで、しかも無知なまま皇位について自分たちだけは将来甘い汁吸えるんだって思い込んでるじゃん」

「トラヌ……、あぁ。捕らぬか。……タヌキって?」

「狸は、えぇっと……。ラクーンドックかな」

 いつだったか流し読みした本の内容を思い出しながらそう返すと、従兄は興味深そうに笑みを深めた。

「君は面白い言い回しをするね。でも、ラクーンドックは魔獣とはいえ捕まえても対した金にならないから、飛竜 くらいがちょうどいいんじゃない? あれも一応王家に連なるものだから、それなりに価値のある魔物に例えてあげないと」

 前世の慣用句をそのまま流用しただけだったんだけど。でも、従兄の言葉を聞いてなるほどそちらの方がこの世界ではわかりやすいかと感心する。

 狸の知名度の低さとこの世界での価値の低さに納得し一つ頷いたところで、再び従兄から腕をつつかれた。

「なに?」

「君は、旅の最初にアメットにも面白い言い回しをしていたね。なんだったかな、聞くより見ろ、みたいな」

「あぁー? 百聞は一見に如かず?」

「そう、それ。あれも、今の捕らぬ飛竜もそうだけど。面白い言い回しだ」

「そう、か……。そういえば、そうだよなぁ」

 あんまり考えないで言ってたけど、そう言えばこれは『俺』の方の慣用句だったか。

「……やっぱり、残念だ。君が私の部下になってくれればとどうしても願わずにはいられない」

 こうやって何も気負わずに雑談するだけなら寧ろ話しやすいんだけど、皇太子モードの従兄と接するのは疲れるから嫌だな。

 そんな俺の気持ちは如実に表情に出ていたのか、また従兄がおかしそうに笑みをこぼす。

「私の勧誘でそんな顔をするのは君くらいだな。あぁ、でも本当に残念でならない。君みたいに言葉を選ばず本音で接してくれる相手は少ないんだ」

「そりゃ皇太子殿下だからしょうがないでしょ」

「わかっているさ」

 初めよりもよほど砕けた態度の従兄が、だが。と言葉を続ける。

「こうやって、城を離れて周りに護衛もいない状況で誰かと愚痴を言い合うことがもうできないのだと思うと、無性に寂しさを覚える」

「あー、皇太子ですもんね」

「君が素直に私に引き抜かれて護衛にでもなってくれれば君の勤務中に愚痴をこぼせるのだがな」

「うっわ、勧誘に余念がない。他あたってくださーい」

「残念だが、私だって誰でもいいわけじゃないんだ。まぁ、諦めろ。君がすでに仕える主を決めていると言うのであれば、その主以上に私に仕えたいと思わせる。君が折れるまで勧誘を止める気はないさ」

「それとっても迷惑かもー」


 しばらくそうやって軽口を叩き合っていたが、不意に互いに口を閉じる瞬間が訪れ静寂が訪れた。

 野営の準備をして夕食を取り、その後ここで随分二人で話し込んだ。 

 西国までの旅路はまだ明日からも続くのだから、さっさとテントに戻って休んだ方がいいということはお互いにわかっている。

 それでも、戻れば他の者の目があるから今のようにお互い好き勝手軽口を言うことができない。

 それを心惜しく感じているのは何も従兄だけじゃない。俺だって、この従兄とこんな風に話せたことを楽しく思っていた。

「ちなみに、アメットさんの前であんたにこんな風に話しかけたらどうなります?」

「君には自殺願望でもあるのかい?」

「あー、だよねぇ」

 あの人の殺気怖いんだよなぁ。

 それに、ウルリカさんも許さないだろうし。旅路の食を握られてるから、毒でも盛られたらどうしようもない。

 まぁ、あの二人がそんな浅慮なことをするとは思はないけど、それを覚悟するくらいには殺気を向けられそうな気がする。

 ガシガシと髪をかき乱して浅くため息をつくと、従兄が俺にすっと手を差し出した。

「だが、私はまた君とこうやって話がしたい」

「それ、結局俺がアメットさんとウルリカさんに睨まれるやつじゃないですかぁ」

「私から差し出した手を取らぬ方があの二人は怒ると思うがな」

 ハッとして焚火の方を盗み見ると、アメットさんとウルリカさんは二人並んで微動だにせずじっとこちらを伺っている。

 え、いつからこっち見てたのあの二人。怖すぎない?

 俺が言葉を失っていると、従兄は得意げにクッと口に端を上げて笑う。

「話を、してくれるな?」

 いっそ命令すればいいのに、あくまで俺が断りにくい状況を作っておいて、それでも問いかけてくるあたりが嫌らしい。

 せめてもの腹いせに思いっきり手を振りかぶって、差し出された手に自分の手のひらをぶつけてパンッ! と音を鳴らしてやった。

 いきなり手のひらをはたかれたことに目をぱちくりとさせる従兄に、今度は俺が手を差し出して待つ。

 慣れないコミュニケーションに戸惑う彼に、さっさと俺の手を打てと顎をしゃくると、遠慮がちに、しかしちゃんと音が鳴る程度の強さで俺の手のひらを打つ。

 そのまま今度は軽く肘を曲げて逆の手を胸の前あたりに持ってきて、次はぶつなよと軽く指を曲げて彼の手を待つ。

「……なんとも、ユニークな握手だな」

 そう言って俺の手を握った従兄の腕を引き、肩同士を軽くぶつけてそのまま離れる。

「明確な名前はないけど、シークレットハンドシェイクとか言うらしいよ。ま、お遊びの一環ってことで」

 それだけ言って体の向きを変えてさっさと焚火のあるや野営地へと足を進める。

 少し遅れてパシャパシャと塩湖を波立たせながら、従兄が俺のとなりに追いついた。

「これ、他の人にはやらないでよ。やるとしても、さっき俺がやったのとは違うやり方にしてよ」

「ああ、わかった。でもなぜ?」

 すっかり皇太子の仮面をかぶった彼の肩を軽く拳でつついてから口を開く。


「これが俺とヴィル専用のサインだから」


 俺の言葉にヴィルは面白いくらい目を目開いて、そのまま歩みも止めてしまった。

 ずっとやられっぱなしだったが、ようやく最後に一矢報いることができた。

 俺は立ち止まらずに後ろ手にヴィルへ手を振る。

「まぁ、友達ってことで。サインの順番忘れないでよね」


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― 新着の感想 ―
本来は身分差もないし、なんだかんだ将来はいい友達になれそうだな……よかったよかった(^^)
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