124話
昼食中の話のテーマ俺がセフェリノさんとの戦闘中に使った魔法の内容だ。
「じゃあ、その付与魔法はボウヤが作って使い始めたばっかりの新しい魔法なのね!」
「はい。研究の半分以上はベルトランド先生の助手のオリバーという友人が担ってくれているので、俺がやっていることと言えばアイデアを出すぐらいですが」
「謙遜しなくてもいいのよ。そのアイデアを出すことが一番難しくて一番大切なことなんだから」
ヴァレンティナさんは流石魔導士科のサポート教員と言ったところか、魔法の話をしていても理解が早い。
「ライ、その魔法をアメットに教えることは可能か?できれば帝国軍に入隊してもらいたいが、まだ学園に入学したばかりの君を引き抜くことはできない。君に目をかけているクロヴィスとベルトランド様にも顔が立たない。だが、その魔法があれば今まで苦戦していた魔物との戦いも楽になる」
従兄殿も貴族コースとはいえ魔法を学ぶ魔導士科の生徒として、また将来一国を率いる皇太子として俺の想像以上に熱心に話を聞いてくる。
「そう、ですね。将来帝国に属するかどうかはともかく、オッキデンスまでの旅の間にアメットさんに教えるくらいなら喜んで引き受けますよ」
それにしても。
「……旅の途中とは思えないほどご飯がおいしい」
「光栄です」
思わずつぶやいた俺の独り言を拾ったウルリカさんが頭を下げる。
「一か月も馬車旅だって言うから正直干し肉とパンの生活が続くものだとばかり……」
「ヴィルヘルム様にそのようなお食事を提供する訳にはいきませんので」
「ヴィルヘルム様が自分だけそのような食事を食べるわけにはいかないとおっしゃってもいけませんから」
「息ぴったりですね」
「「双子ですので」」
「お、おう…………」
本当に息ぴったりだ。
「それにしても、クロヴィスとベルトランド様が気にかけているだけのことはある」
「ヴィルヘルム殿下。どうでしょう、以前うかがっていた魔法を試用する際にこの少年にも協力を頼むというのは」
「魔法の試用というと、カフェテリアで伺ったあの件ですか?」
魔法スクロール。そのプロトタイプの試用実験。以前ベルトランド兄様と一緒に話を聞いた時は、俺は気にせず自分の身だけを守れと言われたが。
「そうだ。君さえよければスクロール実験の際に協力を頼もうか」
「もちろんです」
むしろ願ったりかなったりだ。
「アメット」
「はい。現在プロトタイプとして試験利用にまでこぎつけたスクロール魔法は、属性の付与された障壁魔法の魔方陣です」
障壁魔法。読んで字のごとく、魔力によって壁を作る魔法だ。通常は魔方陣を描いた範囲に無属性の魔力による障壁が展開され、結界のようにバリアが張られるものだが。
「属性付与、ということは籠城するための結界というよりも隔離するための障壁といった意味合いが強いのでしょうか」
「その通りだ。既存の魔法障壁はスタンピード発生時や、魔物からの襲撃が起こり得る場所で安全地帯を確保するためのものだろう。だが、スクロールはそもそもスタンピードの際に魔物の討伐率を上げるためのもの。市民の安全を守るためというよりも、戦闘中に魔物を障壁内に閉じ込め、あわよくばダメージを与え、帝国軍が態勢を立て直すためのものだ」
「今回使用する付与魔法の種類は?」
「地水火風の四元素」
「頭上への障壁展開は?」
「今回のスクロールは壁を作るだけのものと思ってくれ」
「範囲は?」
「スクロールを中心とした十メートル四方だ」
十メートル四方の属性の壁。確かに魔物を隔離して体制を立て直すためにはいいかもしれないが、果たして実戦でどこまで役に立つだろうか。
頭の中でゲームのように魔物との戦闘をシミュレートしながら考える。いや、そもそもこの世界の魔物がどう動くか俺は実際見たことがないんだから、どれだけ考えても無駄か。
考えていても仕方がない。ともかくやってみてトライ&エラーを繰り返すしかないか。
「…………何か案でも思いついたかい?」
「え?」
「ずっと何か考えていたようだったが」
セフェリノさんとの手合わせを見て、従兄殿は俺を随分買ってくれているようだ。
「いえ、そもそも俺は魔物と戦った経験もないので。実際に対敵してみないことにはなんとも」
「それは残念だ」
本当に残念に思っているのか。
従兄殿は、あまり自分を見せない人なのだろう。こうやって面と向かって話をしても、従兄殿が何を考えているのかあまり伝わってこない。




