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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
留学編

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122/140

122話

 意識を再び武器を構えて向かいあうライとセフェリノの方へと向ける。

「だが、イバニェス伯爵。ライはあのクロヴィスが私に直接引き合わせた人物だぞ」

「だとしても彼はまだ十三歳の子供でしょう。経験が違います」


 確かに、長年冒険者としても農家としても魔物をその身ひとつで相手取ってきたセフェリノにライがそうやすやすと勝てるわけもない、が。


「彼はベルトランド様が世話をする魔導士でもあるらしい。そこはどう見る?ヴァレンティナ」

「そうですね、確かにボウヤの使う魔法は面白かったですわ。今までアタシたち魔導士が使ってきた魔法とは違う独自の魔法を使います。それも、よく知識のない子供がやるような魔力まかせの魔法じゃなくて、どこにどう魔力を作用させるのかを理解した独自魔法です。まだ魔方陣や呪文にできていないだけで、精霊に出す指示を頭の中できちんと理解しています。もっとも、セフェリノとの戦いの中でそこまで冷静に考えて精霊に指示を出せるかまではわかりませんけど」

「なるほど」

 今回の留学に期待などなかった。だが、彼の実力によっては、大きな拾いものになるかもしれないな。

「始まるぞ」


 ライとセフェリノの戦いはやはりセフェリノ優勢で始まった。

 学園入学の年齢としては最低ラインである十三歳での入学。

 体もまだ出来上がっていない経験も浅い子供と大人の手合わせなのだ。当たり前だ。

 セフェリノもオッキデンスの学園に所属しているサポート教師としてライの実力に合わせて武器を振るっている。


「やはり、この勝負セフェリノの勝ちでしょうな」

「あら、でもイバニェス伯爵。あのボウヤ、まだ魔法は身体強化くらいしか使ってないわよ?」

「だが見ろ、ヴァレンティナ。あの子、セフェリノの手加減した攻撃をいなすので精一杯じゃないか」

 イバニェス伯爵とヴァレンティナとの会話に耳を傾けながら、アメットに声をかける。


「お前はこの勝負どう見る、アメット」

「あの少年、まだ手を隠し持っているようですので、なんとも」

「ほぉ……」

 意外だな。従軍経験のあるアメットがあの少年を存外 高く評価している。

「カフェテリア の時や、荷物を移し変えた時もそうですが、彼は自分の能力や思考を隠すことの必要性と有用性を知っているようでした」

「なるほどな」


 確かに、ベルトランド様といた際に彼と少し言葉を交わしたが、私の言葉の裏を読むことに長けていると感じた。

 それは同時に彼自身も言葉の裏に真実を隠すことができると言うこと。

 そして、それは真意を隠すことに有用性を感じていなければしないことだ。

 また、馬車で私の荷物を魔法で動かす彼を窓越しに見ていたが、彼と目があった時彼はその視線の交わりが意図的に作られたものであることに気が付き表情をこわばらせていた。


 まぁ、クロヴィスの教え子ならば当然か。

 シュワルツチャイルド公爵家はオスト皇族に仕える黒い盾。竜に追随する鷲と狼。

 我が帝国軍を辞したとはいえ、あのクロヴィスが教え子が我がオスト帝国に礼を失するような教育をするわけがない。


「おや、セフェリノがそろそろ終いにするようですよ」

 イバニェス伯爵の言葉の通り、息を荒くして 剣先も下がったライにセフェリノは決定打を与えるようだ。

 ここで倒れるのか、否か。 

「今、ボウヤが何か魔法を使ったみたいだわ」

 私にはわからなかったが、魔導士として活躍するヴァレンティナは魔力の揺らぎを感じ取ったのかそうつぶやいた。

 やはり、ライは何か仕掛けるつもりなのか。

 まだまだ未熟なライに合わせて手加減したとはいえ、確実に彼を沈めるつもりでセフェリノが放った一撃をライは難なく受け止めて、さらに先ほどまでは避けることができずに受け止めざるを得なかったスピードの攻撃を軽々と避けて見せた。


 思いがけない彼の対応に私だけでなく他の三人も息をのむ。

 一度攻撃をいなせたからといって、もはやライも体力の限界。

 ここからどうやって反撃をするのか。


「一体彼は何をしたんだ!」

 イバニェス伯爵がそう叫ぶのも無理はない。セフェリノの眼前にライが手をかざした途端、セフェリノの動きがおかしくなった。

 ライに追撃を加えることもできず、彼の攻撃を避けることもできず、背後から膝裏を蹴られただけであっけなく地面に転がった。


「チェックメイト」




 イバニェス伯爵とヴァレンティナはもちろん、私やアメットだって本当にライが勝つだなんて思っていなかった。

 できてもセフェリノに一撃浴びせるくらいだろうと。

 だというのに彼はAランク冒険者にこの上ない敗北を突きつけたのだ。

 自身の腕と能力だけで勝ち得るAランクという称号がどれだけの意味を持つのか知らないわけでもあるまいに。そんな彼から勝利の二文字をもぎ取った。


「アメット」

「はい、ヴィルヘルム様」

 生まれて十五年、常に私の側にいるアメットが心得たと返事をする。

 今回の留学に期待などなかった。それなのに。


(従弟によく似た名前の学生か。オスト帝国民の血を引いているようだし将来私の下についてくれれば、従弟を中心に広がる波紋を止める手立てになるやもしれん)


 我が祖国のため。この大陸のため。


(いや、詭弁に過ぎないな)


 久しぶりに胸が高鳴る。 

 かつて、まだクロヴィスが帝国軍にいたころ。スタンピードを起こした魔物から帝都を守るために立ち向かった誇り高き竜騎士団を見た時のような。

 英雄の誕生に立ち会えたような、そんな感覚。

 皇族としてじゃない。国のために生きる公僕としてじゃない。ただの十五歳の子供に過ぎないヴィルヘルムとして。

「久しぶりに欲しいものができた」


 私はあの少年が欲しい。


「彼のことを調べろ」


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