104話
混合魔法の研究に協力することを条件にベルトランド兄様の研究室でオリバーに神聖文字を教えて貰ってたわけだが、実際にはあまり俺に意見を求められることはなかった。
オリバーのいないときに、こっそりライモンドとしてベルトランド兄様に訳を尋ねてみたところ。
「弟が勉強する時間を確保することくらい私にもできる」
と、少しむっとした表情で言われてしまった。
俺の兄様世界一!
それに、魔法研究の第一人者として、騎士科の俺に毎回意見を求めることはほかの教授陣もプライドが許さないらしい。
なので、各魔法分野の教授たちが、あくまで休憩の体をとってベルトランド兄様の研究室を訪れ、俺と話すようになった。
俺としても、混合魔法に携わる色んな分野のプロフェッショナルの話が聞けて知識を蓄えられる。
で、たまにシロー、アルトゥール、オリバー、俺の四人で、魔導士と騎士混合パーティーの戦い方を試してる。
一向にアルトゥールとオリバーの仲は良くならないが、そこは年上のオリバーが折れたりシローが潤滑油の代わりを務めて何とかなっている。
学園生活が充実する一方、俺が骨董品屋ジューノに顔を出すことはほとんどなくなった。
「あ! ライさん!」
「ジュリア、久しぶり」
何度かオーナーのジュゼッペさんとヴォリアさんと一緒に仕入れ業者の人と話したが、それ以降俺が店に出る日はめっきり減った。
「最近全然ライさんと会えないので、私寂しいです……」
シフトはヴォリアさんが決めているので、形ばかりの店長であるジュリアにどうにかできるはずもなく。 俺の出勤日数は月に二、三回程度にまで減らされた。
まぁ、今の経営状況から、ジュリアにジネブラさんと二人暮らせるだけの給料渡して、さらに今や経営の要になっているヴォリアさんに給料を出してたら、俺を雇う余裕ないよなぁ。
「今まで私やおばあちゃんを支えてくれたのはライさんなのに……」
ぷくりと頬を膨らませて不満をあらわにするジュリア。
「まぁ、正直こうなることは想像できてたけどねー」
ジュゼッペさんの意向で、やはり家具などに関しては取扱数を縮小。
今後入荷するかはどうかは売り上げしだいとなった。
アンティークの取り扱いは小物類に限ることになり、メインの収入源はやはり魔石だそうだ。
フラディーノでは魔物の核と安価な魔石、ジューノでは質の良い魔石を取り扱うことで事業のすみわけをするらしい。
あとは、ジューノで雑貨の買取も始めた。 仕入れの業者からではなく、客から直接安価で買い取り、店の一角をセカンドハンドショップ化する。
それで、学園都市の一等地、雑貨屋フラディーノで提携店舗として骨董品屋ジューノを宣伝することで来店数も増えた。
とはいえ、経営的には今までのマイナス分も含めると経営状況は芳しくない。
「俺も辞め時かなぁ」
客が途切れたふとした瞬間にそうぽつりと言葉を漏らす。
俺としても収入がそんなにないのにここで続ける意味がない。
「ライさん、もう会えないんですか……?」
そばで、俺の言葉を拾ったジュリアが泣きそうな顔で俺を見つめる。
「いや、辞めたとしても魔石とか買いにまた来るよ? それに、友達と会うのに理由いる? 会いたくなったら遊びに行こうよ」
笑ってジュリアの頭に手を置いて、髪をわしゃわしゃと撫でまわす。
「もう! 私そんなに小さい子供じゃないんですから!」
俺の手から逃れたジュリアが乱れた髪を整える。 不満そうにぷくりと頬を膨らませるジュリアのそのしぐさが、妹のエルフリーデと重なる。
とはいえ、エルフリーデは五歳でジュリアは十四歳くらいだから失礼かもしれないけど。
「でも、そっか……。 私たちお友達ですもんねっ!」
「そうそう。 それに、どうせ次の学期は俺留学に行くから店出られないしねぇ」
「え!? そ、そうなんですか!?」
「言ってなかったっけ?」
さすがに雇ってもらってる立場だから、オーナーのジュゼッペさんとシフト管理してるヴォリアさんには伝えたはずだけど。
だからジュリアにも伝えてた気になってた。
「うん。 とりあえず今月出勤したらあとは休み貰ってるよ。 次の学期までの休みは実家に帰らないといけないから」
バルツァー将軍とレアンドラ嬢のことを話したいし。 今は平民のふりをしているとはいえ、王族が留学に行くのだ。 国同士のいろいろあるしね。
そんな話をしていると、カランと店の扉を開ける音がし、ジュリアは接客に向かった。
実家、というか王宮に帰る理由はもう一つ。 留学先の話。
ミューラー先生からは特に留学先の国がどこという話まではまだできておらず、留学先は決まっていない。
まぁ、どの国に留学に行くとしても、王族の俺が留学に行くので国の上層部にはその旨を伝える必要がある。 たとえ俺が平民を装っていてもね。
多分、ミューラー先生はオスト帝国出身で竜騎士だし東の国を勧めてくるだろうけど、俺にはどうせ留学に行くのであれば行きたい国がある。
「オルランド兄様元気かなぁ」




