103話
「え、何その表情」
俺がアルトゥールの反応に怪訝な表情を浮かべていると、逆にシローやオリバーからあきれたような表情を向けられた。
「ライ………。 ほんま君って人たらしやんなぁ……」
「まぁ、でも彼からしたら嬉しいんじゃないのか? それだけ必要とされるなんて、それが騎士だとしても魔導士だとしても最高の誉れだろう。 しかも、魔法を使うライと仲がいいってことは実力も認めているんだろう?」
「そうそう。 ほんま素直とちゃうから悪態ついとるけど、最近はライの魔法のバフやっけ? それで戦えんくて機嫌悪かったから反動で余計うれしいんちゃう?」
「あぁ………。 確かに、ライの思考回路は今までの考えと全く違っているから、話すのも、新しい魔法や戦法を実践するのも楽しいからね。 僕だって正直ライが留学に行っている間新しい魔法の話ができないのは面白くないからね」
シローに俺の知らない講義中の自分の行動を暴露され、さらに心の機微をまだ認めてないオリバーに解説され、哀れアルトゥールはその顔を真っ赤にしていた。
それ以上はアルトゥールの精神衛生上やめて差し上げて!
「あぁ、なるほど」
合点がいったと言わんばかりに、オリバーが手を打った
「ライと話せなくて寂しかったのか」
何とか持ちこたえていたアルトゥールが机に突っ伏した。
「自分は話せないのに、隣に僕がいたからあたりが強かったのか」
や、やめて差し上げろ!! アルトゥールのライフはもうゼロよ!!
突っ伏したままプルプル震え始めたアルトゥールに、俺もシローもいつこいつが暴れだすのかはらはらと見守ることしかできない。
「………………そんなんじゃねぇ」
そんな俺たち二人の心配とは裏腹に、言い返すアルトゥールの声は弱弱しかった。
「そんなんじゃねぇけど」
突っ伏したまま、少し頭を動かしそっぽを向く。
「………二年飛び級だと。 俺様もシローも」
アルトゥールらしからぬ静かなその話し出しに、俺も思わず動きを止める。
「だからよォ。秋学期が最後だったってのに、留学なんかに行きやがって。 そのうえ留学に行くまでは魔導士科で魔法の勉強だァ?」
アルトゥールがわずかに身じろぎ、そのまま机の上から俺をにらみつけた。
「お前が言うパーティーとして、シローとお前と一緒にまた戦うのはいつになるんだよ。 コラ」
中学生か!? いや、アルトゥールを十四歳と仮定するなら十分中学生か。
今まで、俺も体が縮んでアルトゥールやシローが大きく見えてた分、無意識のうちにこいつらのことを大人と同じ扱いで見てたけど、そういやこいつら『俺』からすると十分子供だったわ。
俺としては、最悪学園で一緒にパーティー組めなくても、卒業してからパーティー組めばいいと思ってた。
でも、そうだよなぁ。 この年の頃って一日一日で精いっぱいで、五年後十年後の話なんて自分に関係ない遠い未来の話だよなぁ。
「まぁ、俺が留学行くにしろいかないにしろ、シローとアルトゥールが飛び級するならどっちにしろパーティー組むのは卒業後だろ?」
普段なら絶対気持ち悪いって怒られるだろうけど、アルトゥールの頭の上に手をのせる。
「どうせパーティー組めないなら、俺は次お前たちと組むために強くなりたいんですが? お前じゃないけど、どうせ戦うなら少しでも強い相手と戦いたいし。 お前たちを勝たせてやりたいし」
しばらくアルトゥールの頭をぽふぽふ撫でてたら、ペイっと叩き落とされた。
「腕落としてたらぶっ殺す」
「こっちのセリフなんだけどー?」
依然こちらをにらんでいるものの、機嫌を直したアルトゥールに向かってこぶしを突き出すと、応えるようにアルトゥールもこぶしを突き合わせてきた。
「じゃあ、お前が魔導士との共闘の感を落とさないために、俺がいない間はオリバーと協力しろよ」
直後、食堂にアルトゥールのブチギレた怒声が響き渡った。
あ、ちなみにオリバーには事前に承諾済みです。




