101話
「早速で申し訳ありませんが、ライ・オルトネクの今後の話に戻っても?」
ミューラー先生が話の軌道修正をし、俺たちも各々聞く態勢に入る。
「先日から魔導士科の教授陣に混合魔法に関してライ・オルトネクの意見を聞きたいと申し出がありましたが、彼自身の騎士科としての進捗が芳しくなくお断り申し上げておりました」
「話は聞いている。 せめて二年目の秋以降、オルトネクの体が出来上がってからという話だとな」
俺の知らない間にそんな話になっていたとは知らなかった。
「はい。 ですが、実は今年の秋には彼に国外への留学を勧めようと話が上がっていまして」
「え、俺も初耳なんですが!?」
思わず聞き返すとミューラー先生はこともなげに、言ってませんからねぇ。 と言った。
「期間は?」
「一年ほど。 ですので、次彼が生徒として学園に戻るのが、当初予定していた二年の秋になります」
「あと数か月で私たちの研究とそちらの要求をこなせと?」
「無理を言っているのは百も承知です」
さすがのベルトランド兄様の眉間にも深いしわが刻まれた。
横でそれを見ていたオリバーは心配そうに俺や先生たちの顔に視線を向ける。
しばらく難しい顔で何やら思案していたベルトランド兄様が、不意に俺とオリバーの方へ視線を向けた。
「オルトネクが留学に行くまでの間、彼は私の研究室で預かっても?」
「週に一度私のもとに戻していただければ」
それを聞くなりベルトランド兄様は立ち上がり、俺に対して手を差し出してきた。
「今日から私はお前の教師であり、共同研究者になる」
「改めまして、ライ・オルトネクです。 よろしくお願いします、ベルトランド先生」
「では、私は別件で動かなければいけませんので、これで失礼しますね。 ベルトランド教授。 あとはよろしくお願いいたします」
「みゅ、ミューラー先生! ありがとうございました!」
ベルトランド兄様と軽くそのほかの細かい決まりを話した後、ミューラー先生は改めて俺に向き直った。
「ライ・オルトネク。 急ぎ足にはなりますが、自分の将来のために、自分のなりたい騎士の形に近づけるように頑張りなさい」
俺を激励するように軽く肩をたたいて今度こそミューラー先生は研究室を後にした。
「ひとまず、君の話を先に聞こう。 私が君に聞きたいのは、ウッドと私に話した混合魔術に関して。 君は対価として私に何の知識を望む」
「オリバーからだいたいのことは聞いたのでは?」
「把握してはいる。 だが、間に人が入れば入るほど事実からは湾曲して伝えられる」
改めて直接話を聞きたいと言うベルトランド兄様に、俺の騎士科での戦い方を告げる。
「つまり、俺は魔導士と騎士。できればそれもある程度ジョブに多様性のあるパーティーを作りたいんです」
これは前回から騎士科の講義では少しずつ実現しようとしていることだが、前衛職と後衛職の導入。
パーティーの盾、敵からの攻撃を一身に受け、仲間を守るタンク。
これは体力があり装甲に自信のある者、もしくは敵のヘイトを買いつつ攻撃を回避する俊敏な者が適任だ。
次に回復職。これは騎士科よりも魔導士科の、特に白魔法が使えるものが望ましい。
パーティーの回復を一身に担うことになるので、全体を回復できるだけの力量があることは大前提として、全体を見て把握する能力が必要になる。
後はタイプの違うアタッカーが二人ないし三人欲しい。
一人は物理攻撃に特化したアタッカー。
これは手数で攻めるアルトゥールのようなタイプでも、圧倒的パワーでねじ伏せるシローのようなタイプでもいい。
もう一人は魔法攻撃に特化したタイプ。
魔物でも魔法防御が高いタイプと物理防御が高いタイプとあるから、アタッカーのタイプは必ず分けたい。
最後に、物理も魔法も使える万能型。
スキルの伸ばし方によっては器用貧乏になりかねないが、俺が目指すタイプがこれ。
某RPGの勇者がこのタイプじゃないかな?
で、問題は魔導士も騎士も互いが一緒のパーティーで戦うことをしようとしなかったから、互いをカバーしあうような魔法がない。
その魔法をずっと考えていたわけなんですが。
「どのような効果の魔法を作るかは考えているのか?」
「はい、もちろんです。 今、騎士科の実技講義で使用している魔法を中心に、オリバーが考えてくれている魔法を少しずつ実戦に組み込んでいこうかと思っています」
「今まで詠唱や魔方陣はどうしていた」
「そこは、こう。 想像力でカバーをしてました」
王宮で魔法を教えてもらっていた相手なので、少し気まずくなり視線を逸らせる。
ベルトランド兄様は俺が南の庭園でやらかしたことも知っているので、表情が険しい。
「なるほど。 魔法の基礎自体はできているのか?」
「基礎的な魔法とその魔方陣や詠唱と言う意味ではできます」
すべて王宮でベルトランド兄様とキュリロス師匠に教えて貰ったことだ。
「なら、君に必要な知識は、魔方陣や詠唱の構築に関する知識というわけだな。 私が直々に教えても構わないんだが、ウッド」
「は、はい!」
横で静かに話を聞いていたオリバーがびくりと体をはねさせた。
「書庫から神聖文字の本を。 それから、基礎的なことはお前が教えなさい。 人に教えることもまた学びだ」
「はい!」
「今日は混合魔法に関してはひとまず考えなくていい。 ウッドもオルトネクも、オルトネクの魔法知識の向上に努めるように。 明日からは時間を分けて研究と講義を行う」




