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第七王子に生まれたけど、何すりゃいいの?  作者: 籠の中のうさぎ
学園編

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100/140

100話

慌てて口を噤んでも、時すでに遅し。

口からこぼれ出た言葉は相手の耳に届いてしまった。

顔を見るのも気まずくてスッと自身の飲むティーカップに視線を落とし、言葉を紡ぐ。

「いえ、忘れてください」

「いいえ。忘れられませんわ」

力強いレアンドラ嬢の言葉にハッと顔をあげれば、強い意志の宿った空色の瞳に射貫かれた。

「貴方様の許嫁にと、望んだのは他でもないわたくしですわ。ライモンド様のお立場も全てではありませんが理解した上で、貴方様を支えたいと思いましたの。わたくしは今も、貴方様からのお許しが頂けるのであればそう在りたいと、思っておりますわ」

たかだか十三歳のお嬢さんにこうまで言われていつまでも逃げるわけにはいかないよねぇ。

いい加減、俺も彼女との関係をはっきりさせなければ。

「今度、一度バルツァー将軍ともお話しをさせて頂きますね」

まだ学園にいる間はそれを理由に結婚も許嫁ものらりくらり躱せるだろうけど、卒業したらそうもいかなくなる。

ならば、レアンドラ嬢のような人は俺にとっては好都合かもしれない。

自分で言うのも微妙だが、惚れた弱みに付け込ませてもらおう。

だけど、できる限り気持ちは返すつもりではいる。

全く。なんで俺みたいなのに惚れ込んだの。

俺は利用しかしてやれないのに。

「そろそろ屋敷まで送りましょう」

「ありがとうございます、ライモンド様」

 好きとか嫌いとか以前に、彼女にはできるだけ誠実でありたい。


◆◆◆◆◆


レアンドラ嬢と話をしてから数週間。

 俺はミューラー先生に連れられてベルトランド兄様、改めベルトランド先生のもとを訪ねていた。

「ほぉ。 それで混合魔術の話をする代わりに実戦魔術の開発を私に手伝え、と?」

片眉をあげてそう言うベルトランド兄様。

 混合魔術に関して話がしたいと招待は受けていたとはいえ、今回は俺の魔法の詠唱に関して教えを乞うためのもの。

 だから、わざわざベルトランド兄様の研究室に足を運んでいるわけだが、部屋の奥からおそらく混合魔術研究に参加しているオリバーが心配そうにこちらを見ている。

 学園では学園外の身分を原則重視しないということになっているが、そうは言っても一国の第二王子。

 普通ならオリバーのように顔を青くさせたり固まったりする人が多いようなのだが、ミューラー先生は割と落ち着いて話ができているほうだ。

「ええ。 ベルトランド教授がお忙しいのも理解しております。 ですが、この子は、武道一辺倒の私が言うのもなんですが、魔法にも精通しております。 その才能を伸ばさずに捨ておくことは、一教師としてできません」

 そう言うと、ミューラー先生は俺を後押しするように背に手を回してくれた。

 普通ここまで一生徒のために尽力してくれるだろうか。

 ミューラー先生からしたら、周りの生徒と比べて時期尚早。 筋力も体も出来上がっていない、かといってセンスが突出しているわけでもない。

 それだけでも俺に教えるのに手が取られるのに、さらに俺はミューラー先生どころか学園にいる教師陣が誰も手を出していない武術と魔法を本格的に融合させようとするし。

 それでもあきらめずに、それどころか俺のやりたいことができるようにこうしてベルトランド兄様に話を通してくれる。

 その嬉しさにかすかに頬が緩んだ。

「話はそこのウッドからも聞いている。 彼が研究の合間に楽しそうにノートに新しい魔法を書いていたのでな。 こちらも彼を通してオルトネク、だったか? 彼の魔法への適性や知識はある程度把握している。 魔法の発展につながるのであればこちらとしても願ったりかなったりだ」

半身を引いて、俺とミューラー先生に部屋の中へ入るよう促したベルトランド兄様。

 軽く会釈をしながらベルトランド兄様の研究室に足を踏み入れるミューラー先生の後に続いて俺も足を踏み入れる。

「よかったな」

ベルトランド兄様の横を通り過ぎるその一瞬、前を歩くミューラー先生に聞こえないくらいの声量で俺に声をかけてくれた。

 反射的にベルトランド兄様の方を振り返ると、ベルトランド兄様は優しく微笑んでいた。

 思わず足を止めてしまったが、ベルトランド兄様は自分の研究室の扉を閉めるとすぐさまその表情を戻してしまった。

「ライ・オルトネク。 どうしました?」

 先に部屋の奥に進んだミューラー先生が不思議そうに尋ねてくるので、俺も軽く頭を振り気持ちを切り替える。

「いえ、なんでもありません」

「二人ともそちらのテーブルに。 ウッド、お前も茶の準備を済ませたらこちらにこい」

 慣れたものなのか、その指示にオリバーは迷うことなく部屋の奥へと下がった。

「従者の方などは連れてないんですか?」

 ふと気になりそう尋ねた。

「この研究室には魔力のある者が不用意に触れると誤作動を起こしかねない研究途中の魔法陣がいくつもある。 私の教え子で認めたものならともかく、そうでもない者をうろつかせるわけにはいかないからな」

 ベルトランド兄様が椅子に腰かけてから、その向かいにミューラー先生と俺も座る。

 そのタイミングで奥から紅茶のセットを持ってオリバーが戻ってきた。

「紅茶など多少質が落ちようとも、目も当てられないような出来だとしても、私が最低限叩き込めばいいだけの話だ」

 オリバーが淹れた紅茶を口に含みそう言い切ったベルトランド兄様。

 反射的にオリバーに目をやれば、相当しごかれたのか遠い目をしていた。

「はは……。 紅茶を淹れるのには今後苦労しなさそうです」

 そう言ったオリバーが全員分紅茶を淹れ終わると俺の隣の席に腰かけた。

「え、オリバーこっち?」

「ベルトランド様の隣に座るなんて恐れ多すぎるんだよ……っ!!」

 胃のあたりをさするオリバーには同情しかない。

 でもな、オリバー。 お前の隣の俺も実は王族なんだよ。

 見てみろよ、正面のベルトランド兄様のあの微妙な表情。

 絶対俺と同じこと考えてる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「なんで俺なんかに惚れたの?」分かってて言ってるじゃないの? レアンドラが幼少のよく物を分かっていない時分に 王子の立場で見た目もいいとくりゃ、んでキザなセリフで誑し込んだんだだろ。中身おっ…
[良い点] はわわわわ 常識人かはこの際置いておいて(見過ごしかもですが、結局あれ以来出てないですけどポチを飼ってる訳ですしw) ライオネルが婿になってくれるのはとても嬉しいですね!!! バルツァー将…
[気になる点]  将来、最初冷たくした学友が王族の一員とわかったら土下座しそう(笑)
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