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白い姉御と白い使徒

 それから、2日ほど馬車で走った。街まではかなり遠い事はちゃんと分かっていたから、それなりに時間が掛かるであろうことは理解していたんだけど、どうやらその道のりは随分暇になるらしい。ちなみに、街まではあと半日も走っていれば辿り着ける筈だ。


 一応、ここまでで魔獣も出て来たけれど、それもリーシェちゃんが出ればどうにかなる程度の相手だ。彼女のレベルアップの為にも、雑魚魔獣は彼女にやって貰った。今の所、リーシェちゃんが一番ステータスが遅れてるからね。精神的な原因があったんだろうけど、やっぱりレベル1からやり直せないのは痛いんだろう。


 というか、僕はレベル1に何度も戻ってる訳だけど、他人には出来ないのかな? もし出来るようなら、リーシェちゃんも本来のステータスを取り戻せると思うんだけどなぁ。

 まぁ、僕の固有スキル『初心渡り』の詳細が分かれば、それも分かって来るだろう。多分このスキルが原因だからね、僕がレベル1に戻るの。


 それで、姐さんだけど、彼女は旅の道中で色んな話をしてくれた。例えば、追い掛けてくるゴブリンから妹と二人で全力逃走を繰り広げたり、川で水浴びしていたらスライムに纏わり付かれたり、色々と大変な目に遭っているらしい。

 ちなみに、この世界のスライムはエロい行動はしないらしい。普通にその身体から出ている酸で肉を溶かして養分にするとのこと。うーん、残念。


 それで、あの後。レイラちゃん達が起きたから、姐さんを紹介した。

 とっつきやすい姐さんの性格上、僕やリーシェちゃんとは結構距離が近い。だからだと思うけれど、それを見たレイラちゃんが、直ぐに僕と姐さんの間に割りこんで腰を下ろした。頬を膨らませながら僕の腕に自分の腕を組んで、責める様な視線で僕を見て来た。

 いやそんな目で見られても困るよね。だって僕とレイラちゃんって恋人って訳じゃないし、嫉妬するのは勝手だけどね。


 で、現在。それ以来レイラちゃんは、僕達と距離の近い姐さんに対する警戒心が強い。僕が取られると思っているのか、それとも単に距離が近いから嫉妬しているのか、まぁどっちもだろうけど。一応姐さんには、僕とレイラちゃんが恋人ではない事を言ってある。勘違いされたら困るからね。


「レイラちゃん、姐さんが来てからなんでそんな不機嫌なの?」

「分かんない、でもなんかもやもやするの!」

「へぇ、だからずっと引っ付いてるの?」

「駄目?」

「暇だから別に良いけどね」


 レイラちゃんは姐さんが来てからずっと、僕の隣に引っ付いている。食事や休憩の時は流石に離れるけど、その間も僕と姐さんを見ている。なんとなく気持ちは分かるけど、随分と人間らしくなったなこの子。

 まぁ、姐さんの方はそんなレイラちゃんを見て、なんとなく察したんだろう。苦笑しながら僕と少しだけ距離を置いてくれる。今は一緒に旅する仲間なんだし、無駄に事を荒立てるつもりはないってことなんだろう。一つしか違わないのに、随分と大人だ。流石姉御肌。


 とはいえ、まだ僕への感情を上手く理解出来ていないレイラちゃんには、嫉妬という感情も良く分からないんだろう。説明するのはまぁ簡単なんだろうけど、なんか嫌な奴っぽいからしない。

 だって、君は僕の事が好きだから、他の女の子と話してると嫉妬するんだろう? なんて言いだす男、どうなんだ? 凄い嫌な奴っぽいじゃないか。


 レイラちゃんと恋話出来る友達が出来れば良いんだけどね。


「……」

「……はぁ」


 まぁそれはただの願望でしかない訳だ。隣で頬を膨らませたままのレイラちゃんの機嫌が収まる訳でもない。フラストレーションを溜めると、この子の場合暴走する気がするから厄介だよなぁ全く。


「レイラちゃん、あと半日は暇なんだし……ほら、膝枕してあげるから機嫌直して?」

「……本当? ……うふふっ♪」


 とりあえず、膝枕で機嫌取り。オルバ公爵の一件の時とか、ニコちゃんのお守とか任せたけど、結局あの後膝枕してあげてなかったし、これ位は良いだろう。元々、レイラちゃんは御褒美目的でお願いを聞いてくれたんだし。

 レイラちゃんのふわふわの頭を撫でながら、片手で瘴気のお手玉をする。暇な時間は幾らでもあるんだ、ちょっとでも自分を磨かないとね。


「仲良いなぁお前ら」

「ん? ああ姐さん、まぁレイラちゃんは構ってあげないと後が怖いからね」

「ッハハ、親離れ出来ない子供みたいだな」

「まぁ、以前はもっとヤバかったけどね」


 なんせ人を食べる為に地の果てまで追い掛ける勢いだったからね。危うく殺されるところだったし。

 ていうか、僕がレイラちゃんから離れて他の女の子と付き合ったとして、その時レイラちゃんはどうするだろう? ちょっと考えてみたけど……うん、まず相手の女の子死ぬよね。その後僕も殺されるか殺されかけるかしそう……怖いなもう。


「もっとヤバかったって……ッハハハ! 随分な甘えん坊だったんだな」

「むぅ……私はそんなに子供じゃないよ? ね、きつね君?」

「あーうんそうだねー、甘えん坊どころじゃなかったもんねー」

「…………」

「あっ、ちょっ、分かった、分かったから! 叩くな! 君の攻撃力半端ないんだから!」


 レイラちゃんの同意を求める声に、僕は眼を逸らしながら棒読みで白々しく答えた。すると、それが不満だったのか無言で叩いてくるレイラちゃん。軽く叩いているつもりだろうけど、君の攻撃力は僕の耐性値を大きく超えるんだから、結構痛いんだぞ。僕じゃなかったら死んでるぞ!


 とりあえず、僕の腿に頭を乗せながらも、むくれてそっぽを向いてしまったレイラちゃん。機嫌取りが逆に機嫌を損ねてしまった様だ。まぁ、頭を撫でていればレイラちゃんのことだ、ころっと機嫌が良くなるだろう。


「そういや、この子供は御者のおじさんの子供か? 母親は?」


 すると姐さんが、自分の胡坐の上に座るニコちゃんを見て、そう聞いてくる。この2日で、どうやらニコちゃんはレイラちゃんだけではなく、姐さんにも懐いたらしい。まぁ、姐さんはかなり人柄の良い人だから、子供にも好かれやすいんだろう。

 僕の方が付き合い長いのに、解せないな。僕もニコちゃんに膝の上に乗って欲しいなぁ。手を繋ぐことくらいしかしてないよ、僕。いやロリコンとかじゃないよ? 守備範囲広いだけで。


「ニコちゃんって言うんだ、確かにヒグルドさんの娘だよ。母親は亡くなってる」

「……そっか、まだちっさいのに災難だったなぁ。ニコ、か、笑顔みたいで良い名前だ」

「……ふぉりあ?」

「フロリアな、お前みたいな奴にも似合いそうだな、この名前」


 ニコちゃんをぬいぐるみみたいに抱き締めながら、姐さんは快活に笑う。子供にも優しいのか、余計良い人だなぁ、まぁどうでも良いけれど。でもこうなると、妹さんは凄い我儘な子だったりするのかな? 姉が優しいと妹は我儘になるとかどっかで読んだことがある気がする。


 妹さんと会いたい度がちょっと下がった。


「あ、ちなみにその子滅茶苦茶嘘吐きだから気を付けてね」

「お? ッハハ! お前嘘吐くのか? ちっさいのに賢いんだな!」

「……嘘なんて吐かない」

「それ嘘じゃん、絶対嘘じゃん。何、僕にだけなの? 嘘吐くの僕だけなの? 虐め?」


 とまぁ、こんな会話をしながら、僕達は馬車に揺られていた。姐さんも、早々にこの空気に馴染んで、特にこれといった脅威もない平和な旅路だったね。レイラちゃんの性教育授業が一苦労と言えば一苦労だったけどさ。


 それからしばらくして、僕達は次なる街―――『ラグーン』へと辿り着く。 




 ◇ ◇ ◇




 一方その頃―――勇者一行は、桔音達がラグーンへ辿り着く前日に次なる街へと辿り着いていた。街の名前は『フォランス』、工業都市である目的地の国が近いからか、やはりグランディール王国よりも多少武器の質が良い。

 その日の内に、凪は一般的な普通の剣から多少質の良い剣へと乗り換えた。元々、酷使してきた故に使っていた剣はボロボロだったのだ。打ち合いの中で刃毀れしていたし、丁度乗り換え時期だった。


 まぁ、聖剣や魔剣と呼ばれるクラスの代物よりは数段質が落ちるのだろうが、それでも下級の冒険者には手が出せないレベルの剣だ。金があるというのは、やはり得だ。

 そして、その日は宿を取って移動時の疲れを癒した。特に行動するわけもなく、次の日以降の活動に支障が出ない程度には休むつもりだったらしい。


 そして、現在。勇者達はその街の冒険者ギルドへ向かっていた。今の目的は、魔王を倒す前に勇者の力を付けること、ギルドでのランクを上げて、Aランクの魔族とまではいかなくとも、Aランクの魔獣程度は倒しておきたい。

 ルルとフィニアも勇者のパーティとして依頼達成には協力するようだが、やはりどこか距離があるのは否めない。


「えーと、ルルちゃん、とフィニアさん?」

「何? 勇者さん」

「あ、と……まぁ今日はよろしく」

「うん。一応戦闘には協力するし、方針も無茶なものじゃないなら口出ししないよ」


 そしてギルドへ向かう途中の道中で、凪はフィニア達に歩み寄ろうとしていた。というより、このままだとチームワーク的にも支障がでるだろうと思っての行動だ。

 その言葉に対して、フィニアはそう答えた。拒絶している口調ではないが、一定以上の距離からは近づこうとはしない様子だ。


「よろしくおねがいします、勇者様」

「あ、ああ! よろしくな!」


 ルルも、フィニアの言葉に異論は無いのか、素直に軽く頭を下げてそう言う。凪としては、それでも大きな進歩だったのか、拒絶的ではないことにほっと胸を撫で下ろし、今度は探り探りではなく普通によろしく、と口に出来た。


 それを見ていた巫女、セシルは、最低でも背後から刺される様なことはなさそうだと考えつつ、ほっと息を吐いた。


「お、あそこがギルドか」

「分かっちゃいたが、やっぱグランディールよか大分ちっせぇなぁ」

「まぁ比べる様なものでもないだろ、ジーク」

「まぁ手ごたえのある奴がいれば良いけどな」


 そして、ギルドへ辿り着いた凪達。その外装に若干不満を隠せない様子のジーク。凪も、そんなジークに対して苦笑しつつ、ギルドの扉に手を掛ける。



 そして、扉を開いた瞬間―――



「ッッ!?」



 凪は扉から手を放し、それと同時にその場に居た全員が全身に走る悪寒を察知した。


 瞬間、凪達は扉から大きく距離を取った。そしてそれと同時、扉が青白い光と共に爆散する。

 ガラガラと音を立てて壊れたギルドの扉、その扉分の狭い隙間から見えるギルドの中には、丁度その隙間に収まる様にテーブルに付いた人影が一つ。


 そして、その人影がゆっくりと立ち上がり、視線を凪達の方へと向けてきた。露草色のその瞳が、何もかもを見通すような視線で射抜いてくる。


「―――初めまして、異世界からの来訪者」


 その人影は、ギルドの壊れた扉から外へ出て、その姿を陽の下へと現す。

 凪達は誰に言われるまでもなく理解した。この人影―――否、少女は、自分達が束になっても敵わない相手だと。絶対的に、格上の相手だ。


 そして、その少女は鈴の様な声音で更に告げる。




「貴方を――――浄化します」




 白い髪と、白いドレスを揺らしながら、青白い稲妻の槍を顕現させた少女。神をも殺すその槍は、一度は同じ異世界人である桔音に刃を向けた、稲妻の猛威。



 純白の使徒ステラが―――遂に勇者の前へと現れた。


桔音君の方には姉御肌の白髪美人、勇者達の方には超怖い白髪美少女。

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