愛されたユーアリア
彼女の名前は蘆名愛莉。後に最強ちゃんと呼ばれることになるごくごく普通の女性である。
異世界にやってくる前の彼女は、不本意ではあるものの、所謂無職の自宅警備員だった。歳は桔音達よりも幾分年上の25歳で独身。頭が良く、有名大学に合格し、それなりの成績を収めていた彼女。
だが就職という壁に当たった際、大手から中堅まで幾つもの採用面接を受けたものの、何処の会社にも採用されなかった。かといってここまで優秀にやってきた自分へのちっぽけなプライドから、小さな会社には入りたくないと意固地になった結果、見事にフリーターの道へと進んでしまったのである。
アルバイトしながら就職活動をし、同期の友人たちの会社での愚痴や成功、失敗談を聞く飲み会にたまに参加するような日々。
何もかも上手くいかない――彼女のプライドは粉々になり、遂には鬱病になるほど自分で自分を追い詰めていった。
彼女は大学時代までの生活で、明るく、そして優しい女性だった。
容姿も悪くはなかったし、人付き合いに対して不器用ではあったが、それでも理解ある仲の良い友人はいた。両親も優しく、コツコツと頑張る娘に対して出来るだけの援助をし、愛情を注いでくれていた。
なんとか安らぎを得ようと恋人を作ってみても、必死な彼女の姿はいつも相手を遠ざけてしまう。物語の世界に逃げ込もうと二次元などオタク趣味にも走ったが、かえって自分が現実から逃げようとしていることを思い知らされてしまう。かといって友人たちと交流すれば、自分の現実を突きつけられている感覚に陥っていった。
そうすると外に出るのも怖くなった。他人から見られると恐怖を感じ、吐き気や頭痛に苛まれるようになった。
食事も喉を通らず、不眠が続き、こんな筈じゃなかったと自分を責める日々。遂には自傷行為や幻覚を見ることも少なくなくなっていた。
そしてそんな彼女に周囲が気が付いた時には、彼女を心配する彼らの声や励ましの声は、届かなくなっていた。
そんな日常の中、ある時、布団の中に小さくなってぼーっとただ虚空を見つめていた彼女。ぽつり、呟く。
「死んじゃおっかな……」
呟けば、その言葉はスッと胸に収まった。
そして彼女は力なく笑うと、淡々と首を吊る準備をした。躊躇うことのない様子で手際よく準備を終えた彼女は、なんてことのない様に首を吊った。両親と友人たちに謝罪の遺書を残して。
――ああ……やっと楽になれた。
苦しみの中で、安堵した。ようやく苦しみから解放され、自分を責める日々が終わる。
それだけで彼女は全てが良くなったと思えた。自分の人生における不幸が全て解消されたとすら思えてしまった。
罪悪感は、無かった。
◇ ◇ ◇
……あれ? と目覚めた時、彼女は久しぶりに陽の光を感じたのを理解した。
次に自分の身体を誰かが抱き抱えてくれているのを理解し、どうしてと考える前にその腕の中に包まれている温かさが心地よくなった。視線を上げると、自分の顔を覗き込みながら幸せそうに微笑んでいる知らない顔の女性。
呆気に取られたように目をぱちくりさせている自分の頭を撫でで、自分に向かって知らない名前を呼んでくる。
そこまできて彼女はようやく自分が赤ん坊になっていて、この知らない女性が自分の母親なのだと理解した。転生したのだ、と頭の隅で理解した。
でもそれ以上に、何故だかはらはらと涙が溢れた。
慌てたように女性が自分をなだめる声を聴きながら、彼女は既に枯れたとすら思っていた涙が止まらない。
何故だかは分からない。でも頭ではなく、自分の心は理解していた。
彼女は今、愛されているんだと、心で感じたのだ。
自分を責め続け、他人からの愛情や心配も受け止められず、果ては自分を思ってくれる人がいることも忘れて命を絶った。
その先で、何の因果か赤ん坊として生まれ直して――無償の愛を与えられた。
此処に居ても良いと言われた気がして、価値があると言われた気がして、認められている気がして、ただそれだけのことが嬉しくて堪らなかった。
それから彼女は前世と同じくアイリと名付けられ、何不自由なく育てられた。
特に裕福な家庭だったわけではないが、前世の両親に負けない位愛情を注いで育てられた。
もちろん最初は前世のことを引きずった。前世の両親や友人たちに非常に申し訳ないことをしてしまったと後悔に押し潰されそうだった。だが新しい両親はソレに気付き、泣きながら転生について打ち明けた彼女のことを受け入れ、初めて目覚めた時と何ら変わらぬ温もりで抱き締めてくれた。
故に、彼女は今生こそはしっかり生き抜いていこうと決めて、この世界の人間として前世の両親達にも恥じぬ生き方をしようと立ち直ったのである。
だが、未来彼女は最強ちゃんと呼ばれる最強の冒険者となっていく少女。そして異世界人の魂を持つ彼女に、普通の人生が用意されている筈もなかった。
「あら、可愛いお嬢さんね。こんにちは」
当時5歳になって間もない彼女の前に、ふと現れたのである。
美しく、そして不思議な雰囲気を身に纏った女性だ。黒いドレスを着て、彼女の生まれた辺境の田舎町では浮いてしまう存在感を持った人だった。
外で遊んでいた彼女の前にしゃがんで、目線の高さを合わせてくれる。表情も柔らかく、長身だが子供好きなのかなと思える位優しい声音。
前世では命のやりとりなんてしたことはなく、今生でも平和な日常を過ごしてきた彼女にとって、目の前の女性に好感を抱くにはそれだけで十分だった。
「おねーさん、どなたですか?」
「あら、どなた、なんて難しい言葉良く知ってるわね。お嬢さんは頭が良いのね、凄いわ……お姉さんの名前はユーアリア、旅人よ」
「たびびと?」
「そう、自由に色んなところを旅しているの」
彼女の名前はユーアリア、旅人らしい。
彼女は優しくアイリの頭を撫でると、すっと立ち上がり、町の光景を見渡す。
「良い所ね、自然が多いし……時間の流れがゆっくりに感じるくらいのどかだわ。お嬢さんはこの町が好き?」
「アイリ、です。この町は、大好きです」
「あら、アイリね……良い名前。貴女にぴったり……お姉さんもこの町が気に入ったわ」
お互いに自然と笑みが漏れた。
アイリは、自分の生まれたこの町が気に入ってくれたというのも嬉しくなり、前世と今生で別々の両親が同じく付けてくれた名前を褒めてくれたのも、女性に対する好感度を上げる。
彼女はそれからしばらくこの町に滞在することしたらしい。
どれくらいの間滞在するのかは気分次第と言っていたが、その期間はアイリが予想したよりも長く、彼女はアイリと出会った広場にあるベンチに良く腰掛けていた。
いつの間に仲良くなったのか、彼女には行き交う人が良く挨拶をし、子供たちも彼女がいれば良く彼女の周りに集まるようになった。
美人で、優しくて、不思議な、でも一緒にいるとなんとなく居心地の良いユーアリアは、町中の人に好かれる存在になっていたのである。
無論、アイリも彼女の事を良く思っていたし、毎日の様にユーアリアの所へ赴き、座って他愛のない話をするのが好きだった。
旅の道中にあった出来事や、面白かった経験、旅先で出会った人の話、ユーアリアはいろんな話を聞かせてくれる。前世の世界に生きていた時間の方が長かったアイリにとって、ユーアリアの話はまるでファンタジーな物語の様に面白かった。
「アイリちゃんは本当に楽しそうに話を聞いてくれるから、なんだかついお喋りしちゃうわね」
「たのしいよ! とくに冒険者のお話が好き! 私はあったことないけど、魔獣や魔族と戦うんでしょ? すごいなぁ」
「あら、アイリちゃんは冒険者に憧れてるのね」
「うん、怖いからなりたいわけじゃないけど……一回くらい会ってみたいなー」
「ふふ、大人になって大きな街に行く機会があれば、いつでも会いに行けるわ」
そんな会話をする日々。
一人、また一人とユーアリアと挨拶を交わす人が増えていくのが、アイリはなんだか嬉しかった。勿論いつかは彼女もここを去る日が来るのは分かっているが、それでも、こんな日々が毎日続けばいいのに、なんて思うくらい。
だが、そんなある日だ。
「あら、アイリちゃん。今日も来たのね……いらっしゃい」
「うん、こんにちは! ……今日元気ないね、どうかしたの?」
いつもの様に広場のベンチに行くと、ユーアリアはいつもの様にそこにいた。
だが、いつもと違ってなんだか表情が暗かった。悩みがあるような、そんな表情。アイリがこの街でユーアリアと過ごしてから、そんな表情を見るのは初めてのことだった。
「……あのね、私そろそろこの町を出てまた旅に戻ろうと思うの」
「えっ……」
ユーアリアが告げたのは、アイリにとって衝撃を受けることだった。
思えば彼女がこの街にきて既に一月半が経っている。十分長い滞在期間、旅に戻るというのも理解出来る時期だ。
だが、既にユーアリアのことが大切に想えるくらい好きなアイリにとって、彼女がいなくなるというのはとても悲しいことである。
しかし、引き留めることなど出来ない。そもそも彼女は旅人で、この町に住んでいる訳ではないのだ。旅に出るというのなら、それは自分の我儘で引き留めることは出来なかった。彼女は子供ではあるが、分別を弁えた大人でもあるのだから。
「いつ、いっちゃうの?」
「そうね……明日の今くらいの時間かしらね。昨日荷物を纏めて準備したから、今日この町の皆に挨拶して……明日ね」
「……寂しいな」
「私もそうよ、この町が好きだもの。その証拠に、いつもより長く滞在しちゃったし……それに、アイリちゃんとお話するのが楽しかったから」
ユーアリアは俯いて肩を落とすアイリを、優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。
元々体温が低いのか、彼女の胸の中はちょっぴり冷たくて、でもなんだか安心するような匂いがした。母がしてくれるのとは違う温もり。少しだけ、寂しさも受け止められる気がした。
「だから、今日は皆に挨拶した後でいっぱいお話しましょう? アイリちゃんが良ければ、だけれど」
「! うん!」
そうして彼女はアイリを連れてこの町を回り、多くの人に寂しがられながら挨拶していった。お別れの宴をしようと言う者もいたが、明日発つ上に今日はアイリと一日一緒にいるからと言ってそれを断った。
ほぼ全ての家に挨拶して回ったこと、そしてその全ての人が別れを惜しんだこと、中には愛の告白をする男もいれば、子供たちは揃って大泣きしてユーアリアに抱き締められていた。そんな光景を見て、アイリはユーアリアがこの町に愛されていることを改めて実感する。
町中に愛されたユーアリアは、愛情を拒絶して死んでしまったアイリにとって冒険者以上の憧れであり、こんな人になりたいと心から思える女性だった。
それからアイリとユーアリアはいつも通りいろんな話をした。
いつもは旅先の話が常だったが、今日はお互いについてよく話をした。こういうものが好きだとか、苦手なものがなにかとか、好きな人はいないのかとか、ガールズトークさながらに姦しく盛り上がった。
一抹の寂しさを滲ませながら、アイリとユーアリアはいつもより遅くまで長話をして、必ず見送りに行くと約束して別れた。
別れ際に見えたユーアリアの表情は、いつも通りの微笑みだった。
◇ ◇ ◇
翌日、アイリはいつもより早く目が覚めた。
いつも通り笑顔で挨拶してくれる両親におはようと言って、いつも通り朝ごはんを食べる。和やかな朝の時間を過ごして、アイリは少し早くに外へと出た。
ユーアリアとの別れの日だ。早く彼女と会って、少しでも一緒に居る時間を長くしたかった。
そうして振り返ることなく町中を駆けていき、広間へと急ぐ。
―――彼女が駆け抜けた背後の光景が、いつもと違うことに気付くことなく。
そしてアイリが広間に辿り着いた時、ユーアリアはいつもと同じようにそこに居た。彼女も自分と同じで少し早くに此処に来たのかと嬉しくなる。
ユーアリアがこちらに気付く。いつもの様に微笑みを浮かべて、彼女からも一歩アイリの方へ足を近づけた。
瞬間、急ぎ過ぎたアイリは躓いて転んでしまう。
「いたっ……え?」
「あらあら、今日も来たのね……ふふ、いらっしゃいお嬢さん」
運が良かったというべきだろう。
転んだおかげで彼女は命拾いした。アイリが転ぶ直前に見たのは、自分に向かって小さいナイフを振り抜いてきたユーアリアの姿だったのだから。
「……なにを……え……」
「悲しませたくなかったから、知らないまま終わらせてあげかったんだけれど……」
それは、いつも通りのユーアリアの声音で、変わらぬ優しさに溢れている。
だが、その瞳だけが違っていた。
いつもは澄んだ綺麗な黒い瞳だったのに、今はまるでボールペンでぐちゃぐちゃに書き殴ったような瞳になっている。
アイリはユーアリアに初めて恐怖という感情を抱いた。大切に思っていた相手が、突然豹変したことに感情が付いてこなかったのである。
だが違ったのはユーアリアだけではなかった。
「ひっ……!?」
さっきまでいつも通りだった広場が、唐突にその姿を変えたのである。
そこには赤い色が多かった。以前から一緒に遊んでいた子供たち、良く散歩していたおじいさんとおばあさん、仕事をしていたおじさんや、デート中の男女、いつも見ていた人々が大量の血を流して死んでいた。
見渡せば家々の壁にも大量の血がべったりついていて、アイリが駆けてきた道にも多くの死体が転がっていた。
なにがどうしてそうなったのか全く分からなかったが、とりあえずユーアリアがなにかしたということだけは分かった。
「な、なにをしたの!?」
「ふふ、ちょっと幸せな記憶を見てもらっただけよ」
「……記憶?」
ユーアリアはクスクスとほほ笑みながら、言う。
「お嬢さんの中ではもう一ヶ月半くらい経ったと思うけれど……実はお嬢さんは私と会ったばかりなの」
「え……」
「お嬢さんは私と出会った時からずっと此処で幸せな記憶を追っていたの」
「記憶を……追う?」
「そう、だからお嬢さんが私と過ごした日々は幻の記憶……さっきの様子だと、随分好かれちゃったみたいね」
アイリは信じられなかった。今日まで過ごしてきた一ヵ月半が、幻の記憶だったなど。
つまり目の前に居るユーアリアは、実は出会った日のままのユーアリアで、アイリとユーアリアは一ヵ月半の時間を経て仲良くなった関係でもなかったということ。そしてその記憶を見ている間に、アイリの大好きなこの町の人々を片っ端から殺したということなのだ。
困惑と怒りと悲しみと、色んな感情が混ざり合って上手く言葉が出てこなかった。
「なんで……こんなこと……」
辛うじて絞り出したその言葉に、ユーアリアは微笑みながら答える。
「なんでって言われたら、なんとなくかしら。素敵な町だなって思って、お嬢さんに会って素敵な子だなって思って、そしたらこのお嬢さんはどういう風に死ぬのかなって思ったら、なんとなくこうしてたわ」
「なに……言ってるの……?」
意味が分からなかった。
なんとなく、そうしたなんて意味が分からない。それは行動ではなく衝動、衝動のままに殺戮したということだ。
しかもそんなことをしたというのに、何故こんなにも理性的でいられるのか分からなかった。アイリは恐怖で涙が出る。
「あらあら……そうね、最初に会った時に素敵な子だなって思ったし、私もお嬢さんに死んでほしくないわ……だから殺さない」
「……意味、分かんないよ……!」
「そうね、私もきっとお嬢さんの立場ならそう思ったと思うわ……なんで殺しちゃったのかしら? でも私はこの町のことが好きよ、ソレは本当。色んな人がいたけど、とっても優しい人達ばかり……お嬢さんみたいな子が育つのも分かる気がするわ」
「何言ってるの……!?」
「まぁ、死んじゃったのだけどね」
お前が殺したのだろう、と思うも、口には出せなかった。
何をそんな悲しい事件だったみたいに話せるのか意味が分からない。目の前にいる人の頭の中がどうなっているのか全然分からなかった。
「じゃあ私はもう行くけど、お嬢さんお名前は?」
「……」
「あら、嫌われちゃった……私何かしたかしら? ごめんなさいね、縁が逢ったらまた会えると良いわね」
そう言ってアイリの頭を撫でると、彼女は悠々と血だまりの中を歩いて去って行く。
残されたアイリは、呆然とその後ろ姿を眺め――彼女がいなくなるまでその場を動くことが出来なかった。
そして暫くの後、彼女は街中をとぼとぼと歩いて回った。
記憶の中でユーアリアと回った様に、一つ一つの家を訪ねて回った。その全てで、人が死んでいた。良くしてくれる近所の人も、友人の子供たちも、お世話になっているお店の人たちも、皆死んでいた。
もちろん、今朝朝ごはんを用意していつも通り挨拶してくれた筈の両親も。
「…………。……。」
アイリの涙は両親の死体を見た頃には枯れていた。幾つもの死体と、幾つもの死を目の当たりにして、最早彼女の心は憔悴しきっていた。
前世でも見たことのない、経験したこともないこの光景に、彼女は世の理不尽を噛みしめていた。
そして家で数時間眠った後、
目覚めた時、彼女はぼーっとした瞳のままぽつりと呟いた。その姿は、前世で自殺を決意した時と同じ様だった。
「―――殺そう」
言葉にした瞬間、彼女の表情が初めて憎悪に歪んだ。
「殺そう、殺そう、殺そう、殺そう、殺そう……」
ぶつぶつと呟きながら、淡々と旅支度を済ませていく。町中を巡って旅に必要な道具を集めると、ソレを大きなカバンに入れた。死んでいるのだから、買う必要も無ければ、持っていく許可を取る相手もいない。
その細腕で持てない程の重量の荷物を、彼女は片手で持ち上げ運ぶ。
綺麗に伸びた橙色の髪の毛を家にあったハサミで切り、長かった髪を短くした。両親が買ってくれた綺麗な洋服も捨てて、簡単なシャツと動きやすいパンツを履いた。
そして支度が全て済んだあと、彼女は町中を燃やした。一軒一軒に火をつけて、死体もまとめて燃やした。
「……さよなら」
彼女の瞳は、最早何の感情も写していなかった。
ただ瞳の奥底に憎悪を隠して、彼女は眠たげな瞳のまま無感動に歩き出した。大きな荷物を抱えて、ユーアリアの去って行った方へと歩いていった。
「……殺そう」
今の自分なら殺せる――その為の力を得たから。
彼女は数時間の睡眠を取った時に出会ったのだ、彼女をこの世界に転生させた張本人に。桔音がカスと呼び捨てたあの超常の存在に。
そして願った。ユーアリアをこの手で殺せるだけの、最強の力を寄越せと。
果たしてその願いは叶えられた。
転生者といえば、転生特典があるのが定番だろう。なんてそんなことを言いながら、あの超常の存在は彼女に文字通り最強の力を渡した。ユーアリアをその手で殴り殺せるだけの力を。
その対価として、彼女は名前と無駄な感情を捨てた。二つの両親がくれた大切な名前と、闘いと復讐に関する感情以外の感情を捨てた。
そうして彼女はアイリではなくなり、最強の力を持った何者かになった。
次に出会えば彼女はユーアリアを殺すだろう。何せ彼女が願ったのは、
「さいきょー……だ」
そうして彼女は、最強ちゃんと呼ばれる最初の一歩を踏み出したのである。
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