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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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無限ループ

「なんなのよ……なんでこんなことに……」

「つべこべ言わない、前回の戦いで見逃してあげたんだからその借りは返せよ」


 桔音とメアリー、相対する陣営の2人が共に行動しているのは、ひとえに桔音がメアリーを脅したからに他ならない。前回、桔音がマリアと出会ったあの日のことがメアリーのトラウマになっていることもあり、桔音の存在自体がメアリーを脅すだけの要素になっているのだ。

 空を飛翔するメアリーは桔音と両手を繋いでクレデール王国上空を浮遊している。目的は桔音の探し人であるレイラとフィニアの捜索だが――フィニアも空を飛べる以上空で鉢合せることもあるだろうということで、桔音も空を飛んでいる。瘴気で飛べれば良いのだが、現在桔音は瘴気を上手く出すことが出来ない。スキル発動が困難になっているのだ。故に、この方法が取られている。


 メアリーはその小さな手を両方とも桔音の手と繋いでしまっているので、神葬武装の為の手刀が作れないでいる。振り落としても良いのだが、そうすると次会った時が怖いので止めているメアリーだった。


「……居たー?」

「居なーい」

「……」


 くるくると旋回しながらメアリーはクレデール王国上空を隈なく飛び回る。握っている手の握力が段々と辛くなってくるのだが、桔音に手首を掴まれているのでメアリーが手を放した所で桔音が掴まっていれば問題は無い。白金色の髪を靡かせながら、メアリーは欠伸をする。なんでこんなことしているんだろう、だなんて思いつつ、自分にぶら下がっている桔音を見下ろした。

 なんだか掴まれている手首が、桔音の手の体温で熱い。あまり人間と触れ合わないメアリーからすると、少しだけ新鮮な感触でもある。まぁそれ以上に桔音が怖くて堪能する余裕はないのだが。


 ふとメアリーは自分がこの場所へやってきた当初の目的を思い出す。そういえば自分も探し人がいたんだった、と。桔音に会った衝撃で忘れてしまっていたらしく、いけないいけないと自分も地上に目を向けた。

 序列第4位『神姫』メティスは、臆病者で中々おかしな頭をしているものの、見た目はそれなりに派手だ。ゴスロリドレスにボロボロの兎のぬいぐるみを持ち、更に手錠と首輪付き。これならどう探した所で一目見れば分かるだろう。キョロキョロと視線を動かせば、下の桔音の身体が軽く揺れた。


「……何か探し物かい? メアリーちゃん」

「ん……まぁ、ね」

「へぇ……そうそう、そういえば君に聞きたいことがあったんだよ」

「……何?」


 揺れを感じたのか、桔音がメアリーに会話を投げ掛けてくる。メティスを探しながら、メアリーは桔音の問い掛けに答える。

 今度は何を言い出すのかと若干の警戒を抱くが、それが繋がれた手から伝わったのだろうか、桔音は苦笑した。そして、おそらくは直球の質問だろう。だがしかし、何の駆け引きも無いほんの他愛の無い会話の様に桔音は言った。


「君が探してるのって、『神姫』でしょ」

「なん――!?」

「ああ、本当にそうなんだ。へぇ、この国にいるんだ?」


 やられた、とメアリーは歯を食い縛った。このタイミングでカマを掛けてくるなど、本当に意地が悪いとしか言いようがない。メアリーにまともな思考を整えるだけの時間を与えず、畳み掛ける様に投げ掛けて来たその問いは、メアリーに正直な反応を取らせてしまった。

 まして、『神姫』という特定の名前を出してきたことも、メアリーの動揺を誘った。彼女達の認識で言えば桔音とメティスはまだ出会っていない筈だからだ。なのに、『神姫』という存在が知られているのはどういうことだ。

 確かにあり得ない話ではない。かつてメティスが人間の大陸へと降り立ったことも、無かったわけではない。当時の人間がまだ生きていれば、その話が伝わっているというのも可能性としてはあり得るからだ。


 だが、桔音がやって来たのはほんの半年と少し前。メティスの存在など知る筈がない。


「……なんでメティのことを知っているの?」

「へぇ、メティって名前なんだ? まぁいいや……存在に関しては最近耳にしただけ。実際に会ったことも見たこともない子だよ……でもメアリーちゃんが此処にいるってことは、何かしらの目的があって此処にいるんでしょ? 異世界人を殺そうとしたり神を殺すことを目的にしている君達のことだから、この国に用は無い筈だよね。異世界人である僕がこの国に居ることも知らなかったようだし、となると君が此処に来る目的になるのは――君のお仲間関係のみ。もしかしたら『神姫』以外の人かもしれないから、さっきのカマ掛けは賭けだったけど……上手く嵌まってくれたようで良かったよ」


 ぐ、と反論が出来ない。桔音の言っていることはほぼ当たっているし、その全ての根拠が自分の行動と反応だったからだ。こうなれば、メアリーも隠し通すことは出来ないだろう。


「…………そうよ、私が探しているのは序列第4位『神姫』メティス。ちょっと頭おかしい子で、目を離した隙に脱走したらしいから、連れ戻しに来たの」

「君に頭おかしいって言われるなんて、相当なんだね」

「私はまともよ。ウチで一番まともなのは私だもん」

「あはは、寝言は寝て言うんだね」


 なによー、とメアリーが頭上で不機嫌になるのをスルーしつつ、桔音は街中を探す。フィニアは別としても、レイラは現在制服姿だ。いつもと特徴が違う後ろ姿ではあるものの、それでも特徴的な白髪はあまり見落とす事は無いだろう。キョロキョロと視線を彷徨わせ、白髪を探す。


 すると、


「そういえば、もうこの国で誰か死んだ? 死んだとしたら何人位死んだ? あ、普通に死んだ奴じゃなくて、変死の奴ね」

「もう、っていうのが気になるけど……知る限りじゃ1人死んだみたいだよ。相討ちしたような状況で死んでたってさ」


 メアリーからの問い掛けがあった。"もう"この国で誰か死んだかどうか、そんなことを聞いて来たのだ。その問いかけは、誰かが死んでいなくてもいずれ誰かが死ぬことになることを確信している様な口ぶりだ。桔音は怪訝な表情を浮かべながら、最近死んだ騎士団長の事を話す。


「ふーん、思ったより少ないわね」


 メアリーの反応はそんなものだった。

 桔音はその反応と問いかけの意味を考え、もしかしたらメティスという存在は大量殺人を趣味とするような奴なのかもしれないと想像する。メアリーもそうだが、まともな奴はいないのかと思ってしまう桔音。今の所ステラが一番まともであるが、それ以外の破天荒ぶりが常識外れ過ぎて困る。

 特に、桔音は彼女達と関わり合いになる立場にいるので、もう少し面倒臭くない相手で居て欲しいと願わずには居られなかった。というか、何故強い人物程頭が残念なのかが知りたい。常識という二文字が音を立てて爆散するのを感じる桔音である。


「メティスって子はそんな物騒な子なの?」

「物騒っていうか……まぁ爆弾みたいな奴よ。取り扱いご注意の超危険物……ちょっと間違えたらどうしようもない感じ。逆に扱いが上手すぎても違う意味で爆発するから面倒なのよ」

「うわー……めんどくさ」


 メアリーから齎された情報、というか愚痴のような話に、桔音は面倒臭そうな表情を浮かべながらそう呟いた。正直、メアリー達の組織と事を荒立てる可能性が高いものの、そのメティスという子には会いたくないなぁと思ってしまう桔音である。

 だがそう思いながらも、やはり仲間だからか神葬武装等の話にはいかない所を見ると、どうやった所で相手の手の内を探ることも出来なさそうだ――と、桔音は内心で考えている。メアリーと行動を共にしているこの状況を上手く関わり合いになる糸口に出来ればいいのだが、しかし良い案は思い付かない。最終的には宣戦布告に打って出るしかないのかもしれない。


「で、見つかったの?」

「んー……あ、居た」


 思考に耽る桔音に、メアリーはそろそろ腕が疲れて来たとぼやきながらそう聞いた。その言葉に我に返った桔音は、再度地上に目を向けた。すると、すぐそこにレイラとフィニアが周囲をキョロキョロと見渡しながら歩いているのを見つける。

 桔音の言葉に大きく溜め息を吐いたメアリーは、すぐに近くの路地裏へと下りていき、天使の輪と翼を消した。地面に着地した桔音とメアリーだが、


「……? なに? まだ何かあるの?」

「いや? この手を放したら襲い掛かって来ないか心配で」

「……」


 桔音はメアリーの両手から手を放さずにいた。そのことに首を傾げたメアリーであったが、桔音の言葉でハッと我に返る。その手があったかと今思い出した様な反応に、桔音は思わず苦笑した。

 メアリーの神葬武装『断罪の必斬(フェイルノート)』は、手刀を作って振り下ろすだけで万物を切り裂く概念武装だ。それは、あの大魔法使いアシュリーですら解明出来ない未知の力――桔音としては、警戒しなければならない最大の能力だと思っている。何せ防御のしようがないのだから、桔音の天敵とも言えるだろう。射程範囲も、発動条件も、与えてくる情報は少ないのに必殺の威力を持っている。


「………………襲わないから、放してよ」

「その間は全然信憑性ないなぁ」

「……」


 路地裏の薄暗闇の中、幼女の両手を掴んでいる不気味な少年の図、此処に完成である。おそらく第三者に見られれば確実に死ぬ。社会的に死ぬ。ピリピリしている騎士団に突き出され、牢獄内で一生を過ごす破目になるだろう。ソレは桔音としても御免蒙りたい所だ。

 しばらく見つめ合う2人。睨みあう2人と言っても良いだろう。路地裏で何をしているのだこの2人はと突っ込みたくもなるだろうが、やはりお互いがお互いを警戒している以上この両手を放した瞬間が恐ろしいのだ。

 桔音の両手は最早最強の防御とも言える動きを見せ、メアリーの両手は最強の攻撃とも言える動きを見せる。衝突すればどうなるか――おそらく、メアリーの手刀を捌き続ける桔音と、なんとか桔音を斬ろうとするメアリーの手刀の連打が展開されるだろう。


「……探し人、見失っちゃうけど」

「その時はこのまままた飛んで貰うよ」

「堂々巡りじゃん!! 知ってるよ! ソレ無限ループって言うんでしょ!?」

「よく知ってるね、君は僕と手を繋いだ瞬間から抜け出す事の出来ない無限ループに陥っていたのさ!」

「凄い面倒臭い! はーなーせー!!」

「放すものか! さぁメアリーちゃん、街の路地裏で僕と握手!」

「もうしてるよ見れば分かるでしょ!? 頭おかしいんじゃないの!?」

「君に言われたくないよ!!」

「貴方に言われたくもないよ!!」


 両手を繋ぎながら、桔音とメアリーは路地裏で騒ぎあう。最早どちらも頭がおかしい者同士なのだが、喧嘩しつつも両手を繋いでいるこの状況は、なんだかおかしかった。


 結局、メアリーが両手を組んで手刀を作れない状態にし、目を閉じた状態で10秒数え、その間に路地裏を桔音が出るという方法を取ることで、2人は無限ループを脱する事に成功した。その際、桔音がメアリーの胸を揉むという暴挙に出たのだが、メアリーは目を開けることが出来ずに桔音に逃げられたのだった。


桔音「微かに柔らかかった」どやぁ

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