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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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入学手続き

「学校に、通おうと思う」


 クレデール王国に戻ってきた桔音は、まず宿にてレイラ達と合流し、とりあえず学校を見て来て決めたことを言った。

 きょとんとした顔のレイラ達に対して、桔音は更に続ける。


「いやね、実の所あのデカイ図書館を利用する事は出来なかったんだよ。どうやらあの図書館を使う為には、学校の生徒にならないといけないらしいんだ。大魔法使いにも会えたんだけど、話をするにはやっぱり学校の生徒にならないといけないみたいなんだよね」


 結局、学校に通わない限り自分の知りたい知識には辿り着けないと知った桔音。ならば、学校に通ってでもその知識を得ようとするのは自明の理だろう。異世界から異世界へと渡る術を知りたいのだ、多少の危険は負う覚悟が出来ているし、面倒だけれど学校という柵に囚われてもみようというものである。

 それに、あの大魔法使いに関しても、彼女は悪口を言ったことに対して怒ったから殺しに掛かったわけであって、次にあったとしてもいきなり殺される事は無いと、桔音は思っている。もっと言えば、彼女は転移魔法を発動させる際許してあげると言ったのだ。その言葉を覆すほど、彼女の器は狭くはない筈だ。


 とはいえ、桔音としても彼女の機嫌を損ねた事実に関しては認める所であり、現時点で再会しても、話すら聞いて貰えないだろうと理解している。そこはどうしたものかと考えている最中だ。


「とりあえず、帰ってくる途中であの学校について最低限の知識は調べたよ。人に聞いただけだけどね」


 すると、桔音はそう言って、まずはと切り出した。桔音が語るのは、あの学校――『アースヴァレル学園』という場所についてだ。

 聞いた相手は簡単な話、あの学校に通っている生徒で、自慢話をぺらぺらと語りたそうな貴族の少年に語って貰った。遜って色々と褒めればあれやこれやと教えてくれたので、扱いやすいなぁと思いながら桔音は情報を得たのだ。


 どうやら、この学園は現在入学希望者を募集している時期であり、様々な場所で受け付けているらしい。アースヴァレル学園事務がメインではあるが、貴族が平民と一緒の場所に居ることを嫌うこともあって、冒険者ギルドや試験専用に作られた施設でも受付をしている。基本的に平民達はギルドやその専用施設にて入学申請をし、当日になって初めて、貴族達と共に試験をアースヴァレル学園本校舎で受けることになる。

 申請事態は簡単で、一人辺り金貨30枚受付時に収めれば、あとは簡単な書類を幾つか記入するだけらしい。その書類とお金がアースヴァレル学園に送られ、受験者として登録される。後は試験を受けて合否を待つだけだ。


 また試験内容だが、騎士科と魔法科で試験会場が違い、内容も大きく違ってくる。基本的に実力主義の世界であり、試験内容も実技試験が合否に大きく関わってくるらしいが、その試験は筆記試験、面接試験、実技試験の3つの工程を経て行われる。

 先程も言った通り、点数としては実技が50%を占め、筆記と面接が25%ずつといった配分となっている。合格基準値は、大体8割以上を取っていることである。つまり、実技で50%分の最高評価を得られれば、筆記と面談で15%ずつ点数が取れれば合格出来るのだ。


 実技に関してはそれほど不安はないものの、筆記と面接に関しては桔音にも自信が無い。

 そもそも、このパーティはリーシェ以外まともな教育を受けた人物がいないのだ。といっても、桔音の不安な所は問題が解けないことではない。それに関してはノエルを使ってカンニングでもなんでもすればいいのだから、関係無いのだ。

 そうではなく、桔音に関しては文字が書けないことが問題なのだ。文字が読めない桔音にとって、文字を書く事は読むことと同様の難易度を持つ。筆記において彼は1点だろうと取れない状態にあるのだ。


「つまり、僕は実技試験と面接試験で満点を取ろうと……筆記を全て落とせば確実に落ちることになるんだ」

「じゃあどうするんだ? 文字なら私が教えても良いが、お前が学校に入るということは必然的に私達も受験することになるんだろう? 全員合格出来るとは限らないぞ?」

「フィニアちゃんとリアちゃんに関しては妖精だから、試験を受けなくても学校に入る事は出来るよ。思想種だからこの想いの品の中に入ることが出来るしね……リーシェちゃんに関してはそんなに心配はしていないし、ルルちゃんも今から勉強すれば十分合格値には届くと思う……問題は僕とレイラちゃんと屍音ちゃんなんだけど……」


 桔音が調べた限り、受験者募集期間はあと1週間ほどで締め切りとなる。そこから試験までは1ヵ月程の時間が空くらしい。勉強することが出来るのは、その1ヵ月ちょいの時間しか残されていない訳だ。その時間で文字を覚え、必要知識を覚えるというのは、中々厳しいだろう。

 桔音は幸いにも頭は良いので、文字さえ覚えられれば知識を覚えるのにそれほど苦は無いと考えている。しかしレイラと屍音は魔族故に、まったくそういった知識を持っていないだろう。桔音はそれが心配だった。


「とりあえず、参考書とかそういうのを買って勉強しようか……結局、現状を打破するには勉強するしかない訳だしね」

「……そうだな、それなら桔音には私が文字を教えるとして……レイラ達には必要最低限の知識を覚えて貰うしかないな」


 リーシェの言葉に、桔音は頷く。ルルは記憶を失っている故に、実の所戦闘経験はそれほどない状態だ。実技試験の為に、リーシェに稽古を付けて貰う必要もあるだろう。元々ルルは自分自身の本能と勘で我武者羅に稽古した結果、かつての実力を手にしている。勇者をもって才能はあるといわしめた彼女だ……それほど時間は掛からないだろう。

 レイラは出た結論に反対することはなかった。学園生活だろうと、桔音が行くのならレイラも行くし、試験があるというのなら合格するため勉強もする。恋とはそういう力をくれる凄まじいエネルギーでもあるのだ。


 ちなみに、屍音は屍音でかなり乗り気だった。勉強は面倒臭いしやりたくはないと思っているのだが、自分自身を死ぬ直前まで追い詰めて来たあの大魔法使いに刺激を受けた彼女は、もう一度大魔法使いに対峙したいと思っていたのだ。故に、桔音の受験に関して面倒という意見はあったとしても、反対はしなかった。


「じゃ、とりあえず入学願書を出しに行くとしますか」


 という訳で、桔音は立ち上がりそう言った。

 向かう先は冒険者ギルド。Sランク冒険者きつね率いる高位パーティ『死神狐(デスフェイバー)』は、クレデール王国にて学校へ入学する為の準備を進めるのだった。



 ◇ ◇ ◇



 入学願書を出す為に、きつね君達と一緒に冒険者ギルドにやってきた。

 学校に入る、というのは私には良く分からないことだったけれど、きつね君が行くというのなら私は行きたいと思う。勉強をしないといけないらしいけど、リーシェが教えてくれるみたいだから多分なんとかなるんじゃないかな? 見る限り、私達と一緒で願書を出しに来た子供達に、それほど実力があるとは思えない。強い人特有のニオイを感じないから、やっぱり子供なんだろうなぁと思ってる。


 今、きつね君はリーシェと魔王の娘と一緒に願書を出す書類を貰う為に長蛇の列に並んでる。受験者は随分と多いみたいで、ギルドは冒険者よりも受験者の人数が多い。でも、嫌な顔をしている人がいないから、多分いつものことなんだろうなって思った。

 残された私達は、他の冒険者達と同じ様にテーブルに着いてきつね君達を待っていた。女の冒険者は少ないし、まして防具を付けていない冒険者なんて私達くらいだから、かなり目立ってる。


 うーん、視線が鬱陶しいけど、きつね君はいつも無視してるからなぁ……我慢するけど、やっぱりじろじろと鬱陶しい。有名税だよってきつね君は苦笑してたけど……有名税ってなんだろ?


「なァアンタ、レイラ・ヴァーミリオンだろ? 会えて嬉しいぜ、聞いてたより別嬪さんだな」


 視線も鬱陶しかったけど、こうして話しかけてくる男の冒険者も結構鬱陶しい。

 実の所、きつね君の名前よりも、まだ私の名前の方が知名度が高いみたい。Sランク冒険者になったといっても、やはり漠然と名前だけ伝わっているきつね君と違って、私は二つ名も含めて結構色んな所で暴れ回ってたから顔もなんとなく知れ渡っているんだよね。

 それに、冒険者として女であることも珍しさのせいか名前が広がる要因になってるみたい。


「黒髪って聞いてたが、その白い髪も綺麗だ。どうだ? 俺と飯でも」

「うるさいよ? 近づかないでくれる?」

「ハハ、まぁそうだろうな……でもアンタがあの他の奴とパーティを組んだって聞いて、ちょっと驚きではあったんだ。アンタはソロを貫いてることで有名だったからな」


 話を聞く気はないと言外に言ったのに、分からなかったみたい。この男の人は馬鹿なのかな? 面倒臭いなぁ……さっきよりなんだか近づいて来ているし。暑苦しいしなんかくさい。


「にしても、それ以上に驚いたのは『死神』が頭角を現してきたことだよな……一体何者だ? きつねって奴は……急激に力を伸ばしてきた冒険者として、大分有名だぜ? いきなり現れて、『戦線舞踏』のドラン・グレスフィールドとアンタを仲間に引き込んだことから始まって、グランディールでもルークスハイドでも色々やらかしたそうじゃねーか……正直、俺程度じゃ敵わないだろうが、一つ聞かせて貰いたいもんだね……アンタが何故『死神』の仲間になったのか」

「それを教えたらどっかいってくれる?」

「嫌われたもんだなぁ……分かったよ、教えてくれたら立ち去るよ」


 きつね君に付いて来た理由かぁ……記憶が無いから思い出せないけど……多分食べたかったんじゃないかなぁ……以前の私は今とは掛け離れてると言っても良い位、食欲に飢えた化け物だったし。でも、それを正直に言うとまた面倒な噂が立つし、此処は今の私がきつね君に付いて行く理由で良いよね。

 にしても、『死神』か……どうやらきつね君にも二つ名が付いているみたいだね。理由は分かるけど、ぴったりな名前だと思う。少なくとも、私に付けられた二つ名よりまともだと思うなぁ……アレ良く分かんないし。


「きつね君が好きだから♪ それだけだよ♡」

「……ひゅう、予想はしてたが意外だな……なんで好きになったんだ? 劇的な出会いだったりしたのか?」

「質問には答えたよね? どっか行って♪ それに――」

「……それに?」

「んー、なんでもないや♪ さ、消えて?」


 やれやれ、と頭を振って男の冒険者は諦めた様に去って行った。なんなんだろうあの人。


 私が言い掛けたこと、記憶の無い私が言うのもなんだと思ったから言わなかったけれど、好きだという気持ちは私のもので、以前の私と今の私が共通して持っている数少ないものだ。だからきっと、コレはかつての私も思ったことだと思う。


 それに―――人を好きになるのに、何か劇的な物語が必要?


 好きになったから、好きなんだよ。だから、それ以上のことは蛇足でしかない。


「貰って来たよ、願書書類。ほら、記入して……どうしたのレイラちゃん?」

「んーん、なんでもないよ♪ きつね君♡」


 戻ってきたきつね君に、私はいつも通り抱き付いた。記憶がないことで、このきつね君の温もりを感じていても良いのかと思ってしまうこともある。記憶を本気で取り戻したいと、私は心の底から思う。きつね君を好きになった私は、一体きつね君の何を知っていて、一緒に何をしてきたのか、それが知りたい。

 きつね君が私に何をして、私とどんな絆を結んだのか―――私ときつね君の原点を、私は知りたい。


 だからその為に、私はきつね君と一緒にいる。それを取り戻した時、きっときつね君の温もりは確かなものとして私を包んでくれる筈だから。



レイラの想い

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