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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十四章 魔法と騎士の学園
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魔法使いの頂点

章管理で十四章を追加。忘れてました。

 ルルの故郷である、もう荒廃してしまった獣人の村。その村に放置してあった全ての遺体を時間回帰させて元の肉体に戻した後、桔音はルルの頼みもあって全員フィニアの魔法で火葬した。骨のままになっていたのを、しっかり弔うことが、ルルの望みだったのだ。


 あの後、船から全員が下りて来て、ルルの故郷だという事情を知った。そしてルルがもう気にしてはいないということを理解して、特になにも追及したりはしない。その辺の気遣いは出来るのだ。屍音とリアに関しては最早何も考えていないようだったが、それならそれで良いと桔音は思った。

 死体を全て火葬した後、桔音達は存在していた村の全てを焼き払った。

 コレもルルの望みである。故郷がこんなにも無残な姿で残されているのは、心苦しいと思ったのだろう。それならば、火葬し天に昇った村の人々と共に、天へと還らせたいと決めたのだ。だがそれは同時に、ルルの故郷が本当の意味で跡形もなく消失するということに他ならない。


 桔音はそれでいいの? と聞いたのだが、ルルは躊躇い無く頷いた。今は、桔音の隣が自分の居場所だと言って、迷いを振り払った様な顔を浮かべていた。ただ、煙と共に天に昇っていく村の人々や燃え尽きていく故郷の姿を見て―――ルルはまた涙を流した。


 一言―――"幸せを……ありがとう"、と言って。


 後にはまっさらな地面しか見えない大地となった、故郷だった地面。ルルはそこからこれからの一歩を踏み出す。桔音の隣に居ることが、今のルルの居場所であり、今の幸せだ。


「行きましょう……クレデール王国に」

「……そうだね」


 ルルの言葉で桔音はまた瘴気の船を生成し、全員が乗り込んだ所で村の跡地を後にする。遠ざかっていくルルの故郷に、桔音は少しだけ視線を向けていたが、すぐに視線を切る。これからクレデール王国へと入るのだから、気にしてはいられない。ルルが気にしていないと言って前を向いているのだから、自分が気にする事でもないのだ。


 そう考えて、桔音は瘴気の船をぐんと進ませた。



 ◇ ◇ ◇



 クレデール王国の王都には、幾つかの学校が存在している。

 その中でも最も大きく、多くの実力者を輩出してきた歴史と伝統のある学校がある。カリキュラムや指導する人材の優秀さは勿論、設備や教材も一級品の物を使っており、勉学においても高い偏差値をキープしている。それ故に、将来有望な人材達が多く、また入学希望者が最も多い学校でもある。

 更に、入る為には入学金がいるものの、それさえ用意出来れば身分は問わない。貴族以外の平民であっても、お金さえ用意出来れば入試成績次第で入学する事が可能なのだ。全寮制であり、卒業後はほぼ確実に騎士や魔法使いとして一定レベル以上の優秀な人材に育っていることから、多くの貴族や王城がスカウトにくるので、平民でも此処から貴族並の生活を送れる可能性は十分ある。


 故にその学校は高い偏差値、ハイレベルな授業、貴族の多い環境等々、気後れする様な要素が多くとも、入学希望者の約4割が平民という数値を出すことが出来ている。


 その学校の名前は―――『アースヴァレル学園』


 桔音達の目的でもある、最も大きい図書館である『アースヴァレル大図書館』を設備の1つとして保有する、最もレベルの高い魔法、騎士学校である。

 この学校には魔法科、騎士科と大きく分けて2つの学科があり、その学科の中でまた幾つかの選択学科で分かれている。選択は各々自由だが、自分の将来に役立ちそうな授業を受けるのが通常だ。

 また、入学後は全生徒毎にクラス分けさせ、同じ教室で学ぶクラスメイトも出来る。選択授業では別々の授業で別れるものの、教室で学ぶ騎士学や魔法学などの座学では同じ教室で授業を受けるのだ。クラスは魔法科や騎士科などは関係なく振り分けられるので、将来同じ職場で働くかもしれない者同士親交を深めることが出来る。

 また実践授業として、チーム分けをして行うチーム戦での戦闘授業なんかもあるので、その際お互いの連携の取り方や自分の魔法や剣技を高め合うことも出来るのだ。

 

 そんな学校の中にある学園長室で、2人の人影が話し合っていた。


「今年も、新入生募集の時期がやってきましたな」

「……まぁ、新入生には興味ないけど……騒がしい時期よね」


 片や学園長である男性。老人ではあるものの、佇まいや言葉の節々からはまだまだ活力を感じる人物であり、この学園の教師陣の中では最も強い実力者でもある。

 片や若い女性。クリーム色の長い髪を持ち、やや吊り目な朱色の瞳を持っている。彼女は教師ではないようだが、この学園でも高い権力を持った人物である。溜め息を吐きながら、テーブルの上に置かれているお菓子に手を伸ばし、飴玉を口に放り込んだ。


 コロコロと口の中で飴を転がす女性は、指先を空中で彷徨わせながら、天井を物憂げに見つめた。


「大体……この学園に来る新入生なんて大したことないガキばっかりじゃない。平民ならともかく、お家自慢の貴族の坊ちゃん達なんて最悪よ? 面倒臭いったらありゃしない」

「まぁまぁそう言わず……卒業する頃には皆自分を振り返って良い子になっているでしょう?」

「良い子、ね……まぁ関係無いから多くは言わないけど、簡単に言えば面白くないのよ、此処の生徒達は……お家自慢のお坊ちゃん、夢見がちな馬鹿正直者、権威に怯える平民、才能も無いのに威張る馬鹿、才能を隠して良い子ぶる頭の良いガキ……見てて苛々するわ」


 ガリ、と飴玉を噛み砕きながら、女性は苛立ちを隠そうともせずに溜め息を吐く。ソレを見た学園長の老人は苦笑しつつも、多く言ってるじゃないかと内心で突っ込みを入れた。

 とはいえ、学園長からしても最近この学園の卒業生の質が下がっているのは確かだった。カリキュラムは伝統と歴史に恥じぬ高レベルのものを維持し続けているが、問題は入学してくる新入生達の質が低下していることにあった。

 所謂天才と呼ばれる金の卵は、確かに年に数人見つけられるのだが、それ以外の新入生達のレベルが目に見えて下がっている。とどのつまり、このまま新入生のレベルが下がり続ければ、その天才達と他の新入生の実力差が卒業時にはっきり分かる程のものになってしまうのだ。


 それはつまり、新入生達に才能という壁を見せつけ挫折させるようなもの。

 学園長としては、この学園に通う全ての生徒達に自分の可能性を信じて、挫折に負けずに成長していってほしい。才能の壁なんていう、自分で作り上げてしまった空想の重圧に押しつぶされないで、自分という立派な才能を最大限伸ばしていってほしいのだ。その為のこの学園であり、その為のカリキュラムなのだから。


「何か刺激があると良いわね……そう、この学園全体に影響を及ぼす様な、刺激がね。出来れば生徒達全員の向上心を煽ってくれると少しは面白いんだけど」

「生徒達の向上心、ですか……そうですなぁ、今の学園には必要なのやもしれませんな……こうなりたいと思う目標、もしくは……これには負けたくないという闘争心にも似た強い気持ちというものが」


 学園長の言葉に、クリーム色の髪を揺らしながら立ち上がる女性。朱色の瞳が何馬鹿なこと言ってるの? とばかりに学園長を嘲笑しているような色を見せる。

 そしてそれは彼女の口からも放たれた。


「目標なら近くにいるじゃない。世界最高にして過去現在未来に存在する魔法使いの頂点である、この私が」

「……貴女は目標にするには若干遠すぎますよ」

「ふん、そういう発言は最低限の努力をしてから言うのね。近付こうともしない奴に届く程、(ココ)は甘くないわ」


 そう言うと、女性はそのまま学園長室の扉を開けて出ていった。

 残された学園長は、出ていった女性の言葉を頭の中で繰り返しながら立ち上がり、設置されている窓から外を眺める。そこからは生徒達が各々何かに取り組んでいる。木剣を振りながら模擬戦をしている男子生徒達、図書室から借りた本を真剣な眼差しで呼んでいる女生徒、雑談に耽っている数名の生徒達、多くの生徒たちが各々時間の使い方で学園生活を過ごしている。

 ソレを微笑ましい平穏と取るか、順応し学園生活に甘んじて本気の努力を忘れた平穏ととるか、それは人それぞれだ。

 だが、あんな話をした後だとこの光景が後者に見えてしまうのも仕方の無い事だろう。


「……いけませんな、学園長がこんな考えでは……新入生募集期間も後少しですし、気を抜かず行きましょう」


 老人は席に着き、テーブルに広がる書類を纏め始める。そしてふと置かれた飴玉の包み紙を見て、クリーム色の髪を持った先程の女性を思い浮かべた。


「過去未来現在の全ての魔法使いの頂点……ですか、大言壮語……ではないんでしょうね。ですがね……貴女の様に自分にそこまでの自信を持てる程、人間は強くないんですよ……才能の壁……案外私も嵌まってしまっているのかもしれませんね、その泥沼に……」


 老人は溜め息を吐きながら、そう言った。



 ◇ ◇ ◇



 アースヴァレル大図書館。

 その大量の本が蔵書され、まるで本の海と思わせる程の壮観な本達の中央で、先程のクリーム色の髪の女性がいた。テーブルの上に腰を落とし、本の匂いを吸い込む様に天井を見上げながら目を閉じている。美しい容姿と綺麗なクリーム色の髪がその姿を美しく彩り、見ている者に溜め息を吐かせた。

 図書室の中には多くの生徒達がいる。いつもなら図書室の中で彼女の姿を見る事は早々出来ないのだが、今日は何故か彼女が図書室のど真ん中でまるで芸術品の彫刻の様に、そこにいた。


 何かを考えているようで、眠っている様にも見える。話し掛けることすらおこがましいと思わせるその空気に、図書室の時間は止まってしまっている様な錯覚すら覚えた。


 だがそこへ、そんな神聖な空気を破壊するかのような声が響く。


「おや? おやおや、かの名高い大魔法使い様じゃないか……お会い出来て光栄だよ!」


 やって来たのは、学校指定の制服を金に物を言わせて煌びやかに改造している男子生徒。勇者と共にいる魔法使いシルフィとは違って、なんだか黒々とした青紫色の髪をした少年だ。顔立ちはそこそこ整っており、背も彼の歳で考えれば中々高い方であった。

 だが、その彼の浮かべている表情はひたすらに見下した様なものであり、光栄とは言っているものの、口調には敬意など全くない様子だった。


「……」


 クリーム色の髪の女性は、うっすらと目を開けて、視線だけその少年の方へと向けた。にやりと笑った顔が視界に入り、見覚えの無い顔に興味が失せる。すぐに視線を切ってまた目を閉じた。


「なっ……! くっ……この女ァ!! 僕を無視するだと!!?」


 その態度が苛立ちを誘ったらしく、小さなプライドが傷ついたとばかりに少年は腰に提げていた剣を抜いた。真剣であり、普通に人を斬ることが出来る代物だ。校則では真剣は実践演習時と認められた決闘の時のみ使ってもいいものであり、生活の中で抜いてはいけないとされている。故に、図書館内は騒然となった。

 そして、その騒々しさが癇に障ったのか、女性は溜め息を漏らしながらテーブルの上に立つ。


「騒々しいわね……剣を抜くなんて、本が傷付いたらどうするつもりなのかしら……」


 呟きながら、女性は少年の方へと視線を向けた。その朱色の瞳に見られて少しだけ後ずさる少年だったが、それがまた頭に来たのだろう。そのまま剣の切っ先を女性に向けたまま睨み返す。


「はぁ……だからつまらないのよ。貴方達は」


 だが、その視線も柳に風といった風に受け流し、女性はパチンと指を鳴らした。すると、少年の足下に魔法陣が展開される。呪文も無く、魔法を発動したのだ。本来人間には、いや魔族にすら不可能な筈の無詠唱での魔法発動……思想種の妖精にしか出来ない筈のソレを、彼女は人間の身でありながらやってのけた。

 そして、その魔法陣が一瞬フラッシュしたかと思えば――少年の姿は図書館から消えていた。転移魔法だ。図書館の外へと放り出しただけだが、それだけでも多大な魔力を使う高等魔法である。それを事も無げにやってのけた彼女は、面倒臭いとばかりに踵を返して歩きだす。多くの生徒たちが見守る中、彼女は図書館の壁に設置された扉から、自分の研究室へと姿を消した。


 生徒達は一様に感じ取る。


 あれが、あの人こそが、全ての魔法使いの頂点なのか、と。



 ◇ ◇ ◇



 そしてそんな出来事が起こっていた2日後―――桔音達はこの学園が存在するクレデール王国王都へと辿り着いた。船を消し、クレデール王国王都の外門を潜る。ギルドカードを見せれば普通に通してくれたので、冒険者ギルドもしっかり存在している様だ。


「んんー、この国は大分高低差というか……坂道多いねぇ」


 桔音はそう言って、大分高所にある王城を見た。このクレデール王国は、土地がそれほど平地ではない故に、坂道が多い。城は土地の中でも高い場所に建てられており、軽く見上げると城を見ることが出来る。大きな建物は城の他にも数多く見られ、ルークスハイド王国よりも広いと感じた。学校が多いというだけあって、それなりに土地を使う様だ。

 見れば喧騒の中には子供達が多く見られるが、無邪気に駆け回っている子供達の中に、佇まいや容姿は今までと違う子供達もいることに気がつく。

 剣を腰に提げている子供も居れば、魔女の様な服を着ている子もいる。おそらく、それらの子が学校で魔法や騎士としての教育を受けている子達なのだろう。桔音は確かに教育国家だ、と納得した。


「さて、取り敢えず宿を探そうか」


 桔音の言葉に、パーティの全員が頷いた。屍音はなんだか人間の街を物珍しそうにキョロキョロと眺めていたが、とりあえず異論は無いらしい。


「じゃ、行くよー」


 桔音が歩きだすとともに、レイラ達もまた歩きだす。

 教育国家クレデール、此処で何が得られるのか、またどんなことが起こるのか、桔音にはまだ想像も出来はしないけれど―――


「(世界最高の魔法使い、か……どんな人かな?)」


 ―――退屈を募らせる魔法使いの頂点と平穏を欲する冒険者の死神が出会うのは、そう遠い話ではなかった。


新しい国へと辿り着きました。

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