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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十三章 魔王の消えた世界で勇者は
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☆水着と仲間

前回に引き続き、挿絵あり。あのキャラの水着挿絵が入っております。

「此処の海って、運が良ければ見れるハート型の尾鰭をしたイルカが見れるんだよ。見た人は恋愛成就の御利益があるんだって」


 事の発端は、神奈ちゃんの齎したそんな情報からだった。

 恋愛成就、この言葉を聞いてレイラちゃんとフィニアちゃんが目を光らせたのだ。そんなものがあるのならと、2人は直ぐに僕の所へ駆け寄ってこう言った。


「「海で遊んでいこっ! きつねさん(君)!!」」


 当然、海へ行く事を拒否する事など出来なかった。2人の気迫が、それを許さなかったからだ。ある意味、魔王や屍音ちゃんと対峙していた時より強大な威圧感を感じたよ。凄いなぁ、本気になった女の子の底知れないパワーは。

 とはいえ、僕としてもそれほど早くこの国を出たいわけでもないし、神奈ちゃんが良いというのなら海へ遊びに行くのも吝かではない。僕だって、遊ぶのが嫌いって訳ではないからね。ルルちゃんやリーシェちゃんは海で遊んだことがないらしいから、リフレッシュには丁度良いでしょ。


 でもそうなると、海で遊ぶに当たって水着が必要になってくるよね。ということで、僕達は早速水着を購入。この水着も、4代目勇者が色々作っていた。スクール水着から始まり、超際どい露出度90%程の水着まで、様々だ。貝殻水着もあった。ちなみに、男子の方は普通に半ズボンで柄が違う程度だった。露骨だなオイ。

 とりあえず、レイラちゃんに似合う水着をそれぞれ選んで貰ったところ、リーシェちゃんは赤を基調とした水着で、腰に布を巻くパレオ。フィニアちゃんはフィニアちゃんサイズの水着の種類があまりなかったものの、子供っぽいフリフリの付いた水着となった。神奈ちゃんは自分で選んだらしく、挑戦的でちょっと色っぽい黒のビキニだった。そしてルルちゃんはなんとスクール水着。レイラちゃん、分かってるじゃないか。

 とりあえず、胸の名札の部分にルルと書いておいた。え? 勿論着てない状態でだよ。着た状態で胸に文字書くなんてそんなことしないよやりかけたけどさ。ああ、ちなみにレイラちゃんは白黒のビキニだった。僕? 僕は普通のだよ、特筆して種類や柄を言わなくても良い、ふっつーの水着だよ。


 さて、リーシェちゃん用に、効くのか分からない日焼け止めと、紫外線対策でパラソルを購入し、そのまま海へと向かう。一応、浮輪も買っておいた。泳げない人がいるかもしれないからね。

 このカイルアネラ王国は、港になっている所と、浜辺になっている所がある。浜辺になっている方は年中開放されていて、危険がない程度に遊ぶことは容認されている。たまにカイルアネラの王族が国民に混じって遊んでいる事があるらしいけれど、国民と王達の仲が良いというのは良い事だろう。


『私は泳げないからなぁ~……物理的に。お湯に浸かるなら気分でどうにでもなるけど、泳ぐとなると浮遊と変わらないんだよね~……残念!』

「まぁ、幽霊だもんね」


 ノエルちゃんの残念そうな声に僕は苦笑する。だから水着になっていないのかと納得しつつ、浜辺に着いた。パラソルを立てて、日陰を作ると、リーシェちゃんはその日陰の中に入って大きく息を吐いた。どうやら海は日差しを遮るものが少なく、リーシェちゃんにとってはあまり良い環境とは言えないようだ。多分このパラソルからは出て来ないだろう。

 というか、吸血鬼って流水が弱点とかいう設定なかったっけ? リーシェちゃんは違うのかな? というか、今日の朝顔洗ってたから、案外水は大丈夫なのかもしれない。多分弱点は日差しだけなんだと思う。


「きつね君♪ 遊ぼう♪」

「きつねさん! 海しょっぱいよ!」

「うんうん、僕は此処にいるから遊んでおいで」


 レイラちゃんとフィニアちゃんがはしゃいでいる、浅瀬でばしゃばしゃと水飛沫を上げさせながら、きゃははと笑っていた。うんうん、なんというか眼福だね。流石はレイラちゃん、胸が揺れているぜ。

 とはいえ、リーシェちゃんが泳げない以上僕達全員が海で楽しんでいるのは少し気が引ける。ということで僕はリーシェちゃんの隣でパラソルの下に入っていることにした。まぁ後で少し海に入れば僕としては十分だね。元々僕はアウトドアなタイプじゃないし。


「……きつね、お前も遊んできていいんだぞ?」

「リーシェちゃんが泳げないんだし、僕泳ぐの得意じゃないから良いよ」

「……そうか」


 リーシェちゃんとそんな会話をしていると、ルルちゃんが一生懸命膨らませた浮輪を持って海へと駆けて行く。そして、その後ろから神奈ちゃんも海へと歩いて行った。魔獣が出てくる海だけど、あの4人ならまぁ大丈夫だろう。寧ろ返り討ちにする可能性しか思い浮かばない。


「なぁきつね」

「ん?」


 すると、リーシェちゃんが僕に話し掛けてきた。視線を移すと、リーシェちゃんはその手に日焼け止めオイルを持って怪訝な顔をしている。ちょびっと手に出して、匂いを嗅いだりしていた。


「コレはどう使うんだ? 飲むのか?」

「飲まないよ、身体に塗るんだ。日焼けを防いでくれるんだよ」

「ああ、成程……じゃあきつね、背中に塗ってくれ」


 おおっとぉ、コレは男が海に来たら言われたい台詞ナンバー1に輝きそうな台詞が来ましたよ。リーシェちゃんはうつ伏せに寝っ転がって僕に背中を向け、日焼け止めオイルを差し出してきた。取り敢えず受け取る。良いのかな? 一応僕男なんだけど、リーシェちゃんそこんとこ分かってるのかな? それとも僕なら触れても良いよー的な意志表示ですか? 何それ超嬉しいんだけど。まぁ、妄想だけどっと。


「良いの?」

「ん、別に大したことじゃない。背中に傷薬を塗って貰うのと何ら変わりはないからな。それに、背中を見せられない程仲間を信頼していない訳じゃない」

「……そっか」


 それなら遠慮なく。本当ならオイルを手で軽く温めてから塗るのが定番ではあるけれど、此処は漫画やアニメで言えば、読者サービスって奴だ。ということで、オイルを手にとってそのまま――


 ―――ぺたり


「ひゃあっ……!?」

「あ、ごめーん冷たかったー?」


 かっこ棒読み。

 良い声を上げてくれるじゃないかリーシェちゃん。流石、皆の期待を裏切らないね。でもごめんね皆、リーシェちゃんが睨みつけて来てるのでサービス終了。というか皆って誰だよ。

 2回目からは普通に手で温めて塗った。丁寧に、触れるか触れないかといった感触で、背中をつつつーと指で撫でる。


「ふ……っ……くひゅ……ふぁぁあ……!」

「あ、ごめーんくすぐったかったー?」


 かっこ棒読み。

 ごめんねリーシェちゃん、僕こういうの初めてだからさ、ちょっと力加減が分からなくてね。だから悪かったよそんな睨まないでよ、ちゃんとやるから。

 ぬりぬり、とオイルを伸ばすようにリーシェちゃんの背中に満遍なく塗っていく。なんというか、吸血鬼になったからか肌が若干白くなっている。しかもすべすべでかなり綺麗は肌だ。女の子ってどうしてこう肌が綺麗なんだろうね。女性ホルモン云々の関係? まぁ男の肌って毛が生えてたりしてあまり綺麗ではないよね。


 さて、一応首裏から仙骨の上くらいまでまんべんなく塗り終えた。リーシェちゃんに塗り終えたと告げると、背中の紐を解いていた水着を付け直して身体を起こす。ジトーっとした目で見てくるけれど、目を逸らし続けてスルーした。


「はぁ……全く」


 溜め息を吐いたリーシェちゃんが、オイルを手にとって今度は自分で腕や足に塗っていく。すぐに馴染んでぬるぬるといった感触が消える所を見ると、異世界だからこその商品ということか。説明書を見ると、周囲の魔素を利用して日焼けを防ぐと書いてある。凄いな4代目勇者、無駄に高性能な物作ってる。

 オイルを塗り終えたリーシェちゃんは、少し大きめに息を吐いて、座り直した。吸血鬼に日焼けもなにもないだろうけど、大変そうだなぁ吸血鬼の身体って。日中は殆ど行動出来ないんだから。


「んー……こうしてゆっくり海を眺めるのは初めてだな。魔王城へ行く時は周囲警戒していたし、帰りはお前の看病だったからな」

「そうだねぇ……」


 座りなおしたリーシェちゃんが、独り言の様にそう言ったのに対し、僕は短く返した。

 すると、少しばかり訪れる沈黙。居心地が悪いという訳ではなかったけれど、リーシェちゃんは僕を気にしているようだった。といっても、良い意味の気にしているというわけではない。なんというか、様子を窺う様な感覚だ。


 そして、十数秒程の間を置いて、リーシェちゃんはぽつりと言う。


「ドランさんのこと……心の整理は付いたか?」


 その言葉は、ほんの少しだけ僕の胸にちくりと痛みを与えた。ドランさんのこと、か……心の整理は付いたっちゃ付いた。まぁ悲しくないかと言われれば今でも悲しいけれど、立ち上がって進める位には心も落ち着いている。

 だから、僕は返事を返さず、首を縦に振るだけで答えた。リーシェちゃんはそれを見て、ふと笑みを浮かべる。


「そうか……良かった。正直な、ドランさんが死んで、魔王城から逃げた後……お前が倒れた時、私は――いや、多分フィニア達もだ……目の前が真っ暗になったような衝撃を受けた」


 リーシェちゃんは言う。


「ドランさんが死んで……きつねまで死んでしまったらどうしようって……私達はその時のことを考えたら全く動けなかった。足が竦んで、身体が震えて、得体の知れない恐怖に息が止まったよ……でも、その時ルルだけが……倒れたお前に素早く駆け寄って、手当てを始めた」

「ルルちゃんが……?」

「ああ……多分、あの子は大切な存在を失った経験があるんだと思う。だからその分すぐに動き出せた。私達が動けたのも、ルルが珍しく大声で指示を出したからだ。食べ物や船の維持なんかの指示を的確に出して、私達はただただそれに従って動いていただけだ」


 そうだったのか……それならルルちゃんに感謝しないといけないな。自分では大したことは何もしていないみたいな態度を取っていたのに、本当は誰よりも僕の命を助けようとしてくれたんだね。本当、可愛い子だよ全く。

 海で遊ぶスク水のルルちゃんを見て、苦笑する。すると、僕の視線に気が付いたルルちゃんが、此方に向かって小さく手を振った。微かに微笑んだ表情からは、リーシェちゃんの言う様な姿は思い浮かばない。


「目が覚めたお前は……ドランさんの死にかなり沈んでいただろう? だから、フィニアもレイラもルルも、そして私も……凄く心配していたんだ」

「!」

「きつねに助けて貰った、救って貰ったのに、私達はお前を救ってやれないのかと思って、悔しかった……レイラなんて、珍しく頭を抱えてうーうー唸ってたし……ルルはルルでお前が乗り越えてくることをずっと祈っていた」

「そっ、か……」


 心配掛けていたのか、僕は。そうか、そりゃそうだよね……僕達は仲間なんだし、僕が皆のことを大切に思っているのと同じ位、皆も僕を大切に思ってくれているんだ。こんなことにも気が付けず、皆に心配を掛け続けていたのか……ドランさんの死で頭がいっぱいだったのもあるけれど、全く不甲斐ないリーダーだ。

 でもそれ以上に、それだけ心配してくれたというのに、皆僕の前でいつも通り振る舞ってくれている。ドランさんが死んでも、僕の周りにはいつも通りちゃんと仲間がいるんだぞって、行動で示してくれていたんだ。


 つくづく、良い仲間を持ったよ。


「……ごめんねリーシェちゃん。僕はもう大丈夫だから、ありがとう」

「ふふふ……何、私はちょっとした裏話をしただけだよ―――リーダー」


 リーシェちゃんが、僕の言葉にカラカラと笑ってそう言った。

 海に反射してキラキラと輝く日の光が、リーシェちゃんを明るく照らしている。きゃいきゃいと聞こえてくるフィニアちゃん達の笑い声とその楽しそうな光景が、なんだかさっきより大切な光景に見えた。




挿絵(By みてみん)


遂にリーシェちゃんが水着で挿絵登場。

今までドランさんがやってくれていた桔音の背をそれとなく押す役目を、リーシェちゃんが担ってくれた感じですね。

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