第91話 ジャンクの山とサイト更新
翌日の昼過ぎ。
《業者オークションで落札した荷物が届きました》
「おお、来たか……」
結界の外から宅配員を迎え、受領印を押す。
玄関に積み上げられた段ボールは、全部で三つ。
どれもガムテープで二重三重にぐるぐる巻きにされていて、重量感もある。
「……これ全部、ブランドのジャンクか」
カッターで開封する。
中から現れたのは、黒や茶色のバッグ、財布、ベルト。
だが、思わず眉をひそめた。
革は乾ききってひび割れ、持ち手はほつれ、金具は変色している。
中にはカビ臭が染みついたものもあり、金属ファスナーが完全に固着して動かないやつもあった。
「……こりゃ、本当にジャンクだな」
《予想通りです。ですが、十分な素材であり、収益化も可能です》
「これ直して売るって……できるのか?」
《できます。ただし――“完璧に直さない”ことが条件です》
「……は?」
リクの冷静な声に思わず顔を上げる。
《説明します。まず、リペアで修復できるのは最大9割程度に抑えるべきです。新品同様まで仕上げると、“なぜそんな状態で出回っているのか”と疑われる可能性が高い》
「確かに……業者オークションに流すなら相手連中はみんなプロの目を持ってるからな。変に綺麗すぎたら怪しまれるか」
《その通りです。特にハイブランド品は製品番号で年式やモデルが判別可能。古いモデルが“新品同様”で市場に出ると、不正疑惑や偽物のレッテルを貼られかねません》
「……実際これ直して売るって、いけるのか?」
《いけます。ただし――新品同様に“完璧”へ持っていくのではなく、“自然仕上げ(九割)”に留めるのが鉄則です》
《具体的には
・部品の欠損は安全に補強だけ行い、純正が無いものを無理に新調しない(その分は説明と価格で調整)。
・革の色落ちはベース色を戻しつつ、うっすらムラを残す。均一ベタ塗りは不自然です。
・金具のくすみはクリーンで清潔感だけ戻し、鏡面級のギラツキにはしない。
・内装のベタつき/臭いは除去するが、刻印や年式感を消すほど触りすぎない》
「……なるほど。直すところは直すけど、“年季の味”を一割だけ残すってことか」
《はい。プロの目にも“自然な中古”に見えるため信頼され、結果として回転率が上がります。加えて販路の選択ですが――》
リクの声が少し硬質になる。
《大手リサイクルショップでの即現金化は避けましょう。確かに早いですが、査定額は修復状態をほとんど考慮してくれません。せいぜい“綺麗ですね”で数千円プラス程度。手間に見合いません》
「ふむ……」
《業者オークションに再出品も推奨しません。プロ同士が監視しており、修復痕はすぐに判別されます。怪しまれるリスクが高い》
「ってことは……?」
《最適解は二つです》
一つ、一般のネットオークションに流す。相場はやや乱高下しますが、ユーザー層が広く、回転率が高い。
二つ、かみはら修理店のサイトに併売する。修理実績として写真を掲載し、“直しました”を強みに差別化できる》
「なるほど……一般向けに“直せる修理屋”って見せるわけか」
《はい。落札から販売までのリードタイムが短縮でき、かつ“修理実績”を蓄積することでサイトの信用度も増します》
「……お前、やっぱ商売上手だな」
《AIですので》
「便利すぎて逆に怖いんだよ……」
山積みになったジャンク品を前に、俺は深く息をついた。
これはただの古物じゃない。修理屋として、俺自身の次のステージだ。
「よし……方針は決まったな」
机の上に財布を並べ直し、カメラのシャッターを切る。
サイトに載せるための「ビフォー写真」だ。
「でもさ、リク」
《なんでしょう》
「……この革のベルト、汗臭が強烈すぎるんだけど。クリーンかけても残ってる気がするぞ?」
《……再度クリーンとアロマを併用しましょう》
「……便利魔法、もう掃除屋向けにしか聞こえない」
俺はため息をつきながらも、次の修理作業に手を伸ばした。
ジャンク品の修理作業に一息ついた時、リクが声をかけてきた。
《太郎さん、そろそろサイトの更新も行いましょう》
「更新? まだ立ち上げたばかりなのに?」
《“特定商取引法に基づく表記”です。古物商許可も取得した以上、最低限整えておく必要があります》
「ああ……そういうの、やっぱ避けて通れないか」
《住所は私書箱で問題ありません。代表者名と古物商許可番号を明記すれば十分です。むしろ記載することで信頼度が増します》
「名前出すのはちょっと緊張するな……。けどまぁ、腹を括るしかないか」
⸻
《次に、買取についてです》
「やっぱり触れる必要あるよな……」
《“基本は修理のみ”と書いておきましょう。そのうえで、“内容によってはお品の引き取りを検討します”と添えておけば、余地は残せます。依頼者側は“もしかしたら対応してもらえるかも”と思えますし、こちらは断る自由を保てます》
「なるほど……。全面的にやりますって言っちゃうと、逆に縛られるもんな」
《さらに、最後に一文》
「まだあるのか」
《“他で断られた修理品でも、一度ご相談ください”》
「……ずいぶん挑戦的だな」
《表現は“特殊なご事情のお品もご相談ください”にすれば角は立ちません。具体的には書かず、匂わせる程度で十分です》
「……確かに、ランタンもカードも、人形は少し違う?気もするけど、何とかやってきたしな。実績はあるんだし、“相談は受けます”ぐらいなら自然か」
《はい。むしろ幅広さをアピールできます》
「……でもさ、これ読んだ人は“この修理屋、何でもやってくれるんじゃ?”って勘違いしないか?」
《勘違いであっても構いません。その期待が相談につながります。断るのはいつでも可能ですから》
「……お前、商売人として怖いくらい冷静だな」
⸻
俺は椅子に深く腰を下ろし、ディスプレイを見つめる。
ジャンク品の山も、サイトの文言も。
どちらも簡単じゃない。けれど、確実に前に進んでいる感覚があった。
「……さて、とりあえずはジャンク品の修理と販売、だな」
《リストアップは完了しています。効率の良い順に提示しましょうか?》
「……やっぱりお前がいると、社畜時代より忙しい気がする」
《でも今の方が楽しいでしょう?》
「……まぁな」
ここまでお読みいただきありがとうございます!
現在ブクマが3950件!なんか夢見たいですが本当に励みになってます!ここまできたら目標は5000件です!w
「応援してやるかぁ」と思っていただけたら、ブクマ&レビューをいただけると泣いて喜びます!!
感想やリアクションも本当に力になっています、ありがとうございます!!




