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3 龍王とダンジョン


 ジョレーヌが出してきた新聞は複数枚あって、そのどれもの見出しが『ブランケッツ』という言葉が入ってるものだった。


「うわ……本当だ――」


 ちょっと絶句するしかなかった。

 イラストも入っている。


 なんか凄い美少年と、猫耳の少女、眼鏡の美人が格好よく並んでたりする。


「――これ、僕ら?」

「そう……みたいね」


 キャルと僕は、顔を見合わせた。

 まあ、キャルが美少女に描かれているのは、別にそれほど間違ってないが。

 僕の絵は盛り過ぎだ。


「まあ、お茶でも飲んでくれ」


 そう言いながら、ジョレーヌが湯気をたてた紅茶を持ってきてくれる。


「ありがとう! 至れり尽くせりだな」


 エリナがご機嫌な声をあげると、ジョレーヌもテーブル席の椅子に座った。


「時に訊きたいんだが――こういう新聞によると、クオンくんは転生者(リィンカー)とある。それは本当なのかい?」


 ジョレーヌの問いに、僕とエリナは顔を合わせた。

 それでエリナが頷いたので、僕はジョレーヌに本当の事を言った。


「本当です。僕はリワルド? ――から来た転生者です」

「私もだがな!」


 エリナがそう言うと、ジョレーヌは軽く頷いた。


「うん、まあそんな気はしてたんだ。ちょっと常識がない感じだったから」

「あはははは……」

「キャルちゃんは違うんだね?」

「あ、はい。わたしは違います」


 キャルがそう言うと、すぐにエリナが口を開いた。


「で、この世界の常識がない我々としてはだ、博識なジョレーヌにこの世界の事を教わろうと思ってきたわけだ」

「そんな博識ってわけでもないけどね」


 ジョレーヌはなんでもなさそうに言う。

 エリナはジョレーヌに訊いた。


「龍王とダンジョンの関係とか知りたいんだが」

「うん、龍王ね。そうだなあ……そもそも龍王たちが、降天歴338年の神渉戦争の終結とともに、変成神イルが創り出した存在である事は知ってる?」


 僕らは揃って首を振った。


「ごめんなさい……わたし、離れで魔導書以外の本とか与えてもらえない生活をしてたから――あまり歴史とか知らなくて」


 キャルが恥ずかしそうに言った。

僕はキャルに向かった言う。


「じゃあ、一緒に学んでいけばいいよ。ね」

「う、うん!」


 キャルが微笑む。よかった、キャルの笑顔が見れて。


「……そっちの二人は、報道も当たらずとも遠からずなのか?」

「え? 僕たちがなんて報道されれるんですか?」

「一部だが、君たちは恋人同士と書かれているぞ」

「こ! こ――」


 恋人…同士――だ…なんて、そんな。

 僕は顔から火が出そうな想いで、キャルを盗み見た。

 キャルも顔を赤らめながら、こっちを上目遣いで見ている。


 目が合うと恥ずかしくなって、僕は目線を逸らした。


「どうやら、報道は間違いのようか。……まあ、いいや。話を続けるよ。ざっくり説明すると、『地下迷宮(ダンジョン)』と呼ばれてるのは、龍王達の巣穴だ」

「「え~っ!?」」


 僕とエリナは驚いた。

ちょっと……一般的なファンタジーと感じが違うんですけど。


「龍王が掘った穴が迷宮のようになってるから、そう呼ばれてるのだが、別に人の手が入ったものじゃない。そして最下層には龍王たちがいるわけだが――つまり世界にダンジョンは『九大龍王』の巣穴の九個、ということだ」


 なるほど、そのうちの一つが氷龍王キグノスフィアのいるキグノスフィア迷宮なんだな。


「龍王というのは、身体が龍素という因子を常時発してる。これは龍王本人の意志とは無関係に発散されるもので、そこに意図はない――が、この龍素は獣たちを変異させたり、急速進化させたりする効果がある。そこで獣たちは龍王の巣穴に近づき、自らを変異させて『モンスター』となる」


「それが魔獣とか、そういう事ですか?」

「魔獣自体は迷宮の外にもいるが、迷宮の中は魔獣だらけだ。で、この魔獣たちは数が増えると外に出て暴走を起こす。これを『スタンピード』と呼んでるが、これは極めて危険な現象だ。そこで、定期的にモンスターを駆逐する職業が必要になった。それが――」

「冒険者――って事ですね」


 僕の答えに、ジョレーヌは頷いた。


「無論、魔獣から摂れる魔石その他の資源も有価値なものだが、ダンジョン・クエストは秩序維持のために必要な事なんだ」

「あの……ちょっと訊いていいですか?」


 僕は声をあげた。


「それなら、龍王を倒せば、迷宮から魔物が生まれる事はなくなる――って事ですか?」

「そう…だろうね、原理的には。ただ、基本的に龍王の討伐は、どのギルドでも推奨してない。というか、龍王討伐は禁止事項だ」


 ジョレーヌの言葉に、僕は少し意外な気がした。

 ファンタジー世界で、龍王討伐というのは鉄板じゃないのか?


「どうして禁止なんです?」

「無理だからだ」


 ジョレーヌはこともなげに言った。


「龍王の眷属である竜たちは、人々に被害を与えるような個体は討伐対象だ。だが、龍王は別格だ。今まで挑戦した野心家も歴史の中でいたが、全く無理だった。迷宮最下層に封印できても、消滅させることは不可能だった」

「そう……なんですか」


 ジョレーヌは頷くと、さらに話を続けた。


「それにそもそもだが、龍王を討伐することは、人間界にもよくない影響をもたらすと考えられている」

「どういう事なんですか?」


「獣たちは龍素に引かれて迷宮に入りこみ、その中で互いに互いを食ったりしながら生存競争を続けている。これがもし行われなくなると、行き場を失った獣たちは人間界にどっと押し寄せる。過去、迷宮の入り口をふさいで獣がモンスター化することを試みたことがあったのだが、結果は、地上の獣、モンスターのスタンピードによる国土の半壊。それ以来、龍王討伐ならびに迷宮の入り口をふさぐ事は、誰もしなくなった」


「そうなんですか……」


 なんというか、大変な話だ。


「龍王というのは、変成神イルが残した『自然の調停者』だと考えられている。それはつまり、龍王とは『自然の一部』――って事だということだ。

「自然の一部って……山とか川とかと同じレベルという事ですか?」


「そう。山や川を簡単に削っていいわけではないように、龍王は討伐していいものではない。そして龍素によるモンスター発生も、その討伐力から得られる人間の進化、産物の生成を促す神の恩寵であると考えられている」

「人間にとって――有益なもの、という事ですか」


「うん。実際、迷宮に行くと、長年にわたって龍素を吸収した龍石があり、それは異能に近い効力や、魔力増加等の様々な効果をもたらすアイテムとなってる事がある。残念ながら力尽きてしまった冒険者の残した武器や防具が、龍素を吸収して魔法アイテムになることも多い。冒険者はそういう、レアアイテムを目指して、迷宮探索を続けるという一面もあるんだよ」


「「「なるほどなあ」」」


 僕らは揃って感心した。


「僕らも――ダンジョン探検に行ってみますか? 冒険者らしく」

「そうだな、それもよさそうだ」

「この街から一番近いのは、マルヴラシアン迷宮だ。海龍王マルヴラシアンの迷宮だな」


 ジョレーヌがそう教えてくれる。

 僕はちょっと興奮して、深呼吸をした。


 と、そんな気分をよそに、エリナがジョレーヌに向かって口を開く。


「話は変わるがジョレーヌ、『魔導剣姫サラディーヌ』の続きは……?」

「ああ、それもない事はないんだが――君に少し相談があったんだ」

「私に? なんだ?」


 訊き返したエリナに、ジョレーヌは真面目な顔で眼鏡を向けた。


「君、本当の『ブランケッツの真実』を書いてみる気はないか?」

「え!? ――私が?」


 エリナは眼鏡の奥の眼を大きく見開いた。


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