2 ブラック・ダイヤモンド
巨漢のゼノンが睨む中、カリヤの黒マスクから声が響いた。
「お前は挨拶はいらん。俺の質問に答えろ。お前がゼノンか?」
「お前は――名乗らんでいい!」
ゼノンがいきなり襲い掛かる。その太い腕を振り、巨大な拳がカリヤの顔を襲う。
その拳が――カリヤの眼の前で止まる。
「ぐっ――力場魔法か!」
ゼノンは歯を食いしばり、蹴りを繰り出す。
が、その横蹴りが当たる前に、ゼノンの腹に前蹴りが当たり、その巨体が吹っ飛ぶ。ゼノンの身体が、家具を破壊しながら奥の壁にぶち当たった。
「ぐぉっ…くうぅ――」
ゼノンが壊れた家具の中から身体を起こす。
「て…めぇ……ナメやがってーッッッ!」
ゼノンの身体から、凄まじい気力が沸き上がる。その気力は、周りの空気を歪めるほどの威力だった。
カリヤは眼を見開いた。
「ほう。ギャングのボスなど木偶の棒かと思ってたが……それなりにやるようだな」
「ほざけ!」
巨体とは思えぬ速さでゼノンが突っ込んでくる。
ゼノンがパンチの連打を繰り出した。
「オオォォォォッ!」
ゼノンが咆哮する。ゼノンの拳は、カリヤの魔導障壁に防がれているが、それをぶち破る勢いでゼノンは連打を繰り出す。
「フン、大した威力だな。…そうだ、これを使ってみるか」
そう言うと、カリヤの手の中に、アブソーブガンが出現した。
その上部についているメダルから、アイコンが数種類、空中に浮かび上がる。
「ハルトのディギアは――これか」
○⇔○、という感じのアイコンをカリヤは触った。
と、連打をしていたゼノンの眼の前から、カリヤの姿が消える。
「な――何処へ?」
「此処だ」
気づくとゼノンはカリヤの位置に。そしてカリヤはゼノンの背後に立っていた。
瞬間、カリヤが剣を抜きざまに振り上げる。
「ガアァッ!」
ゼノンの右腕が斬り飛ばされ、宙を舞った。
ボトリ、とその腕が床に落ちた時、周囲にいたゼノンの手下たちは、声を上げることもできなかった。
「う……ぐ――て、てめぇ……何が目的だ?」
斬られた腕を抑えながら、ゼノンはカリヤに問う。
カリヤは相手を見下す目つきで言った。
「お前……口の利き方が判ってないようだな?」
ゼノンの顔色が変わり、その額には汗が流れ始めた。
「わ、判った、オレの負けだ。お、お前をボスとして認めよう。オレは……あんたの右腕でいい。どうだ?」
「質問に答えろ。お前の部下で、一番面倒な雑務を片付けてるのはどいつだ?」
ゼノンは、なんだ? という顔をして答えた。
「そこの……グレールだが」
ゼノンは視線だけで、部屋の隅に立っていた眼鏡をかけた男を促した。
「そうか」
カリヤはそれだけ言うと、ガントレットをゼノンに向けた。
黒炎が放射されて、ゼノンがあっという間に黒炎に包まれる。
「ぎゃあっ! グガ…ガ…ガァァッ!!」
絶叫を上げて、ゼノンは黒い塊になって床に転がった。
ゼノンの部下たちは、声をあげる事もできない。
「グレール、お前は今日から俺の右腕だ」
「……はい。判りました。――ところで、貴方は何者なのでしょう?」
グレールは、眼鏡の奥の鋭い目つきでカリヤを見つめた。
「俺はカリヤ・ダイヤモンド。こいつらが、俺の部下だ」
カリヤは後ろに並ぶ手下たちを、ゼノンの手下たちに見せつけた。
赤目のビヤル、美少女姿のネラ、そしてゲイルとカザンが、それぞれキングバイパー人間と、バイソン人間に変身した。
「「「な、なんだ!?」」」
驚く手下たちの前で、さらに多くの手下たちがヒモグラ人間に変貌する。
ヒモグラ人間たちが、ずらりと前に出た。
手下たちは、その迫力に息を呑む。
「お前らは女に股を開かせてその上前をはねたり、バカを麻薬漬けにして儲けてる最低な連中だよな?」
カリヤの言葉に、元ゼノンの手下たちは何も言えない。
皆、冷や汗をかきながらカリヤの言葉を聞いていた。
「どうしてそんな下らない真似をするようになった? 冒険者は命がけなのに、大した報酬が得られない。軍人はもはや家柄で軍隊の採用が決まる。――この国の皇帝は傭兵あがりだってのにな? それで落ちこぼれたお前らは、真面目にやってシケた金稼ぐより、他人からむしる方が利口だと思ったわけだろう?」
カリヤはそこにいる手下たちの、一人一人の顔を覗き込んだ。
カシャン、と音をたてて、黒マスクが開く。
「……俺もそうだよ」
カリヤがにやりと笑う。その口からは、牙が見えていた。
「クソ真面目にコツコツ働いて、ショボイ稼ぎで我慢する――そんなのは、バカのやる事だ。そんな事で満足してる奴らに比べりゃあ、お前らの方がまだ利口だ。だがな、俺がやろうとしてるのは、小銭稼いで満足するような――そんなシケた話じゃねえんだ。お前ら……この国を牛耳ってみたいと思わねえか?」
カリヤは手下たちを見つめた。
「み…みたいっす」
そのうちの一人が、声をあげる。
「お、おれも、そんな風に生きれるんなら――」
「オレだって…もっと、デカくなりてえ!」
次々と、元ゼノンの手下たちの声があがる。
と、カリヤの黒マスクの口がカシャンと閉じた。
「いいぜ。見せてやるよ。偉そうにふんぞり返ってる連中が、俺たちの足元に這いつくばる風景を見せてやる。その代わり……死ぬ気で俺についてこい!」
カリヤの声に、手下たちが雄叫びをあげた。
「今日から俺が此処のボスになる。不服な奴はいるか?」
カリヤの最後の問いに、手下たちが応えた。
「ボス! 今日から――いや、今からボスと呼ばせてもらいます!」
「おれはあんたについて行くぜ!」
「なんでもやりますぜ、ボス!」
カリヤは満足そうに笑みを浮かべ、中央のソファにどかりと腰を下ろした。
「よし、いいだろう。今日から俺たちは、『ブラック・ダイヤモンド』だ。判ったか!」
オウ! という大勢の声が、その場でこだました。
〇 ○ 〇 ○ 〇 ○ 〇 ○
「よく判らない事は、よく知ってる人に訊いてみよう!」
というエリナの案に従って、僕たちは月光堂書店に来ていた。
店主のジョレーヌは、相変わらずの愛想のない眼鏡姿で僕らを迎えた。
「久しぶりだな、ジョレーヌ! 色々あってご無沙汰してしまった。もっと早くに来たかったんだけど」
「うん。君たちに色々あったのは、ある程度知ってる。街で噂だからね」
え? 街で噂?
「噂なのか、私たち?」
「今やトップニュースと言ってもいいだろうな。『謎多きパーティー・ブランケッツの実態!』と言ったところだ。――まあ、座りなよ」
ジョレーヌはカウンターの奥から、そう声をかけた。
見ると、前にはなかった丸テーブルと椅子のセットがカウンター傍に置いてある。
「素敵だな、ジョレーヌ! いいじゃないか」
エリナの声に、ジョレーヌは少し照れくさそうな顔をした。
「少し本棚を整理してね。本を選ぶ人が、落ち着いて本が読めるスペースを作ろうと思ったんだ」
そう言いながらジョレーヌは、テーブルの上に新聞を新聞を置いた。




