第十七話 ダンジョン探索 1 白夜の呪宝の行方
「それからしばらく……わたしたちは逃げた。けど、わたしたちは追手に捕まって、わたしは奴隷の首輪と足環をつけられた。お父さんとも引き離されて――それからどうなったのか判らない。けど移送中の隙を見て、わたしは逃げ出した。そして……クオンに助けられたの」
キャルはそこまで話すと、深い息を吐いた。
僕と出会った時に――もう、そんな事を経験していたのか。
そう……僕は思った。
けどエリナは、その先の事をキャルに訊いた。
「それでキャルちゃん、その『白夜の呪宝』は、お父さんを拉致した奴に奪われてしまったのかい?」
「ううん。お父さんと旅をしてる途中、お父さんがわたしから離れて三日間いなかった時があったの。そして戻ってきたらこう言った。『白夜の呪宝』を封印したって」
「「封印?」」
僕とエリナは、思わず声が揃った。
「封印って、何処に――なんだろう?」
「あの時、三日間わたしが待ってたのは、ラングール山脈の入り口と言われているカスカル山の中腹。麓の村から標高で1200mくらい上がった地点」
「「え~っっ!!」」
僕とエリナは驚くしかなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! ラングール山脈というと――」
エリナは地図を取り出して広げた。スマーク大陸の西の北側がガロリア帝国。その一番北の半島に、僕らの暮らしているオーレムがある。ガロリア帝国はそこか広く大陸に版図を広げているが、その大陸の北部と南部を分けているのがラングール山脈だ。
地図で見た感じだと大きく三層に連なる山脈から構成される大山脈だ。その北側のまさに『入口』の処に、カスカル山、とある。
「……此処、標高はどのくらいなの?」
「どれくらいだったかな? 確か……3300mくらいだったような――」
マジか。確か富士山が3700mくらいだったような……。
富士山クラスの山か!
「これより奥は、もっと高い山が沢山あるの」
「そんな処に、何故、お父さんは行ったの?」
エリナの問いに、キャルが考えながら答えた。
「この付近には、もっとも高山地帯にある迷宮と言われてる『キグノスフィア迷宮』がある。そこの迷宮ボスが氷龍王キグノスフィア。白夜と青炎の二つの呪宝は、元は一族が氷龍王キグノスフィアから貰った氷龍水晶を元に造った――って聞いてる。……お父さんは、キグノスフィアに白夜の呪宝を返しに行ったんだと思う」
「「氷龍王!?」」
突然出てくる謎のキーワードに、こちらは混乱するばかりだった。
エリナさんが驚きの中でも、さらに問いを続ける。
「氷龍王って、『九大龍王』の一体――って事だよね?」
「うん」
「えぇ~っっ!」
エリナが声をあげた。
「龍王って実在するの? 本を読んでると歴史書にも出てくるから、もしかしたら伝説だけじゃないのかもとは思ってたけど……そんな身近な存在なの?」
「ううん。龍王たちは魔龍大戦の後は、人間界には出てきてない」
「魔龍大戦って――六百年くらい前の話よね?」
「うん」
エリナと僕は、顔を見合わせるとため息をついた。
……話の規模が大きすぎて、実感がもてない。
けど、キャルはそういう事実の中で生きて来たんだ。
「それで……呪宝がないなら、キャルが操られたりすることはない――わけ?」
「多分、大丈夫だと思う。この間は――沢山の人が倒れているのを見て、わたしの一族が襲われるのを想い出したの。そのショックで、青炎の呪宝が発動したんだと思う。わたし、魔法は使うけど……なるべく、あの力は使いたくない」
僕は頷いた。
「そうだよね。キャルはほとんど自我を失ってたし、あまりいい感じじゃなかった。安全とは言えないかもしれないけど、モンスター相手のクエストをこなして、あの力が出ないようにすればいいよ」
「うん……」
キャルが暗い顔をしてうつむく。僕は慌てて言った。
「どうしたの? クエストはもう受けたくない?」
「ううん、そうじゃないの。……ずっと本当の名前も言わないで、隠し事をしてたわたしを――許してくれるの?」
キャルが真剣な眼をして、僕を見つめた。
僕は微笑ってみせた。
「何言ってるんだよ。僕だってイジめられてた事とか言わなかったし、話してくれてもくれなくても、キャルが僕らの仲間である事に変わりなんかないよ」
「そうだよ」
エリナもそう言って、眼鏡の奥の眼で笑ってみせた。
キャルが安堵したように微笑む。
やっぱりキャルは、笑顔が可愛いよ。
「ありがとう……クオン…エリナ」
「さてさて! じゃあ、そろそろ次のクエストを受けるか、という話だよ。なにせ、資金もそろそろ尽きそうだからな!」
雰囲気を変えるようにエリナが明るく言い、僕らは微笑んで頷いた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
そこは夜の街、盛り場からは少し離れた屋敷の前。
外に出ている男は、酒瓶を片手に涼んでいる。
「へへ……ハイになるのはいいが、こう暑くちゃやってらんねえぜ」
男は笑いながら、傍にいた女の肩を抱いた。
「どうだ、新しいクスリは? 最高の気分だろ?」
「ああ……これサイコーだよ。もう……たまんない」
女が上気した顔で、男の顔を見る。
男は女の顔を見返すと、笑いを浮かべて酒を口移しに女に飲ませた。
「――此処です、ボス」
不意に、屋敷の外から声がして、男は声の方を見た。
若者が声の主である。その若者が話しかけてるのは――
黒のマントをまとい、黒いマスクを着けた男。
その黒マスクの下から、男は声を出した。
「おい、此処が『ヘビー・アソルト』のアジトか?」
男の問いに、酒瓶を持った男は睨みをきかせた。
「なんだ、てめぇ? 口の利き方を――」
男が黒マントから左腕を出す。金の鎧が覗くが、左腕のガントレットは黒い。
と、黒いガントレットが掌を向けた瞬間、酒瓶を持った男の全身からいきなり黒い炎が上がった。
黒い炎に焼かれる男の手から、酒瓶が落ちて割れる。
男はものも言えずに、黒い焼死体となって倒れた。
「ヒッ! ヒィーッッ!!」
恐怖にとり憑かれた女が絶叫する。
「黙れ。もう一度訊くぞ。此処は『ヘビー・アソルト』のアジトか?」
女は声を殺して、泣きながらブンブンと頷いた。
「そうか。――行くぞ」
黒マントの男――カリヤはそのまま進み、屋敷に侵入する。
「な、なんだ、てめぇは!」
「どこのどいつだっ!」
いきなり現れたカリヤの姿に、人相のよくない男たちの怒号が向けられる。
カリヤは歩みを止めることもなく、声を出した。
「ビヤル、黙らせろ」
「ケケケ」
赤目ゴーグルのビヤルが指を立てて両掌を上に向けると、紫の髑髏が空中に現れる。その髑髏は瞬時に飛んでいくと、男たちの首から上を喰いちぎった。
次々と絶叫が上がるなか、カリヤは気にも留めぬ様子で先へ進む。
カリヤは階段を上がり、ドアを開く。
その正面には一番、大きなソファに座る巨漢の男がいた。
屈強な体つきに、凶悪な顔。頭は上部を短く残した、スキンヘッド。
その両側に、女が群がっている。
「あん? 誰だ、てめぇは?」
「お前が『ヘビー・アソルト』の親玉、ゼノンか?」
カリヤの問いに、ゼノンは凶悪な笑みを浮かべた。
「どうやら、挨拶の仕方からしつけが必要だな」
ゼノンは立ち上がると、カリヤを睨みつけた。




