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6 キャルの告白


 キャルはうつむいたまま、言葉を紡ぎ始めた。


「今まで……黙っててごめんなさい。わたし…自分でも、もう一族とは無関係な、別の生き方ができるんじゃないかって思って――」


 キャルの顔が泣きそうになっている。

 僕はすぐに言った。


「気にしなくていいんだよ、キャル! ずっと話さなくてもいいし、キャルはどんな風でもキャルだから――僕の気持ちは変わったりしない」

「キミの気持ちってなんだい、クオンくん?」


 エリナが横目で見てきて、僕は自分の言った事に我に返った。


「そ、それは……」


 僕は顔から火が出そうなほど熱くなりながら、言った。


「キャルを必ず守る! …って、ことです……」

「ふうん……」


 エリナが笑う。な、なんだよ、その顔は!


「まあ、キャルちゃん、私もクオンくんと同じだ。キャルちゃんが何者であったとしても、私はキャルちゃんの事が好きだし、大事な妹みたいに思ってる。それは何を知っても変わるものじゃない」


 ああ、僕もこんな風に喋れたら――

 と、思っていると、キャルが涙目で顔を上げた。


「ありがとう、二人とも。けど、やっぱり本当のこと二人には知ってほしいから…」

「「うん」」


 僕らは頷いた。


「わたしの名前は――キャロライン・シャレード。キャルは子供の頃の愛称。そう呼ばれてた頃が…幸せだったから。ポッツはその場で思いついた名前」


 うん。判ってた、キャル。……いつか、こんな日が来ると思ってた。


「猫耳の有尾族(テイリアン)は、大体、強い魔力を持つ種族が多いのだけど、わたしの一族――シャレード族は、特に魔力が強い一族だった。けど、それで多くの戦乱に巻き込まれて、一族から多くの死者が出た。一族はそれを悔やんだけど、戦乱になればシャレード族の魔力を利用しようと、色んな集団がやってくる。一族はそれを避けるために辺境にこもり、魔導士をあまり出さないようになったの」


「強さより、平和を選んだわけだな。賢明な選択じゃないか」


 エリナがそう言った。キャルが頷いて、言葉を続ける。


「そうなんだけど、かつての一族の力を悪用しようとしたり、一族自体に恨みを持ってる者もいる。だから一族は、その力を集約させる魔力を持つ呪法を生み出して、選ばれた依代にその呪法を刻印することを習わしとするようになったの」

「それが……キャル?」


 僕の問いに、キャルが頷いた。

 と、不意にキャルが背中を向ける。


 かと思ったら、突然、頭から上着を脱ぎ始めた。


「え! え!? ちょっと――」


 キャルの色白の背中が露わになる。なんて綺麗な肌なんだろう――とか、言ってる場合じゃない!


 キャルが胸を腕で隠して、前を向いた。


「わわ、わあっ、キャルっ!?」


 僕は赤くなりながら、見るべきか見ざるべきか――それが問題だ!


 顔を赤らめて横を向いたキャルを見る。

 その腕の上――鎖骨より下の辺りに、何か炎のような紋様がある。


 僕は我に返った。


「それは――」

「『白夜の青炎』の…刻印の紋章。この下に――青炎の呪宝が埋め込まれてる」

「埋め……」


 僕は絶句した。

 最初に会った時、キャルは首輪と足環を架せられていた。

 けどそれ以前から――同じ一族によって、異物を身体に埋め込まれていたんだ。


「私が『白夜様』に選ばれたのが十歳の時。それまでは、同年代の子と同じように、外に出て遊んで、お婆ちゃんに薬草を教えてもらったりしていた。けど、『白夜様』に選ばれてからは、わたしは離れに独りで住まわされるようになった。できる事は魔法の学習くらいで――けど、それも特に重要じゃなかった。わたしという『依代』が、ただそこにいればいい――そういう扱いだったの」


 キャルはそう言うと、息をついてうつむいた。


「それが前に言ってた……奴隷と変わらない扱いだったって事だね……?」


 僕の言葉に、キャルが頷く。

 なんて事だ――


「もう、わたしには将来の夢とか、なりたい職業……誰かとの恋愛や、世界を旅してまわること――そんな事は、もう縁が無くなってしまった。そんな風に思ってたの。けど、その不自由だけど平和だった暮らしが打ち破られた……」


 キャルの表情は、今までに見たことのないくらい張り詰めたものだった。

 僕はただ、キャルを見つめた。


 ――が、我に返るとキャルが上半身裸のままなのに気付いて、動揺した。


「わ、判ったからキャル! とにかく、服を着て!」

「うん……」


 キャルが背中を向けて服を着る。そして服を着終わると、沈んだ顔でキャルは話し始めた。


「ある日、村にミゲルという男が来たの。男は近くでモンスターに襲われて、身体中に怪我をしていた。それで命からがら逃げてきたミゲルを、村はとりあえず助けて介抱した。


 ミゲルは画家だといい、傷が治ってからは村のあちこちで絵を描いていた。子供たちに絵の描き方を教えたりして、気さくで人当たりがいいミゲルは、次第に村の人たちと仲良くなり、うち解けていった。――わたしもある日、ミゲルと話をすることができた」


 キャルの身体が、少し震えた。が、キャルはそのまま話を続ける。


「ミゲルは優しく絵の描き方を教えてくれた……。一人でいなければいけなかったわたしは、絵なら自分の寂しさを埋められるかも――って思った。するとミゲルがわたしに訊ねたの。『どうして君は、いつも一人なんだい?』って。白夜の依代の事は絶対に話しちゃいけない一族の秘密だった。だからわたしは、うつむいて何も喋らなかった……。


 けど、突然に異変が起きたの。村に見知らぬ軍隊が侵入してきて、村人を襲い始めた。村長がわたしのところに飛んできて、『お前が、村を守る時が来た』と告げた。するとわたしの身体から青い炎がたちのぼり、わたしの身体は恐ろしいほどの魔力で満たされた。


 そして……それ以降の事は曖昧な記憶しかない…。ただ、うっすらと覚えているのは、わたしが魔力を駆使して、大勢の兵士を殺した事。そして――」


 キャルが口ごもった。肩が震えている。

 僕は、そっとその肩に触れた。


「大丈夫だよ、キャル」


 キャルが、涙に濡れた瞳を僕に向けた。

 その眼から、涙がこぼれる。


「わたしが……村の人を魔力で殺した――」


 キャルはそう言うと、顔を覆って泣き始めた。

 僕はたまらなくなって、キャルの身体を抱きしめた。


 キャルが、心の痛みに耐えている。それが判った。

 自分自身が恐くて震えている。それが判った。

 罪の重さに押しつぶされそうになっている――それが判った。


「キャルのせいじゃない。キャルがやりたくて、やった事じゃないんだ」

「けど、わたしは……」


 キャルは濡れた瞳で、僕を見上げた。


「わたしはきっと……怪物なの――」


 僕は首を振った。


「違うよ、キャル。本当の怪物は、キャルにそんな事をさせた連中だ。その事で、キャルが苦しむことなんてないんだ」

「クオン……」


 キャルは大きく息をつくと、涙を拭った。

 エリナがそこで、口を開く。


「それで……キャルちゃんは、どうしたんだい?」

「気が付くと――わたしは、お父さんと二人きりだった。お父さんがわたしを連れだして、逃げてたの。わたしは、何が起きたのか聞いた。


 村に兵士たちが侵入する手引きをしたのは――ミゲルだった。ミゲルは最初から、村に伝わる『白夜の青炎』の秘密を知るために潜入した男だった。そしてわたしは『白夜の青炎』として覚醒し、兵士たちの多くを魔力で追い払った。けど、『白夜の青炎』は、それを操る道具がある。わたしに埋め込まれた『青炎の呪宝』と対の、『白夜の呪宝』が。


 その白夜の呪宝を手にしてわたしを操っていたのは村長だったのだけど、その対の呪宝の秘密までミゲルは村の誰かから聞き出していて、村長を殺して呪宝を奪った。ミゲルは今度はわたしに、村の人間を殺させた。……その最中、お父さんがミゲルから呪法を奪い、わたしを連れて逃げた。――そう、お父さんから聞かされた」


 キャルはそこまで話すと、顔をあげて僕らを見つめた。



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