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4 ギュゲスの片眼鏡


 突然飛んできた手裏剣が、ギュゲスの顔に突き刺さる。それは両目を直撃し、ギュゲスの片眼鏡が割れて砕けた。


「ギャアアァッッ!」


 ギュゲスが顔を抑えて悲鳴を上げる。

 すると手裏剣は顔を離れ、うなるように旋回しながらギュゲスの身体を所かまわず切り刻んでいった。


「い、痛いぃっ――ヒッ! ヒィッッ!」


ギュゲスはたまらず泣き叫ぶ。

 そこに姿は見えないが、女性の声が飛んできた。


「お前に殺された人たちは、もっと痛く苦しかった! 私の眼の前で、三人の男女が巨大ワニに生きたまま喰われたのよ。私はあの時の、恐怖と苦痛に満ちた顔を忘れない!」


 手裏剣は凄まじい速さで回転しながら飛び廻り、ギュゲスの身体を斬り刻む。

 片手で顔を抑えたまま、カリヤを探すように手を伸ばし、ギュゲスは悲鳴をあげた。


「た、た、助けてくれ、カリヤ! カリヤァッ」

「チッ」


 カリヤはそれを見ると、鼻で笑いながらも魔導障壁で、自分ごと包んだ。


 魔導障壁に防がれた五枚の手裏剣が、空間の一ヵ所に戻っていく。

 と、そこに両手を胸の前で交差させたエリナが現れた。


 手裏剣が空中から飛んできて、その両手に収まる。


「お前は……クオンと一緒にいた眼鏡女」

「う……あぁ………」


 ギュゲスが呻くと、傷を堪えきれない様子で床に崩れ落ちた。


「少しは人の痛みを知る事ね、ギュゲス・ネイ」


 エリナは眼鏡の奥から、厳しい視線でギュゲスを睨みつけた。

 カリヤがエリナに向かって口を開く。


「お前……やっぱり、いい女だな。眼鏡を外して、俺のものになれ」

「レイプ魔のカリヤ。これ以上、クオンくんに何かしたら、いつでも私は貴方を殺しにいくわ。正面から戦ったりしない。その代り、24時間、いつでも私は現れる。何処へだって潜り込むことができる。……安眠などしないことね」


 そう言うと、エリナは両手を降ろす。と同時に、その姿が消えた。

 カリヤは不敵に笑みを浮かべた。


「いいじゃねえか。夜中に来いよ、可愛がってやるぜ」


 そのカリヤの足元で、ギュゲスが呻いた。


「い…痛い……身体中がいたぁい……カリヤ、頼む、治癒士を呼んでくれ……」


 カリヤは床に転がるその姿を見降ろしながら、しゃがみ込んでギュゲスに囁いた。


「助けてやってもいいが、お前に訊きたいことがある」

「な……なんだ?」

「お前、ハルトとカエデを、なんかの方法で暗示にかけてるか、洗脳してるだろ?」


 その言葉を聞くと、顔中血まみれのギュゲスの表情が堅くなった。


「な…なんの事だね」

「とぼけんなよ。俺はあいつらみたいに木偶の棒になりたくねえんだ。お前のやり口を知っとかなきゃ安心できねえ。どういうカラクリか言いな」


「お…お前はディギアがないから興味がない。お前を操ったりしない」

「いいから言えってんだよ!」


 カリヤは血だらけのギュゲスを怒鳴りつけた。

 ギュゲスが観念したように、口を開く。


「操霊樹という植物がある……。獣に種子をつけて操り、自分の種を遠くに運ばせる習性を持つ植物だ。これを改良し、種子を植え付けられた者は、親樹の霊具を持ってる者の命令に従う呪具――操霊架を作った……」


「なるほど……その種子は身体の何処にある? 解除法はあるのか?」

「耳の後ろに種子は根を喰い込ませている。その種子を取れば、暗示は消える」

「その呪具ってのは、どれだ? 見せてくれ」


 カリヤの問いに、ギュゲスは震える手で懐から取り出した。

 それは木製の手に収まる十字架のような形をしていた。


 しかし厳密には、T字型の上に球が乗っている形である。

 カリヤはギュゲスの手から、その操霊架を取ると、立ち上がった。


「考えやがったな、ギュゲス。これでディギナーを自分に従う道具にしておいて、ディギアを集めてたわけか」

「は、早く治癒士を呼んでくれ! 眼が…眼が痛い!」


 這ったまま、両目から血を流すギュゲスは、手を伸ばして訴えた。

 カリヤはニヤリと笑いを浮かべる。


「ギュゲス、あんた、前に俺に言ったよな? 『用済みになったからといって、無暗に命を奪うようなことはしない』。あんたあ、寛大な奴だよ」

「カ…カリヤ?」


 カリヤは這いつくばるギュゲスを見下ろして言った。


「残念ながら、俺はあんたほど寛大じゃあねえんだよ。用済みな奴は消す――」


 カリヤは剣を、ギュゲスの首に突き刺した。


「ギャァアッッ!!」

「――それが俺の信条でな。甘いんだよ……お前も」

「ギ…ギュ……があぁぁ――」


 両目から血を流したギュゲスは、呻き声をあげると絶命した。


「さて、死人には必要のねえ物をいただくか」


 カリヤはそう言うと、ギュゲスのベルトについているカードケースサイズの収納ケースを開く。

 光とともに出てきたのは、アブソーブ・ガンだった。


「フン、お前には宝の持ち腐れだぜ。俺が有効に利用してやる」


 カリヤは収納ケースごと奪うと、死人の顔を少し眺めた。


「……俺は大体、お前の片眼鏡が気に入らなかったんだよ」


 カリヤはそう言うと、せせら笑いを浮かべた。

 その時、裁判所の扉が開き、新たな軍勢が現れた。


「私はバルギラ公爵だ! ここで動乱が起きていると知って参上した! 騒ぎを起こしている者は、全員、逮捕する!」


 声を上げているのは、剣を掲げたバルギラ公爵であった。

 その姿を見て、カリヤは笑みを浮かべた。


「来やがったか――おい、ビヤル! 撤収だ!」

「ケケ、もう少し楽しみたかったがのう」


 ビヤルが再び空中に紫の髑髏を大量に出す。

 と、その髑髏は口を開け、紫の煙を吐きだした。


「なんだ!?」

「ど、毒ガスだ!」


 衛兵たちが混乱状態に陥りパニックになる。

 裁判所内は紫の煙が充満し、視界がまったくきかなくなった。


「野郎ども! 撤収しろ!」


 カリヤはそう言いながら、ヒモグラが開けた地下の穴へと入りこむ。

 カリヤの一味は次々と穴に入りこみ、その行方をくらませた。



   〇   ○   〇   ○   ○   〇   ○   〇



 空中で紫の髑髏と、キャルの作った青い薔薇が衝突をし、あちこちで爆発が起きている。


「凄い……魔力だ――」


 キャルにこんな魔力があるなんて――

 驚きはあったが、それよりもキャルの様子が気になった。


 キャル全身から青い炎を揺らめかせ、その眼からも青い光を放っている。


「アアアァァァ――」


 キャルが…吠えている。

 あんなキャル、見たことがない。何か……異常な感じだ。


「キャル! キャル、しっかりするんだ!」


 僕はダッシュして、キャルの傍へと寄った。

 が、次の瞬間、キャルは僕の方を向いて、歯を剥き出しにした。


「フゥーッッ!」


 猫の威嚇だ。いや、むしろ豹とか虎とか言うべきか。

 なににしろ、キャルは我を忘れている。


「キャル、落ち着いて! 僕だ、クオンだ! 判らないのかい?」

「フゥーッッ!!」


 まだ威嚇が収まらない。が、僕はそっと近寄った。

 威嚇しているキャルの息が、少し収まる。僕を見ている。


「……クオン………」


 青い炎の揺らめきが消え、キャルの表情が元に戻る。

 と、キャルが意識を失って、その身体がぐらりと揺れた。


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