3 対峙――クオンとカリヤ
「俺を怪物にしたのは……お前だろうが、クオン!」
カリヤが口から火を噴いた。
クオンはコートを翻すと、それを防御する。と、その爆炎を破るように、クオンが突進してきた。
「カリヤァッ!」
「クオンッッ!!」
カリヤの抜いた剣と、クオンの棒剣がぶつかり合った。
二人の視線は、互いを激しく睨みつける。
「お前を生かしておいた事を――今、後悔している!」
「その後悔のなかで死にな!」
カリヤが前蹴りを放つ。その足がモロにクオンの腹に当たるが、クオンは怯まない。瞬時に、その姿が消える。
カリヤが横に剣を出す。バネ脚ダッシュで消えたクオンが、眼に見えない程の速さで放ち斬りをうってきていた。振りが見えない斬りかかりを、カリヤは受ける。
と、左腕のガントレットから黒炎が巻き起こり、カリヤの全身を包んだ。
その黒炎が燃え移る前に、クオンは離脱する。
しかしそのクオンを追うように、カリヤは黒炎を放った。
クオンが跳んで躱す。と、クオンはそのまま天井を蹴りつけ、上空からカリヤに斬りかかった。カリヤが剣で受ける。
「ムッ――ぐぅ――」
凄まじい重量がカリヤの剣にのしかかる。
「潰れろ、カリヤ!」
「ぐぅ……貴様ぁ――」
カリヤが呻いた時、声が上がった。
「カリヤ!」
思わず、クオンはその声の方を見た。
と、クオンは身体に異変を感じて、そのまま着地する。
クオンは自分の身体が思うように動かせなくなっている。
「な――動か…な……」
「オレだよ、今までナメてくれたな」
その声の主は火眼ペイントをしたゲイルだった。
しかし、その両目は金色に光っている。と、その顔が、蛇の顔へと変化する。
「これは……キング・バイパーの邪視?」
クオンは驚愕の中で声をあげた。
カリヤが薄笑いを浮かべながら、近づいてくる。
「いいぞ、よくやったゲイル」
「――クオンくん、大丈夫かい!」
そこにクオンを庇うようにエリナが飛び込んできて、手裏剣を放った。
手裏剣はカリヤとゲイルを次々と襲う。
「追加だ!」
エリナはさらに一枚を持つと、カリヤに向かって投げた。
カリヤはそれを剣で打ち落す。
「チッ……ゲイル、こいつらはまかすぞ」
「おお!」
ゲイルがそう答え、身構える。
ゲイルが足止めしてる間に、カリヤは吊るされてるアーノルド太守に近づいた。
「た、助けてくれ! なんでもする!」
「最初から何でもしてくれりゃあ、こんな事せずに済むと思わねえか? なあ?」
涙を浮かべるアーノルド太守を見て、カリヤは剣を掲げた。
無造作にその腹に突き刺す。
「ぎゃあっ!」
アーノルド太守が悲鳴をあげる。と、その口を割るように、顔に線が入った。
カリヤが剣を横に振り抜いている。太守の顔が、半分になって落ちた。
「おい、お前、よくやったな。誰だ?」
太守を掲げていたヒモグラ人間が、人間の姿に戻る。
真っ先に移植手術を希望した、若い男だった。天然パーマらしい金髪を短くしている。顔にはまだあどけなさが残るが、男前といっていい風貌だった。
「オレはジェットです!」
「フン、見どころのある奴だ。ついて来い」
「はい!」
ジェットは再びヒモグラ人間に変身すると、歩きだすカリヤの後について行き始めた。
場内では衛兵たちが次々に倒されていた。
ヒモグラ人間の手下は力が強いだけでなく、口から火を噴いて衛兵に襲い掛かる。
ネラの超巨大蛸のファントムの威力はすさまじく、誰も手が付けられない。
さらにそこへビヤルの紫の髑髏があちこちで爆発を起こす。
今や裁判所内は、破壊された瓦礫と炎、そして倒れた衛兵たちの残骸置き場と化していた。その地獄のような光景の中を、カリヤは悠々と歩く。
「次は白猫女だ――あそこか」
カリヤは一角にいた、キャルを見つけた。
「よし、次はあいつだ連れてこい」
「判りました、ボス!」
ジェットがヒモグラ人間の姿で駆けていく。
襲い掛かるヒモグラ人間に気付き、キャルが魔導障壁で防御した。
「やめて!」
ヒモグラ人間の巨大な爪が、魔導障壁に喰い込んでいく。
「やめて……」
「ギィーッ!!!」
ヒモグラ人間が奇怪な声をあげて、さらに爪を喰い込ませた。
爪はもはや、キャルの眼の前だった。
「やめて……もう、やめてええぇぇぇっっ!」
キャルが叫ぶ。
その瞬間、キャルの全身から青い炎が立ちのぼった。
その爆発的な威力に、ヒモグラ人間が吹っ飛ばされる。
顔を上げたキャルの眼は青い光を放ち、頬には青い紋様が浮かんでいた。
「……キャル?」
異変に気付いたクオンが、キャルの元へと駆け寄る。
しかしキャルは全身から青い炎を揺らめかせ、その眼は青い光を放ったまま、周囲を睨んでいる。
キャルは両手をあげた。
と、青い薔薇のような炎が空中に幾つも現れる。
「アアアァァァッ!」
キャルが吠えた。
「ほう! これは面白い! ワシに対抗するというのか!」
赤目のビヤルが、指を立てるように両掌を上に向ける。
その空中に紫の髑髏が幾つも空中に現れた。
「ケケケ……どっちが勝るかな?」
ビヤルが笑った瞬間、髑髏が予測不可能な軌道を描いて衛兵たちの元へ飛来する。それを迎撃するように、凄い速さで直線を描き、青い薔薇がぶつかっていった。
各地で、髑髏と薔薇の衝突による爆発が起きる。
「ンンンン――アアアァァァッ!」
キャルがさらに声を上げると、青い薔薇が追加で現れ、ビヤルを直接襲いにかかった。
ビヤルが対抗するように髑髏を出すが、その数に押される。
「ケケケ……こいつはバケモノか? ――ギェェッ!」
遂に数で押されたビヤルが、爆発で吹っ飛ばされる。
「やるねえ、白猫の少女! ボクとも遊んでよ!!」
声をあげたのはネラだ。巨大なタコの腕――先が蛇の頭になっているタコの触手が、キャルに襲い掛かる。
キャルはそれを見ると、青の薔薇の炎の直系3mはある巨大なものを作り出す。それが直線的に飛んでいくと、蛇の頭を一つずつ消し飛ばしていった。
「チッ――あの猫耳をさらうのは無理か……」
キャルの凄まじい魔力行使を見ていたカリヤは舌打ちした。
と、その傍へギュゲスがやってくる。
「――か、カリヤ! こんな事までして、お前は正気なのか!?」
「あん? なんだ、お前。悪党のくせに、こんな事でビビってんのか?」
ギュゲスは片眼鏡を嵌め直すと、カリヤに言った。
「私の望みは新たな技術開発で本部に戻り、ザラガ・ブラッファーに替わって新室長になることだ!」
「ハン、出世か。くだらねえ」
その瞬間――ギュゲスの顔に、手裏剣が立て続けに五枚突き刺さった。




