2 動乱
ガルドレッドの詰問を受けたギュゲスは、微笑を浮かべてみせた。
「皇帝の意に背くなどとんでもありません、ガルドレッド将軍。転生の儀など行ってはおりませぬ」
「嘘だ!」
僕は声をあげた。
「嘘をつくな、ギュゲス・ネイ! 僕はお前たちに転生させられて――そして殺されかけたんだ! しかもカサンドラ隊殺しや、青霊鳥密猟の濡れ衣まできせようとした。お前がどれだけ嘘をついているか、僕は知ってるぞ!」
「いやいや、どうやら誤解があったようだ。すまないね、クオン殿」
ギュゲスは平静な顔で裁判長の方を向いた。
「青霊鳥の捕獲は確かに、我々が命じたものです、裁判長。どうやら妙な噂が広まりクオン殿が憤慨しておられるようだが、青霊鳥が禁猟生物だたっとは『つゆ知らず』、捕獲を命じたのは我々の落ち度。それ相応の補償をもって、償いとさせていただきましょう」
ギュゲスは抜け抜けとそう言った。
裁判長は、そのギュゲスに問うた。
「では青霊鳥の捕獲を認めるとして、カサンドラ隊全滅の犯人は?」
「……それは、カサンドラ隊長の言う通りなのではないでしょうか」
ギュゲスの言葉に、カリヤは眼を剥いた。
「ギュゲス、てめぇ!」
「衛兵、その男を捕らえろ!」
裁判長の命令で、衛兵たちがカリヤを囲む。
衛兵がその腕を捕らえようとした瞬間、カリヤはその腕を振り払った。
「……気安く触るんじぇねえよ」
黒マスクのカリヤが、低い声で凄む。
囲んだ衛兵たちが、その迫力にじりと押された。
「臆するな! 我々も加勢する!」
ガルドレッド将軍の護衛二人が衛兵たちに混ざってカリヤを囲む。
僕も、その場に近づいて声をあげた。
「カリヤ、おとなしく捕まれ。お前の陰謀なんて、その程度のものだ」
僕の言葉を聞いて、カリヤは僕を見て不敵に笑った。
――この状況下で…笑い?
「俺がこんな処で終わる男だと思ったか、クオン?」
「確保しろ!」
カリヤの声を無視して、衛兵たちが一斉にカリヤに押し寄せる。
カリヤは左腕を出すと、黒炎のガントレットから黒い炎をあげた。
そのまま近寄る衛兵たちに、黒炎を一斉放射する。
「ぎゃあっ!」
「ぐわっ――」
衛兵たちの身体が黒い炎に包まれた。
「怯むな! 相手は一人だ!」
将軍の護衛の一人が声をあげて斬りかかる。
カリヤはその剣を、自らの剣で受けた。剣がぶつかり合い、間近の距離で二人がにらみ合う。
「俺が独りだとでも思ったか?」
その瞬間、カリヤの黒マスクの口元が開いた。
中には――牙の生えた口が見える。
カリヤはその口から、護衛の顔面に向けて炎を吐いた。
「ぐあああぁぁっっ!」
顔を抑えて背中を向ける護衛を、カリヤは背中から剣を突き刺した。
胸から剣が貫いた剣が飛び出した瞬間、顔を焼かれた護衛が口から血を吐いた。
「甘いんだよ……」
カリヤが背中を蹴とばすと、護衛は床に倒れる。
そうしておいてカリヤは、不意に右手を剣ごと掲げた。
なんだ? と思った瞬間だった。
突然、床が爆発したように爆ぜる。幾つもの箇所で床に敷き詰められた石板が砕け飛び、その地面から影が飛び出してきた。
その影が地面に降り立つ。
「あれは……ヒモグラ…?」
人間サイズだが、顔がヒモグラのように変貌している。
その両手は大きく、巨大な爪が生えていた。
「地面を――掘ってきたのか?」
そのヒモグラ人間が掘った穴から、さらに人影が現れた。
火眼ペイントと鼻ピアス! 見たことある顔だ。
そしてさらに、宙に浮かぶように二人の人物が現れた。
一人は赤目のゴーグルをつけた髪の逆立った男。
そしてもう一人は――あの薄緑の髪の美少女だ。
「おい、お前ら! 好きに暴れな!!!」
カリヤが黒マスクを閉じながら、そいつらに告げる。
「ケケケ……ならば遠慮なく、やらしてもらおうかい」
赤ゴーグルが両手を掲げると、空中に紫の髑髏が一斉に現れた。
「な、なんだこの数!」
「こいつ、『赤目のビヤル』だ!」
声があがった途端、衛兵、傍聴者を無関係に髑髏が襲った。
突然、辺りは悲鳴と爆発音が鳴り響く――地獄の現場へと化した。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「ヒッ! ひぃ――」
「に、逃げなければ!」
裁判官たちが恐怖の表情を浮かべて席を立つ。
が、裁判長の身体だけが宙に浮いた。
「な、なんだ、これはっ?」
「あなたが裁判長だよね?」
現れたのは薄緑の髪の少女――ネラである。
「上から偉そうに物言うくせに、権力と手を結んで体制側の悪事は見逃すのが得意なんでしょ?」
「や、やめろ……」
「ボクはね、嫌いじゃないよ。そういうゲス」
ネラが微笑む。その瞬間、裁判長の身体が雑巾を絞るように捻じられた。
「ギュッ――ギッ、ギギ……」
呻き声をあげた裁判長は、奇妙な形に捻じられる。
「裁判長!」
裁判官たちが悲鳴をあげた時、裁判長の亡骸が床に放り出された。
裁判官たちは、声にならない悲鳴をあげた。
「いいねえ、その顔。キミたちにはさ、とっておきを見せてあげるよ」
ネラはそう言うと、口を三日月のように開いた。
すると裁判官たちの前に、巨大な分霊体が現れる。
そのファントムはとてつもなく巨大で、高い作りの天井まで届く大きさだった。
「「な、なんだこれは!?」」
それは薄灰色をした巨大な蛸であった。
が、その腕の先端の全てに、蛇の頭がついている。
その十本以上もある蛇の頭は、次々に衛兵に襲い掛かった。
「ぎゃあっ!」
「た、助けてくれ!」
あまりの強力なファントムの前に、衛兵たちはなす術もなく喰い殺されていく。
その阿鼻叫喚の中で、声が上がった。
「――ボス! 太守を捕らえました!」
その時、隅の方から上がった声に、カリヤは視線を向けた。
ヒモグラ人間の一人が、アーノルド太守の頭を持って身体を掲げ持っている。
「よし、よくやった」
「――待て、カリヤ!」
移動しようとするカリヤの前に、立ちふさがった者がいる。
クオンであった。
「クオン……」
「カリヤ! お前は――もはや怪物だ!」
クオンの言葉を聞くと、カリヤの黒マスクの口元が突然開いた。
カリヤが露わになった口で笑みを浮かべる。その口には牙が生えていた。




