4 ディギナーズ
シャチの噛みつきが空を切ったのを見たスルーが、声をあげた。
「な――いきなり消えた!? 」
目標を見失ったシャチがウロウロしている。
「……霊力で探査できない。動く音も、気配もしない――これは異能だ。シグマ! どっちかが異能者だ!」
シグマはしかし、カサンドラの鎖剣の攻撃を凌いでいる最中だった。
その虫っぽい外骨格の腕の部分と、脛の部分は特に装甲が硬いらしく、剣の攻撃はそこで受けている。
僕は軽化して相手の攻撃を躱しながら放ち斬りをするが、僕の攻撃も防がれる。かなりの速さなのに、攻撃は完全に見抜かれていた。
「フム……お前たちの実力は見切った。今度はこちらの番だ!」
シグマがカサンドラに急接近する。
カサンドラは鎖剣を放つが、それを前腕で弾かれる。
が、鎖剣はさらにうなりを上げて、背後から再びシグマに襲い掛かった。
「ムンッ!」
それを後ろ回し蹴りで迎撃すると、そのまま跳躍して回転蹴りをカサンドラに放つ。カサンドラが左腕で防御した。
「うあっっ!」
前腕では堪えきれず、腕ごと蹴りを押し込まれたカサンドラが、胸部に蹴りを受けて後方へ吹き飛んだ。
一瞬、身を低くしたシグマが拳を腰にあてて勢いをためている。
「シグマパンチ!」
瞬間的な速度とともに、シグマが拳を突き出す。
その拳は白い光を放っており、その軌道が白の線を描いた。
「ぐ――」
腹部に強烈なパンチを受けたカサンドラが、後方へ吹っ飛ばされて転がった。
「カサンドラ!」
「く……なんて奴だ――」
転がった先で、カサンドラが歯噛みしながら身を起こす。
「オレの攻撃をよく耐えられたな。気力防御できたか――だが、いつまでも耐えることは不可能と知れ!」
段々、こいつの物言いに腹がたってきた。
僕はバネ脚で最大加速して、すり抜けるように放ち斬りを放つ。
「ムッ!」
しかしシグマがそれを受ける。構わない、後ろにすり抜けたらすぐにバネ脚で折り返し、背後から斜めに放ち斬りをうつ。
僕は連続して、周囲から放ち斬りの応酬をした。
棒剣は重さをほぼ無くしているから、振りはほとんど見えない速さだ。
が、こいつはそれを全て受けている。
「速い! が、お前の攻撃は軽い。それではオレを傷つけることはできない!」
そう、シグマが言ったと思った瞬間、横をすり抜けようとした僕の身体が突然、吹っ飛ばされた。
「うわぁっ!」
どうやら動きを捉えられて、横蹴りを喰らったらしい。
軽化と同時に硬化しているからダメージはないが、思い切り吹っ飛んだ僕は壁に叩きつけられた。
「「クオン!」」
こちらの様子を見ていたのか、カサンドラの声とともにキャルの声がした。
「そこか!」
シャチがその声のした処に襲い掛かる。と、透明だが魔導障壁に、シャチが噛みついた。
「相性ではアタシの方が上さ!」
シャチが魔導障壁を食い破って、中の二人を襲う。
「きゃあっ!」
現れたキャルとエリナの姿が、床に転がった。
「やっと姿を現したね。どっちがディギナーなんだい、え? 正体を見せてもらおうか!」
突如、シャチの身体が10体に分離した。
一体一体は小さくなって、マグロくらいの大きさになっている。
が、その小さなシャチの群れは、二人を囲んだ。
「もう二人一緒にはさせないよ。ギュゲス様はディギアをお求めだ。ディギナーを捕まえたら、お褒めの言葉がいただけるからね!」
シャチの群れが、二人に襲い掛かった。
二人が魔導障壁と結界で防御する。
「キャル!」
助けに行こう――として、僕は気づいた。
そうだ、相性だ。霊力に対して優位なのは気力。
僕は持ってない。
「カサンドラ! 二人を助けて、あのシャチをやって!」
カサンドラは頷くと、二人の方へ向かった。
「行かせるか!」
「お前の相手は、僕だ!」
追尾しようとするシグマを妨害するように、僕は重硬タックルで突進した。
シグマが僕のタックルを受け止める。力が衝突しあった。
「あの二人だって、ギュゲス・ネイのところに行ったって、その傘下に入ったりしない! 無駄なことだ」
「そんな事はない。我々、『ディギナーズ』に来れば判る。お前もギュゲス様とバルギラ様に、忠誠を誓うようになる」
バルギラ様? 誰だ?
だが、それより――『来れば判る』ってなんだ? いきなり僕らが豹変するか?
……いや、こいつらは、なんらかの方法で洗脳あるいは暗示を受けているんじゃ。
それを僕らにも施すことが前提だ。だから、捕獲すればいいと考えている?
僕らは距離をとった。
「ディギナーズに来い、クオン。お前ほどの実力ならば、喜んで仲間に加えてやるぞ」
「願い下げだ!」
僕はそう叫びながら、カサンドラの様子を見る。
カサンドラは、シャチを一太刀で斬り伏せていた。
よし、今だ!
僕はダッシュして、重硬タックルでぶつかる。シグマはそれを受け止めた。
次の瞬間に、僕は叫ぶ。
「キャルは右足を! エリナさんは左足!」
「ムッ…なにを――」
そう呟くシグマの様子が、おかしいのが判った。
二人が念動力と力場魔法で、シグマの動きを固定している。
僕はシグマから離脱して、壁から出てきていたスルーに襲い掛かった。
「ハン、お前なんかに捕まるものか!」
そう言いながら、スルーの姿が壁の中に消える。
僕はすぐさま、その後を追った。
スルーが消えた壁を触る。
領域軟化!
「今だ、カサンドラ!」
「ハッ!」
気合とともに飛んできた鎖剣が、軟化した壁に刺さる。
深く刺さった鎖剣が、ゆっくりと押し戻されてきた。
「バカ…な………どう…して……壁を――」
その剣の先から、スルーの姿が出てくる。
フルーの胸を、鎖剣が貫いていた。
よろめくように壁から出てきた後、小さく血を吐いてスルーが倒れた。
「スルー! ――貴様ら、よくも!」
シグマの両足が白く光り出す。と、シグマは拘束を脱出してジャンプした。
その勢いで天井を蹴り、反転して蹴りの形をとる。
「シグマキック!」
狙いはキャルだ。白く光った足先が、キャルに迫っていた。
「キャル!!」




