2 青霊鳥の救出
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床にうち棄てられた焼死体に、手下たちの顔は青ざめていた。
「いいか……放っておけば、お前らもこうなる。ただし――俺がやるんじゃない」
カリヤは床に転がった焼死体を前に、手下たちに言った。
「クオンだ。奴が、お前らを皆殺しにする。あいつは、おとなしい顔をしてるが、そういう奴だ」
カリヤはゆっくりと歩いて、場の中央に移動する。
「あまく見るな。奴はこの場所を知った。次はここを襲撃してくる」
「マジかよ、カリヤ」
ゲイルが、カリヤに問うた。カリヤは頷く。
「間違いない。奴は必ず何か仕掛けてくる――そういう奴だ」
「じゃあ、どうするんだよ?」
カザンの言葉に、カリヤは言った。
「この場所は廃棄だ。が、その前に――」
カリヤは、その他の手下たちを見回した。
「てめえら、むざむざと死にたいか?」
手下たちは、声を上げられない。
「いいか。死にたくなければ強くなれ! ここにいるゲイルとカザンは、元は三流のEランク冒険者だ。だが今は、どうだ? Bランク相当のボルト・スパイクにもヒケをとらねえ実力になった。それは、こいつらに覚悟と度胸があったからだ。お前らに、それがあるか?」
「オ…オレはあるぜ!」
カリヤの言葉に、まだ子供に近い若い男が声をあげた。
それに続いて、おれもおれもという声があがる。
カリヤは眼を細めた。
「……いいぜ。だったら、お前たちを強くしてやる」
*
カリヤは10人の手下を連れて、裏通りを歩いていた。
「ねえ、何処で行くのさ?」
隣を歩きながら、ネラが訊いてくる。
「ドクター・ロウという男の処だ」
「おお、ドクター・ロウ! 有名人だな。ワシも会うのは初めてだ」
ケケケと、赤いゴーグルをしたビヤルが笑う。
やがてロウの診療所に着いたカリヤ一行は、ロウと向き合った。
「おい、ドクロ! こいつらを、ゲイルたちにやったような強化をしてくれ」
「ヒッヒッヒッ! 随分と大勢じゃのう。しかし残念ながら、今は強化となる『素材』がない。何か、モンスターでも狩ってくることじゃな」
ロウの言葉に、カリヤは眉をひそめた。
「なんだと? 手っ取り早い何かねえのか?」
「そうじゃのう……ヒモグラなら、ギルドの廃棄所に転がっとるかもしれんが」
カリヤは黙って、ゲイルに首を振ってみせた。ゲイルとカザンが、一緒になって駆け出す。
「しかし、移植手術をしたところで、成功率は半々といったところじゃ。あの二人はたまたま耐久力があったから適応できたが――誰もが耐えれるとは限らんぞ」
「フン、ここで死ぬようなら、そもそも使い物にならねえ」
カリヤはそう言うと、手下たちを睨んだ。
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僕たちは呆然としながら、並ぶ瓶に入っている青霊鳥を眺めた。
「青霊鳥を――助け出せないかな」
「う~む、少し見てみよう。一旦、アタック体勢を解除するか」
そう言うとエリナが、ポケットから降りる。
キャルとカサンドラもそれに倣い、皆が透明化から姿を現した。
エリナは各瓶からのチューブが集まってる、集積器の方を見ている。
「う~ん、残念ながら霊力を逆流させるスィッチはない。霊力を奪うだけの装置だ。これから青霊鳥を出したら、生きていられるかは――ほぼ賭けだな」
エリナの言葉に、僕は言葉を失った。
青霊鳥を無理に出そうとして、逆に殺すかもしれない。
――そんな恐さが脳裏を横切った。
「……出そうよ。それでも」
不意にキャルが口を開いた。僕らは全員、キャルを見つめた。
「生きていたとしても、こんな機械につながれるだけの生き方なんて……青霊鳥だって望んでないよ、きっと。こんな残酷な仕打ちを――そのままにできないよ」
キャルははっきりとした、強い意志を持ってそう言った。
そして僕らを見つめる。僕は頷いた。
「判った。……そうだね、僕もキャルの言う通りだと思う。この瓶から、青霊鳥を出してみよう」
エリナとカサンドラも、それに頷いた。
とりあえず、一番、手前にあった瓶を手に取る。
こうして手にしてる今も、青霊鳥が霊力を奪われている感じが判る。
僕はロックを解除して、蓋を開けた。
パシュ、と空気の抜ける音がして、青霊鳥の姿が露わになる。
そっと取り出した。
動かない――と思ったが、少し首を振った。
生きてる。エリナが言った。
「少なくとも、出してすぐに死ぬような装置じゃないな」
「よし、手分けして全部の青霊鳥を出しましょう」
キャルとカサンドラが、僕の言葉に頷いた。
それから僕らは、瓶から青霊鳥を一羽ずつ救出していった。
少し時間はかかったが、数えると32羽いる。
「そうだ、カサンドラの収納珠、まだ返してなかった。そもそも、これを返そうと思って、戻ったんだった」
僕がそう言って、大き目の収納珠を取り出すと、カサンドラが苦笑した。
「もう、クオンが持っていてくれていい。とりあえず、それは生物も保管できる大サイズだから、ここにいる全部の青霊鳥を収納できるだろう」
僕は収納珠に青霊鳥を全部収納する。これで保護は完了だ。
「さて……目的の証拠集めだが――まず、この瓶を一つ物証として持って行こう。後は研究資料探しだな」
「瓶はキャルの収納珠に入れといて。資料は上の階で、皆で探しましょう」
僕らは上の階に戻って、その辺の機材においてある書類なんかを調べた。
「多分、これが設計図だな。機能も書いてある――この隅に、ギュゲス・ネイのサインもある。証拠としては充分だろう」
「よし。それじゃあ引き上げましょう。またアタック体勢に戻って」
再び三位一体の状態になった僕らは、姿を消して研究室を後にした。
透明なまま、研究棟の廊下を進む。
と、突然、僕らの身体に電撃が走った。
「うわぁっ!」
衝撃で倒れると、透明化が解除されて、倒れた皆の姿が現れた。
「――ウソ! ホントに? こいつら、全然、姿が見えてなかったんだけど!」
「透明になる魔法でも使ってたのか。しかし、それも無くなった。お前たちの姿は、完全に見えているぞ!」
女の声に続いて、男の声がする。
身体を起こしてみると、男女のペアが歩いてきていた。
「こんばんは、泥棒さんたち。ファフニールに忍び込むなんて……命知らずね」
そう言って微笑んだのは、スレンダー体型の女性だ。頭全体が丸く見えるようなショートカットで、ブラウンの髪をしている。
隣にいる男の方は、風もないのに風になびいたような銀髪だ。ちょっと見には、少年漫画の主役みたいな感じに見える。男の方が、僕らを指さした。
「大胆不敵な悪党どもめ! 覚悟しろ!」
なんか、常に勢いがないと喋れないのか、この人。しかし、僕らが悪党?
「僕らは悪党じゃない。悪党というなら、青霊鳥を実験で苦しめてるファフニールの方がよっぽど悪党だ」
「なんの話か知らんが、深夜に忍び込んだお前たちに言い逃れはできない! おとなしく捕まるか、それとも――」
銀髪の男は、自分を親指で指さした。
「ここで、オレに倒されるかだ!」




