第十五話 ブランケッツ&ボルト・スパイク共同作戦 1 ファフニール潜入
深夜、僕らはファフニールの研究棟に来ていた。
「此処が研究棟ですか」
新しい鎧に身を包んだカサンドラが、黙ってうなずく。
朝の会議の後、この深夜までは僕らは準備をしていたのだ。
共同作戦を話し合った後、ボルト・スパイクはガルドレッド将軍への使いに出ていった。街外れで馬車を拾っていくつもりらしかった。
僕たちは透明化したスペンシャル・ブランケッツ号で、一度カサンドラの家に
行って準備をした。カサンドラの家は豪邸というほど大きくはなく、まったく人がいなかった。
「全然、人がいないみたいだけど?」
「私一人だからな。我が家は領地を持つ貴族ではないから、それほど富裕というわけではない。私は軍の宿舎にいてほとんど家に帰らないから、使用人はおいてないのだ」
じゃあ、カサンドラは帰っても、この広い家に一人だったのか。
そんな僕の思惑をよそに、カサンドラは白銀の鎧を持ってきて身に着けた。
「やはり…大きいな」
「カサンドラのじゃないの?」
「これは、兄のなんだ――ミスリル製というと、もうこれしかない。しかし、大きさが合わないな。やはり鉄製の一般的な鎧にしておくか」
亡くなった、というお兄さんのものか。僕は、その鎧をカサンドラに着てほしくなった。
「大きさが合わないなら、合わせたらいい。何処が合わないの?」
「その……胸のあたりが、だ」
カサンドラは少し顔を赤らめながら言った。僕も思わず赤くなる。
「ちょっと待って。え~と、僕が触れてれば軟化するから、それを自分に合わせながら加工して」
「そんな事ができるのか?」
僕はうなずきながら、白銀の鎧を軟化させつつ、カサンドラの身体に被せた。
「ふむ……粘土状になっているな。これなら――」
カサンドラは身体に合わせて、鎧を加工して身に着けた。
手甲や脚絆などの細かい部分も、ついでにカサンドラの体型に合わせる。
すると最初から女性用鎧か、オーダーメイドだったかのように、カサンドラにピッタリの鎧ができあがった。
「うむ。前の鎧より着心地がいいくらいだ」
「それならよかった」
僕の言葉に、カサンドラは微笑を向けた。
「ありがとう、クオン。これで…兄と一緒に戦える」
前の銀の鎧の時の姿より、すっきりして見える。
僕はうなずいてみせた。
その後は武器の調整をしたりもした。カサンドラはキャルに借りた魔法の指輪を返すと、逆に魔法石のバックルをキャルにプレゼントしていた。
二人が魔法石に魔法を入れている間、僕とエリナはファフニールの下見に出た。
エリナがコートのポケットに足を入れて、透明化する。
おおまかな場所だけ掴んで、僕らは夜を待った。
そしてやってきたのが、深夜の研究棟だ。
近くまでブランケッツ号で来た後、僕らは新しい体勢で、研究棟に来ている。
僕はコートのポケットを真ん中に一つ増やし、三つにした。左にエリナ、右にカサンドラ。そして真ん中のポケットにキャル、という配置で片足ずつ乗ってもらい軽化同調してもらう。
両側の二人が肩を組むように回し、キャルが首に抱きついている、という格好だ。
そしてエリナが透明化させているので、僕らの姿は見えない。僕は囁いた。
「此処からはカサンドラが、力場魔法で浮かせて移動して」
「判った」
ふわりと浮いた僕らは、研究棟の奥へ行く。
奥の方は、外から見ても窓が小さくて少ない。
「奥の方が研究室の中でも、立ち入り禁止区域だった」
「なるほど、怪しいな――少し浮いてみてください」
ふわりと高い処に目線がいく。僕はスコップを取り出すと、壁に穴を開けてみた。
「キャル、光魔法で照らして」
「うん」
ライトで照らすように、キャルの指先から光が放射される。
中には誰もおらず、壁が埋まっていない場所も判った。
「いいよ。じゃあ、地面に」
ライトが消えて、地面に降り立つ。
あたりを付けた処で、僕は壁を大きくくり抜いた。
軟化して壁を外してしまう。
三人でそこを通り抜けると、僕は壁を戻した。
「此処は控室だな。研究室はもっと先だ」
「行きましょう」
カサンドラの浮遊魔法で移動する。
別の部屋に着くと、そこには鍵がかかっていた。
軟化して、ドアノブごと外してしまう。
中に入ると、そこは研究機材が並ぶ部屋だった。
「此処はかなり怪しい……。けど、大掛かりな実験装置みたいなものはなさそうだ」
しばらくすすむと、金属製の螺旋階段が地下に続いている。
「此処か」
僕らは階段を下りた。
目の前に出てきた扉を開けると、僕らは息を呑んだ。
――沢山のガラス筒が並んでいる。数はかなりある。
そのガラス筒からはパイプが伸びており、一番大きな人ほどもある巨大な円筒につながれていた。
その巨大な円筒には、ピンク色に光る液体のようなものが溜まっている。
もう八割ほど、円筒はピンク色の液体で満たされていた。
しかしそれにつながれている一つ一つのガラス筒には――
青霊鳥が入っていた。
青霊鳥たちは眠っているように、ビン詰めにされている。
この状態で、霊力を搾り取られているのだと思った。
「ひどいわ……」
キャルが、嗚咽を堪えるように声を洩らした。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
ギュゲスの処から戻ったカリヤとネラは、手下の青ざめた顔に迎えられた。
「大変です! 捕まえていた奴らに――逃げられました!」
カリヤは黒マスクの上の眼で、報告に来た手下を睨んだ。
「なんだと……」
カリヤは早足でアジトの建物に入り、二階へ上がる。そこにはゲイルとカザンもいた。
「す、すまねえ、カリヤ……」
ゲイルがそう言うのを無視して、カリヤは捕らえてあった牢獄に近づいた。
鉄格子が、もぎ取られたように無くなっている。
カリヤは、以前にクオンと戦った時、自分の剣が潰されたことを思い出した。
「クオンの野郎だな……」
横を見ると、壁に大穴が開いている。そこから脱出したと思われた。
カリヤは手下たちを振り返った。
「おい…てめえら……」
カリヤの凄みに、その場の者全員が下を向いた。
「見張り一つ…留守番すらロクに出来ねえのか? ああ?」
誰も、怯えた表情で何も言わない。
カリヤは苛立った声をあげた。
「逃げられたのはいつだ?」
「正確には判らねえが……そいつが倒れてるのを見つけたのが、30分ほど前だ」
カザンの説明に、カリヤはカザンが指さした男を見た。
ギン、と目力を込め、黒炎のガントレットから力場魔法を使う。
「ひっ――」
睨まれた男が宙に浮く。そのまま自分の処まで来た男の顔を、カリヤは黒炎のガントレットで掴んだ。
と、突如、男の顔を掴んだ手から、黒い炎があがる。
「ヒッ――ヒィィィ……」
男は顔を焼かれながら悲鳴を上げたが、その黒い炎は全身に燃え移る。
カリヤは男の焼死体を床にうち棄てた。




