6 獅子王戦騎団のガルドレッド将軍
八人だとテーブルが全然足らなかったので、僕は薪テーブルをもう一つ作る。
で、「いただきます」にボルト・スパイクが驚いて、エリナさんがそれを説明する――という件をやった後で、僕らは朝食を食べた。
「それで、クオン、これからどうするつもりだ?」
ランスロットの言葉に、僕は改めて考えた。
「そうだなあ、僕は今のところ、密猟者で、狂言放火犯で、殺人犯で、脱獄犯――ということになってるんじゃないのかな」
「まさに凶悪な犯罪者だ」
エリナがツッコミを入れたので、思わず苦笑する。
「けど、つまるところ、それはカサンドラの証言で全部ひっくり返る話で、向う――ファフニールは、カサンドラが生きてることを知らない。ただ……カサンドラが証言するという事は、カサンドラがファフニールの依頼で、青霊鳥を密猟していた事も告白することになる」
僕はカサンドラを見た。カサンドラは首を振る。
「私の事は気にしないでくれ、自分の罪はちゃんと引き受けるつもりだし、証言もするつもりだ」
「ありがとう、カサンドラ」
僕はカサンドラの言葉に、微笑んで見せた。
と、スーが口を開く。
「あの……脱獄犯って言いましたけど――クオンさんが脱出したのは、正規の留置場じゃありませんわ」
「正規のって――じゃあ、何処だったのかな?」
「恐らく、ファフニールの施設内の留置場だったんじゃないか?」
カサンドラの言葉に、僕は頷いた。
エリナが今度は口を開く。
「という事は、クオンくんはファフニールに不当拘束されただけで、正規の逮捕をされたわけじゃない――という事かい? この国で、犯罪者を逮捕するのは?」
「警護隊だな。オーレムはケルダ郡に入るから、ケルダ警護隊の管轄だ」
ランスロットの答えに、スーが続けた。
「クオンさんを拘束した三人は警護隊じゃありませんわ」
「そうだ。一人はカリヤだし。……そういえば、彼らは僕をギュゲスの配下に加えるみたいな事を言ってた。狙いはそれであって、逮捕自体も正規のものじゃない……かも」
「けど、ギルドでは彼らのデタラメが広まってます。それをきちんと、釈明した方がいいのでないでしょうか」
スーの言葉に、カサンドラが再び口を開いた。
「少し考えたのだが……私の部下を殺した犯人は、カリヤだと受け入れられると思う。が、青霊鳥の件は、口頭依頼だったので、ファフニールの依頼だったと証明する物がない。――となると連中は、私とクオンが組んで、青霊鳥を密猟した…などと言いたてる可能性があるのではないか? あのギュゲスが、すんなり自身の罪を認めるとは思えん」
「確かに……」
「そこでなんだが――私は、帝都まで行って、中央の人間に証人になってもらいたいと思っている」
「誰か、アテがあるんですか?」
僕の言葉に、カサンドラが応えた。
「獅子王戦騎団の一人、ガルドレッド将軍だ」
「獅子王戦騎団! ――『レオン・ヘッド』?」
カサンドラの言葉に、ガドが驚きの声をあげた。
見ると、ランスロットも驚きの表情を浮かべている。
「あんた、獅子王戦騎団に、知り合いがいるほどの人なのかい?」
「ジャイムズ・ガルドレッド将軍は、私の父の友人で――剣の師でもある方だ。私を軍に入れてくれた恩人でもある」
ガドが眼を丸くする。どうも、明らかに尊敬の念が増したらしい。
「けど確か、少し前の建国祭の時に、デゾン復活の騒ぎがあって、13人いる獅子王戦騎団が、半数になったって聞いたわ」
ミレニアがそう言いながら、視線を向けた。
「そうだ。おじ様もその時負傷なされた。それが元で、今は引退を考えていると言っていた」
「しかし……カサンドラはレオン・ヘッドの弟子なのか。そりゃあ、強いわけだぜ」
ランスロットが苦笑しながら、そう口にする。
カサンドラは首を振った。
「いや、弟子…と言っても、不肖の弟子で、正当な剣技は身につかなかった。私は非力すぎて、おじ様の教えにはついていけず、自分の工夫で鎖剣などという我流に頼ったんだ」
カサンドラは、自分の内側を覗くように話していった。
「黒炎のガントレットも引き継いでいたし、戦力はそれなりにあったからな。……けど、おじ様は私が黒炎のガントレットを使うのを、あまりいい顔をされてなかった。今、思うと――私のことを案じてくれていたのだろう。けど私は力を得たことでいい気になって、おじ様の言葉を聞こうとはしなかった……」
カサンドラはそう言うと、少し沈んだ顔をみせた。
不意にキャルが、口を開く。
「けどきっと……今でも、あなたのこと心配してる。そして、力になってくれると思う」
カサンドラは、ハッとなって顔をあげた。そして微笑みを洩らす。
「そうだな…。私もそう思う。おじ様の助けを乞おう。おじ様も含め、軍人には怨機獣デゾンのような超兵器を戦に持ち出すのを好まない勢力がある。いわば反ファフニール派だ。ファフニールの勢力拡大を止めるために、ファフニールの弱点をおじ様たちは調査していた。今回の件でも……きっと協力してくれる」
僕はその言葉に、頷いた。
と、エリナがさらに声をあげた。
「もう一ついいかな? そもそもだが、何故、ファフニールは青霊鳥の密猟をしていたのか?」
「そういえば……」
エリナは人差し指をたてて言った。
「これはあくまで推理だが――青霊鳥というのは高い霊力を持った鳥だ。その鳥たちの霊力を使って、『異世界転生』者を召喚していたのだと思う」
エリナの言葉に、僕は息を呑んだ。
「カミラさんのノートにあったんだ。100人もの霊術士を集めて、異世界住人を召喚する実験が行われたらしい……と」
「100人!?」
スーが驚きの声をあげる。
「そのうち……5人は死亡した」
今度は、皆が息を呑む。
「――と、あった。カミラさんの友人が、その一人だったらしく、カミラさんは関係者からこの秘密実験のことを聞きまわったらしい。だが…カミラさんも、ここまでで調査を止めている。私たちが何故、異能を持っているのか――それを聴かなかったのは、それを知ることが危険につながると知っていたからだ」
エリナが、眼鏡の奥の眼を僕に向けた。
「じゃあ……僕たちは…青霊鳥の霊力によって、この世界に呼び出されたんですね。そして多分、呼び出しに使われた青霊鳥は死んだ――」
「――そうか。それで頻繁に、ファフニールは我々に捕獲を命じたのか…」
カサンドラが唇を噛む。
エリナはさらに続けて言葉を出す。
「この実験の証拠が掴めれば、ファフニールが密猟してた事実ははっきりする。そこにカサンドラの証言が加わり、もみ消しを許さない将軍の眼が入れば、クオンくんの冤罪は晴らされるだろう」
「じゃあ……ファフニールに忍び込んで、機密情報を盗み出しますか?」
僕はエリナを見た。エリナが頷く。
キャルも頷いた。そして――カサンドラが口を開く。
「私もできれば協力したい――研究棟の場所や内部を、若干ではあるが知っている」
「じゃあ、機密を持ち出した後に、帝都に行って将軍に話しをしましょう」
僕がそう言うと、ランスロットが口を開いた。
「そのガルドレッド将軍を呼ぶ役――俺たちにやらせてもらえないか」
「ランスロット……帝都ケイムまで行ってくれるという事か?」
カサンドラの問いに、ランスロットは頷く。
「ああ。カサンドラに手紙を書いてもらえば面会できるだろうし、将軍はすぐにこのオーレムに来てくれるだろう。その使いくらい、俺たちにだってできる」
ランスロットはボルト・スパイクの面々を見た。
ガドが頷き、スーが微笑む。ミレニアが、仕方なさそうに声をあげた。
「ちょっと帝都の流行のファッションを見に行こうかなって思ってたところだしね。ちょうどいいわ!」
ミレニアがそう言って微笑む。
「みんな……ありがとう」
「礼を言うのは俺たちの方さ。救出してもらった恩を、返させてくれ」
僕はランスロットに頷いた。見回すと、みんな逞しい顔をしている。
その場にいた八人が、一つの意志になった気がした。
「よし! それじゃあブランケッツとボルト・スパイク、共同作戦開始だ!」




