4 救出作戦
「カサンドラ、浮かせて。それから、ここからは念話で」
「判った」
僕らの身体が浮いていく。
二階まで浮いたところで、ピタリと止まった。
自分たちを軽化しながら、手先は軟化させる――というのは、実は結構、難しい使い方だ。けど、僕は左右で違う発力をしたり、身体とは別の作用を対象に与える練習を積んでいるので、それができるようになっている。
僕は自分たちを軽化したまま、壁にスコップで穴を開けていった。
そしてくり抜いた壁を軽化で持って、中へ押し込む。
“エリナさんから、中に入ってください”
“判った”
エリナが穴に入る。と、透明化が離れ、僕とカサンドラの姿が空中に現れた。
僕はエリナに、念話で伝える。
“僕を浮かせたまま、中に入るようにカサンドラに伝えてください”
“判った”
カサンドラが頷くと、中に入る。僕もそれに続いて中に入った。
中はただっ広いホール状の部屋だったが、そこには鉄の檻が並んで置かれていた。
その一つ一つの中に、ランスロット、ガド、ミレニアがいる。
既に僕らに気付いて、身体を起こしていた。
僕は人差し指を口にあててサインを送ると、ランスロット、ガド、ミレニアが頷いた。
“エリナさんは、カサンドラの傍にいて一緒に透明化していてください。そして誰か来ないか、警戒してて”
“判った”
エリナさんがカサンドラに近づくと、二人の姿が消えた。
僕はミレニアの檻に近づくと、鉄格子を軟化させてもぎ取ってしまう。四本くらいとると、ミレニアが抜け出せた。
続いて、ガド、ランスロットを脱出させる。
ランスロットが小さな声で囁いた。
「すまないな」
僕はただ笑ってみせた。
全員を、くり抜いた穴の方へ促すと、ランスロットが肩を叩いて、一方を指さしている。
何か大きな木箱がおいてあり、それには錠がかけられていた。
開けろって事か。
僕は訝しみながらも、その錠を軟化して外す。
と、ランスロットは木箱を開けると、中から自分の剣を取り出した。
こんな処に奪ったものを保管していたのか。
ガドも自分のアックスを取り出す。ミレニアも、魔法杖以外の装備をとられていたらしく、三人は自分の装備を回収した。
その間に僕は、穴の開いた壁に鉄鞭を通す。先っぽに鉄格子を軟化させて作った三又のフックをつけて、外れないようにした。
鉄鞭を取り付けると、僕はスコップの方を持って穴から下の地面を見下ろした。
放ち投げ!
スコップが地面に刺さると、僕は鉄鞭の軟化をとく。すると鉄鞭は、地面まで伸びる一本の鉄線になった。
指でミレニアを呼ぶ。ミレニアが傍に来たら、僕はその腰を掴んで寄せた。
「!?」
ミレニアが顔を赤らめている。そんな場合じゃない! 早く同調して、軽化してくれ。
僕が地面を指さすと、ミレニアは理解したらしく、体重がなくなった。よし。
背中を外側に向けて、レンジャー部隊の訓練で見たことある感じで飛び出す。少し降りたら、壁を蹴って、また少し降りる。僕らの重量はほぼないから、壁を蹴る音もしない。
すぐに地面に降り立つと、僕は穴の開いてる壁を指さした。ミレニアが頷いて、静かに走り出す。
“スーさん、ミレニアさんがそっちに行きました”
“判りましたわ、ありがとう”
念話でスーに連絡すると、僕は鉄鞭を逆に上った。
重量がないから、登るのにそんなに苦労しない。
次はガドを降ろし、最後にランスロットを降ろそうとした時だった。
不意に、二階ホールのドアが開く。手下の一人が、顔を覗かせた。
「あ――」
驚いた顔を見せた瞬間、空中から鎖剣が現れて頭部を強打する。
物を言う前に倒れる手下を、透明な手が受け止めた。
“クオンくん、カサンドラが手下を一人気絶させた。まだ来るかもしれない”
“判りました、急ぎます”
エリナの念話に応えて、僕はランスロットを降ろす。
そして最後に再び、カサンドラとエリナにポケットに乗ってもらい、地面に降りた。鉄鞭を軟化させて、フックを穴から抜いて回収する。
透明なった僕らはブランケッツ号にたどり着いた。
「よし、救出作戦は成功です。カサンドラは浮かせで、スーさんは治癒してください。帰りましょう」
僕は小声でそれだけ言うと、ブランケッツ号を引いて走り出した。
家に到着すると、僕らはようやく落ち着いた。
「よし、作戦終了です。みんな無事でよかった」
全員がリビングに集まると、僕はまずそう言った。
するとランスロットが声をあげる
「ありがとう、クオン。それに、エリナ、キャル――そしてカサンドラも」
ランスロットは、僕らの顔を順に見ながら礼を言った。
カサンドラは、なんとなく気まずそうな顔をしている。
「こんな事で……君たちに許されるとは思ってない。ただ、自分の責務を果たそうと思っただけだ。……あの時は――すまなかった」
カサンドラは頭を下げた。
「いや、戦いの時に全力を尽くすのは当たり前だ。あんたはあんたの立場で戦ったし、俺たちは俺たちの信念に基づいて戦った。それだけだよ」
ランスロットはそう言って微笑する。
……ちょっと、男の僕でも惚れ惚れするほどの男前だ。
「しかし、私のしていた事は誤りだった。私がちゃんとそれを把握していれば、兵士たちを死なせることもなかったし、君たちと交戦する必要もなかった……」
「部下の死については、あんたが背負っていくべき責任なんだろう。けど、俺たちの事はもう気にする必要はない。今回助けてくれたことで、充分さ」
ランスロットの静かな笑みを見た後に、カサンドラはそっとミレニアを見る。
視線に気づいたミレニアが、眼を見開いた。
「え? あ、あたし!? ……そりゃ、ムカついてないって言ったらウソになるけどさ――。けど、熱血漢とお人好しが二人して認めてるものを、あたしが認めないって言ったってしょうがないじゃない! ……それに助けてもらって、恩義に感じてる。もう、過去のことは水に流しましょう」
ミレニアはそう言うと、にっと微笑んでみせた。
「ありがとう……みんな…」
カサンドラは、うつむいて涙をこぼした。
ランスロットが当惑したように、声をあげる。
「え? カサンドラって、こういう人だったのか? 俺はあまりにも見事にやられたんで、獰猛なイメージしかなかったんだが……」
「クオンくんに感化されちゃったかな」
エリナが笑ってみせた。
そこへキャルがお盆に湯気のたつものを持ってくる。
「みんな、ミントティー淹れた。ダメージ回復の効果もあるから」
「まあ、素晴らしいですわ」
スーが両手を合わせて感嘆する。
ふと、ガドがミントティーを呑みながら、周りを見回した。
「しかし、此処がブランケッツのパーティーハウスか――いい所だな、落ち着いて」
「最初は廃墟だったんだけどね」
僕は思わず苦笑しながら言った。改めて、ボルト・スパイクの皆を見る。
「治癒はできてるけど、みんなダメージが残ってる。とりあえず、ゆっくり休んでよ。ベッドをつかってくれていい。僕らはリビングで寝るから」
「すまないな、クオン。助かる」
ランスロット達が部屋に引き上げていく。エリナが、息をついて声をあげた。
「それじゃあ、私たちも寝るか。カサンドラも、ソファで申し訳ないな」
「あ……いや、全然構わないが。お前たちはどうするんだ?」
「――寝具が足らないので、まあ、私たちは一緒に寝るんだがな!」
エリナの返事を聞いて、カサンドラは顔を赤らめる。
「い…一緒に寝る……だと? その――クオンと、か?」




