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3 アブソーブ・ガン


   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦



 宮殿敷地内の一角に、特務機関ファフニールの入っている建物がある。

 ハルトとカエデは、カリヤとネラを連れてそこまでやってきた。


 応接室へ行くと、片眼鏡のギュゲスが待っていた。


「報告は受けている。クオン・チトーを取り逃がしたようだね?」


 ギュゲスの言葉に、ハルトとカエデは片膝をついて(こうべ)をたれた。


「申し訳ありません、ギュゲス様! 此処にいるカリヤから、クオンのディギアについて十分な報告を受けていなかったので――」

「ふむ……。やはり、クオン・チトーは異能者(ディギナー)だったと」

「それは間違いありません」


 ギュゲスはその言葉を聞くと、今度はカリヤの方を見た。


「カリヤ君も、言ってたほどにクオン・チトーに詳しいわけではなかったのだね」

「まあ、そう言ってあげるなよ、ギュゲス」


 不意に少女の声がした。カリヤの後ろから、ネラがその姿を現す。


「お、お前は! ネラ!」


 ギュゲスが片眼鏡の奥の眼を、驚愕に見開いた。

 ネラは緑の瞳を閉じるように、微笑みかけた


「久しぶりだね、ギュゲス」

「ど……どうして此処に――?」

「なんかねー、楽しいことがありそうだなって思ってさ。ボクも混ぜてもらったんだよ。キミ、異能者を集めて、何か楽しいことをやってるだろ? ボクに見せてくれないかな」


 ネラは天真爛漫な少女のような口調で、ギュゲスに言った。

 ギュゲスは一瞬、強張った顔を見せたが、平静さを取り戻すように口を開いた。


「いいでしょう。見せてあげましょう」


 そう言うと、ギュゲスの手の中に銃のようなものが現れる。

 大型の銃だが、変わっているのは銃身の手元、背中部分に大きな水色の丸いメダルが乗っていることだった。


「カエデ、そのままでいなさい」

「はい、ギュゲス様」


 カエデは跪いた状態で答える。

 そのカエデに、ギュゲスは銃口を向けた。


 引き金を引くと、青い光線が発射される。

 その青い光は、カエデの全身を包んだ。


「ウ……くぅ――」


 カエデが苦しそうな顔をしている。

 そのメダルの上に、光のゲージが現れている。既に8メモリ分ある。

 そのゲージの1メモリ分だけ、光がたまった。


「この銃は異能者の能力を吸収する。このカエデのディギアは『増殖』(マルティプリケーション)です」


 ギュゲスはそう言うと、銃身についてる小さなレバーを動かして引き金を引いた。

 と、ギュゲスの姿が、突然、二人に増える。


(なに! なんだこれは!!)


 カリヤは声こそあげなかったが、驚きに眼を見開いた。

 ギュゲスが続けて引き金を引くと、ギュゲスは次々と増え8人にまでなった。


「これはアブソーブ・ガン。相手から生命エネルギーを吸収する目的で作ったのだが、その過程で異能の力を少しだけ吸収できることが判った。回数使用しかできないが、異能それ自体は完全に再現できる代物なのです」


 8人のギュゲスが少し誇らしげに微笑む。

 ネラはそれを見て、笑った。


「なるほど、キミはそれ――皇帝の能力を模倣しようとしたんだろ?」

「そうです。しかし生命エネルギーの吸収それ自体は、時間がかかる上に強制力もそれほどない。むしろ、この副産物の方が有用だ」


 ネラは微笑みのまま、ギュゲスに問うた。


「それで? 今は何人の異能力を収集したんだい?」


 8人のギュゲスはネラを囲むように歩くと、答えた。


「6人。このハルトとカエデを含めると、8人になる。これは私の『ディギナーズ』の人数だ。つまりね、私には8人分の異能力が、手元にあるという訳さ」


 ギュゲスが笑みを消す。

 ネラは微笑んだままだ。


「キミも私に協力してくれると嬉しいんだが。なに、少し苦痛はあるが、一回分を吸収するのに、ものの数分で済む」

「ちょっと痛いのは嫌だな~」


 ギュゲスの言葉に、ネラも笑みを消して答えた。

 二人の間に、緊張が走る。が、ギュゲスが口を開いた。


「ふむ……まあ、無理強いをするつもりはありません。しかし――君も、我々の遠大な計画に協力してくれると嬉しいのですが?」

「我々……ね。今度、会わせてもらおうかな、キミのボスに」


 ネラはそう言って笑った。


 そのやりとりを傍で聞いていたカリヤは、目まぐるしく思考を巡らせていた。


(なんなんだ、このネラって奴は? どうやらギュゲスと知り合いで、しかも恐らく『異能』の持ち主。――ギュゲスがクオンを欲しがってるのは、その『ディギナーズ』に加えて、自分の銃の力のコレクションを増やすためか。そして……まだギュゲスの背後に、誰かがいる)


 カリヤはそこまで考えて、苛立った。


(俺を抜きに、話をしやがって! 俺の事は眼中にないというわけか。……いいだろう、そう思ってられるのも、今のうちだ)


 カリヤは黒マスクの上の眼を細めた。



   〇   〇   〇   〇   〇   〇   〇   〇



「運がいい事に、どうやらあの少女はいないようです。それにカリヤって男も」


 チビヌーを探りに行かせたスーが、そう囁いた。


「それじゃあ、救出に行きましょう。まず、スーさんとエリナさんは、全員にリンクをください」


 エリナとスーが、一人一人に指先で触れる。これで念話で話せるようになる。


「キャルとスーさんは此処に残って、キャルは外に異常があったら知らせて。スーさんはそのままチビヌーで僕らを先導してください」

「うん、判った」

「了解ですわ」


 僕は頷くと、エリナとカサンドラに言った。


「僕たちは救出に向かいます。僕のコートの裾のポケットに、二人で片足を入れてください。そして僕に同調して軽化して」


 二人は僕の背後に廻り、エリナが左側、カサンドラが右側のポケットに足を入れる。そのまま軽化して、二人を浮かす。


「僕と肩を組むような感じで、肩のベルトを掴んで。エリナさんは透明化をお願いします」


 三人で肩を組んだような体勢の僕らの姿が消える。


「それじゃあ、行ってきます」

「気をつけて」


 キャルが言葉に、僕は頷いた。――あ、見えてないんだった。


「うん。じゃ」


 僕はそう声にすると、建物に近づいた。周囲に外壁がある。


「壁をどうする?」

「通り道を作ります」


 僕は左手を壁にあてると軟化した。そして右手で持ったスコップで、ぐるりと円を描くように壁をくり抜く。

 くり抜いた壁を軽化して、外した。


「少し狭いな」

「これは救出したランスロットたちの通る穴です。僕らは浮いて、壁を越えましょう。カサンドラ、念動力で浮かせてみてください」


 ふわり、と僕らの身体が浮いて、僕らは建物の外壁傍までやってきた。

 僕はスーに念話で話しかける。


“今、僕らは外壁の穴から建物の傍に来てます。二階に穴を開けるんで、一番、適切な場所の下に、チビヌーを寄せてください”

“判りましたわ”


 するとチビヌーがちょこちょことやってきた、かと思うと、少し外壁を歩く。

 あるポイントで、チビヌーは足を止めた。


「もぉ」

「此処か。もう鳴いちゃだめだぞ」


 僕はチビヌーを手で抱き上げると、肩に乗せた。チビヌーの姿も消える。

 僕は壁を見上げた。


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