3 アブソーブ・ガン
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宮殿敷地内の一角に、特務機関ファフニールの入っている建物がある。
ハルトとカエデは、カリヤとネラを連れてそこまでやってきた。
応接室へ行くと、片眼鏡のギュゲスが待っていた。
「報告は受けている。クオン・チトーを取り逃がしたようだね?」
ギュゲスの言葉に、ハルトとカエデは片膝をついて頭をたれた。
「申し訳ありません、ギュゲス様! 此処にいるカリヤから、クオンのディギアについて十分な報告を受けていなかったので――」
「ふむ……。やはり、クオン・チトーは異能者だったと」
「それは間違いありません」
ギュゲスはその言葉を聞くと、今度はカリヤの方を見た。
「カリヤ君も、言ってたほどにクオン・チトーに詳しいわけではなかったのだね」
「まあ、そう言ってあげるなよ、ギュゲス」
不意に少女の声がした。カリヤの後ろから、ネラがその姿を現す。
「お、お前は! ネラ!」
ギュゲスが片眼鏡の奥の眼を、驚愕に見開いた。
ネラは緑の瞳を閉じるように、微笑みかけた
「久しぶりだね、ギュゲス」
「ど……どうして此処に――?」
「なんかねー、楽しいことがありそうだなって思ってさ。ボクも混ぜてもらったんだよ。キミ、異能者を集めて、何か楽しいことをやってるだろ? ボクに見せてくれないかな」
ネラは天真爛漫な少女のような口調で、ギュゲスに言った。
ギュゲスは一瞬、強張った顔を見せたが、平静さを取り戻すように口を開いた。
「いいでしょう。見せてあげましょう」
そう言うと、ギュゲスの手の中に銃のようなものが現れる。
大型の銃だが、変わっているのは銃身の手元、背中部分に大きな水色の丸いメダルが乗っていることだった。
「カエデ、そのままでいなさい」
「はい、ギュゲス様」
カエデは跪いた状態で答える。
そのカエデに、ギュゲスは銃口を向けた。
引き金を引くと、青い光線が発射される。
その青い光は、カエデの全身を包んだ。
「ウ……くぅ――」
カエデが苦しそうな顔をしている。
そのメダルの上に、光のゲージが現れている。既に8メモリ分ある。
そのゲージの1メモリ分だけ、光がたまった。
「この銃は異能者の能力を吸収する。このカエデのディギアは『増殖』(マルティプリケーション)です」
ギュゲスはそう言うと、銃身についてる小さなレバーを動かして引き金を引いた。
と、ギュゲスの姿が、突然、二人に増える。
(なに! なんだこれは!!)
カリヤは声こそあげなかったが、驚きに眼を見開いた。
ギュゲスが続けて引き金を引くと、ギュゲスは次々と増え8人にまでなった。
「これはアブソーブ・ガン。相手から生命エネルギーを吸収する目的で作ったのだが、その過程で異能の力を少しだけ吸収できることが判った。回数使用しかできないが、異能それ自体は完全に再現できる代物なのです」
8人のギュゲスが少し誇らしげに微笑む。
ネラはそれを見て、笑った。
「なるほど、キミはそれ――皇帝の能力を模倣しようとしたんだろ?」
「そうです。しかし生命エネルギーの吸収それ自体は、時間がかかる上に強制力もそれほどない。むしろ、この副産物の方が有用だ」
ネラは微笑みのまま、ギュゲスに問うた。
「それで? 今は何人の異能力を収集したんだい?」
8人のギュゲスはネラを囲むように歩くと、答えた。
「6人。このハルトとカエデを含めると、8人になる。これは私の『ディギナーズ』の人数だ。つまりね、私には8人分の異能力が、手元にあるという訳さ」
ギュゲスが笑みを消す。
ネラは微笑んだままだ。
「キミも私に協力してくれると嬉しいんだが。なに、少し苦痛はあるが、一回分を吸収するのに、ものの数分で済む」
「ちょっと痛いのは嫌だな~」
ギュゲスの言葉に、ネラも笑みを消して答えた。
二人の間に、緊張が走る。が、ギュゲスが口を開いた。
「ふむ……まあ、無理強いをするつもりはありません。しかし――君も、我々の遠大な計画に協力してくれると嬉しいのですが?」
「我々……ね。今度、会わせてもらおうかな、キミのボスに」
ネラはそう言って笑った。
そのやりとりを傍で聞いていたカリヤは、目まぐるしく思考を巡らせていた。
(なんなんだ、このネラって奴は? どうやらギュゲスと知り合いで、しかも恐らく『異能』の持ち主。――ギュゲスがクオンを欲しがってるのは、その『ディギナーズ』に加えて、自分の銃の力のコレクションを増やすためか。そして……まだギュゲスの背後に、誰かがいる)
カリヤはそこまで考えて、苛立った。
(俺を抜きに、話をしやがって! 俺の事は眼中にないというわけか。……いいだろう、そう思ってられるのも、今のうちだ)
カリヤは黒マスクの上の眼を細めた。
〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
「運がいい事に、どうやらあの少女はいないようです。それにカリヤって男も」
チビヌーを探りに行かせたスーが、そう囁いた。
「それじゃあ、救出に行きましょう。まず、スーさんとエリナさんは、全員にリンクをください」
エリナとスーが、一人一人に指先で触れる。これで念話で話せるようになる。
「キャルとスーさんは此処に残って、キャルは外に異常があったら知らせて。スーさんはそのままチビヌーで僕らを先導してください」
「うん、判った」
「了解ですわ」
僕は頷くと、エリナとカサンドラに言った。
「僕たちは救出に向かいます。僕のコートの裾のポケットに、二人で片足を入れてください。そして僕に同調して軽化して」
二人は僕の背後に廻り、エリナが左側、カサンドラが右側のポケットに足を入れる。そのまま軽化して、二人を浮かす。
「僕と肩を組むような感じで、肩のベルトを掴んで。エリナさんは透明化をお願いします」
三人で肩を組んだような体勢の僕らの姿が消える。
「それじゃあ、行ってきます」
「気をつけて」
キャルが言葉に、僕は頷いた。――あ、見えてないんだった。
「うん。じゃ」
僕はそう声にすると、建物に近づいた。周囲に外壁がある。
「壁をどうする?」
「通り道を作ります」
僕は左手を壁にあてると軟化した。そして右手で持ったスコップで、ぐるりと円を描くように壁をくり抜く。
くり抜いた壁を軽化して、外した。
「少し狭いな」
「これは救出したランスロットたちの通る穴です。僕らは浮いて、壁を越えましょう。カサンドラ、念動力で浮かせてみてください」
ふわり、と僕らの身体が浮いて、僕らは建物の外壁傍までやってきた。
僕はスーに念話で話しかける。
“今、僕らは外壁の穴から建物の傍に来てます。二階に穴を開けるんで、一番、適切な場所の下に、チビヌーを寄せてください”
“判りましたわ”
するとチビヌーがちょこちょことやってきた、かと思うと、少し外壁を歩く。
あるポイントで、チビヌーは足を止めた。
「もぉ」
「此処か。もう鳴いちゃだめだぞ」
僕はチビヌーを手で抱き上げると、肩に乗せた。チビヌーの姿も消える。
僕は壁を見上げた。




