2 スペシャル・ブランケッツ号
スーが了承したので、僕らも微笑んだ。
その様子を見て、カサンドラも傍に来て腰を下ろした。
「しかし、実は装備が何もない。私を信用するのは難しいと思うが――武器を貸してもらえないだろうか?」
カサンドラは苦渋に満ちた顔でそう言った。
僕は敢えて軽く答える。
「もう、貴女が何かするとか思いませんよ。けど……予備の剣とかもないんですよ。僕のナイフでよければ貸しますけど」
「すまない、助かる」
そう言ってから、僕はふと思いついてカサンドラに言った。
「切れ味はともかく、剣っぽいものならすぐに作りますけど」
「剣を――作る?」
「ええ。あの壊れたカサンドラの鎧で。あれ材料にしていいですか?」
「それは構わんが――あれはミスリル合金製の特殊仕様だ。簡単に加工できるものじゃないぞ」
僕はちょっと笑って見せると、壊れた鎧を持ってきて軟化させた。
「な! なに!? 鎧がぐにゃぐにゃに――」
「凄いですわ、クオンさんの能力!」
傍で見ていたスーも感嘆する。
僕は銀色の鎧の金属部分を一塊にした後、剣っぽい形にした。
一応、両刃のように縁を細くする。
「そうだ。いいもの拾ってきたんですよ」
僕はそう言うと、牢屋で僕がつながれていた鎖を取り出した。
それを柄の方に取り付けて、鎖の逆端の方にも柄を作る。
「ミスリル製の鎖らしいですよ。――これでどうです? 前の鎖剣ほど、ちゃんとした物にはなりませんけど」
「……こんな事が――お前にはできるのか?」
即製で作った鎖剣を渡すと、カサンドラが驚きに声を失っていた。
「あと……これ」
キャルが魔法の指輪を持ってきて、カサンドラに差し出す。
「前に使ってた奴を予備にしてたの。今は何も入ってないから、入れたい魔法を魔刻して。本が必要なら、あるから」
キャルの言葉に、カサンドラはじっとキャルを凝視した。
「すまない……落ち着いたら、倍にして返す」
キャルは黙って微笑した。
*
ブランケッツ号で僕たちは現場に向かった。
ブランケッツ号は特別バージョンで、スペシャル・ブランケッツ号だ。
僕は軽化し、キャルが風圧を避ける力場を作る。それは同じ。
けど、エリナは透明化に専念し、スーが車体を浮かす。カサンドラが車全体を後ろから押す。その押しに乗って、僕は最大加速で走った。
すぐに街の郊外の建物につく。近隣に建物があるが、その建物は壁に囲まれた石造り。スーが三階建てと言っていたが、確かにそうだった。
透明なまま、近くにブランケッツ号を停める。
「わたくしが、まずファントムで中の様子を探ってきます。相当に……注意が必要ですけど」
「どうかしたんですか?」
僕の問いに、スーが答えた。
「一見、少女にしか見えない者がいるのですが――とんでもない霊術士です。この場所を探るのも、後をつけるのに気づかれないように、ファントムを最小の最小にする必要がありました」
「それがチビヌーですか」
スーはそう言うと、チビヌーを出した。
さっきより少し大きく、掌サイズだ。
「もぉ」
「「かわいー!」」
キャルとエリナが声をあげる。いや、そんな呑気な状況でもないんだけど。
カサンドラは、声こそあげないが、顔を赤らめてチビヌーを見ている。
……やっぱり、可愛いんだ。
「まさか自分のファントムがこんなに可愛いなんて、思いもしませんでしたわ。だって、ファントムなんて戦闘の時しか使わないんですもの」
スーが顔を赤らめながら、ちょっと嬉しそうに言う。
なるほど…農作業にファントムを使ってたカミラさんは、けっこうイレギュラーなんだな。
「これをさらに小さくしないと」
チビヌーが指先くらいまで小さくなる。
「それじゃあ、探ってきますが――もしあの霊術士がいた場合、救出作戦はバレるのが前提になります。その時はどうします?」
「正面から突撃するしかないな」
僕の言葉に、スーは細い眼をさらに細めて微笑んだ。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「ハハッ! クオンの奴、ザマぁねえぜ! 牢屋にぶち込まれて、何も言えねえんでやんのよ!」
カリヤは上機嫌の様子で、周りの連中に言った。
アジトの三階は幹部室で、そこにはゲイル、カザン、ネラ、ビヤルがいた。
「あの少年をそこまで恨むなんて――よほど何かあったのかい?」
ネラはうっすらと微笑しながら、カリヤに問うた。
カリヤが答える。
「色々な。けど、そもそもあいつが存在してるだけで、俺をイラつかせるのさ」
カリヤがそう答えた時、部屋のドアがノックされた。
なんだ、とカリヤが応えると、手下の一人が入ってきた。
「ボス、緊急連絡ですぜ! 至急、留置場へ来い、とのことです」
「チッ、面倒くせえな。クオンをギュゲスの処へ連れていくつもりか? 勝手に連れてきゃいいじゃねえか。――仕方ねえ、俺は行ってくるぜ」
カリヤが席を立つと、ネラも微笑しながら席を立った。
「ギュゲスに会いにいくなら、ボクも行こう。久しぶりに――顔を見ておくかな」
「なんだ、お前? ギュゲスと知り合いなのか?」
「少しね」
ネラは薄笑いを浮かべてみせた。
カリヤはその笑みに不気味なものを感じる。
(仲間になったはいいが――どうも正体の判らねえ奴だぜ)
カリヤは一緒に歩く美少女に、何とも言えぬ違和感を抱いた。
*
留置場に着くと、ハルトが真っ先に寄ってきて声を上げた。
「カリヤ! これは、どういう事だ!? クオンが脱獄したぞ!」
「なにっ!!」
カリヤは牢屋の場所まで走る。クオンがいたはずの牢は空っぽになっている。
足環ごとつないでいた鎖はなくなっていたが、鉄格子に変化はなかった。
「くそっ! 一体、どうやって逃げたんだ!?」
「カリヤ! 君の責任だぞ! クオンの力をちゃんと把握してなかったな!」
歯噛みするカリヤに、ハルトはそう言った。
「あん? てめえらがちゃんと見張ってなかったのが悪ぃんだろうが! 大体、逃げだしたのに、気付かなかったのかよ!」
ハルトはそこで無言になった。ふと、カリヤは笑みを浮かべた。
「ハハーン、さては脱出に気付いてクオンの奴を追ったな? で、戦闘になったはいいが、負けて取り逃がした。――そんなとこか?」
「うるさい! これをお前の責任にしなければ――我々はギュゲス様から…見放されてしまう!」
ハルトは片手で顔を覆うと、恐ろしさに耐えるようにそう呟いた。
隣で、カエデも青ざめた顔をしている。
カリヤは違和感を抱いた。
(なんだ? こいつら、そもそもここまでギュゲスの信奉者だったか? ギュゲスがそんなに恐ろしい奴だったか――いや、こいつらの普段の言動から、どうも『ギュゲス様、ギュゲス様』と、うるさい感じはしていたが……)
「ねえ、ギュゲスの処に行かないの?」
不意にネラが声をあげる。ハルトは薄緑の髪の少女を見た。
「行くなら一緒にいってあげるよ。とりなしてあげるからさ」
ネラはハルトを凝視しながら、口元に笑みを浮かべた。




