第十四話 ボルト・スパイク救出作戦 1 カエデのディギア
「キャアッ――」
カエデが僕の重硬タックルで吹っ飛ぶ。
が、直前に魔導障壁の手ごたえを感じた。直撃はしてない。
「ちょっと! あたしに何すんのよ!」
カエデがブチ切れながら、身体を起こした。
「素早い動きで直接攻撃ね。まあ、魔導士に対しての対策としては上出来よ。けど――あたしにそれが通じるとか、思わないでね!」
そう言った瞬間――僕は眼を疑った。
カエデの姿が、二人――三人、四人、五人……いや、数えきれない!
「な……なんだ、これは?」
「あたしのディギア、『増殖』――マルティプリケーションよ。言っとくけど、威力はまんまで増えてるからね!」
大勢のカエデが一斉に炎の円盤を放つ。ダメだ! こんな数の魔法、避けきれないし、防ぎきれない!
「……とんでもない人ですわね」
「スーさん!」
スーさんが僕の傍で、霊力の結界を張ってくれていた。
「まさか……自分自身をファントムで突き飛ばすとは――」
ハルトが唖然とした顔で呟いている。
そうだったのか、スーさん、なかなか思い切った事をやる人だ。
この人となら――
「スーさん、僕のコートの裾のところにポケットがあります。そこに両足を入れてもらえませんか」
「え? えぇ!?」
スーが戸惑いながらも、僕のコートの背中側に作ったポケットに足を入れる。
「同調して――軽化するんですのね?」
「そうです! スーさんは、守りに徹してください。僕は――あの女性を倒します」
スーの重量がすっとなくなる。
「風圧は感じるんで、肩のベルトを掴んでください!」
カサンドラを倒したブランケッツ・アタック用に、僕はコートの裾にポケットをつくり、肩を掴めるベルトを作ったのだった。
まさか、スーとこれを使うとは。
「なにそれ? 二人羽織でもするつもり? ウケる」
「勝手にウケてろ!」
バネ脚ダッシュ&放ち斬り!
一瞬でカエデのコピーに接近し、斬り抜ける。
一体がいなくなったら、すぐに次、次、次!
その間に飛んでくる炎の円盤は、スーが霊式結界で防御していた。
「ウソ! ウソでしょ!? こんな急速にやられるわけ――」
カエデが驚いてる間に、僕はほぼカエデのコピーを切り倒した。
最後の一体で、棒剣の刃がガン、と止まる。魔導障壁だ。
すぐに飛び退いて距離をとった直後、再発進!
「重硬タックル!」
「ぎゃあっっ!」
魔導障壁をぶち破り、カエデの本体にタックルをぶちかます。
カエデの身体がのけぞるように吹っ飛び、傍の壁にぶち当たって崩れ落ちた。
「カエデ! く……やってくれたな」
ハルトが歯噛みする。
僕はスーに言った。
「スーさん、あのカエデって人、死なないように治癒してください」
「えぇ? 本気なの、クオンくん?」
「はい。――この人は、僕一人で倒せます」
スーが細い眼を、見開いた。が、すぐに元の、細眼に戻る。
「判ったわ。――あなたを信用する」
僕は頷いた。スーが倒れて動かなくなったカエデのもとに向かう。
僕はハルトと対峙した。
「……私を倒せるつもりのようだな」
「此処で時間をくってるわけにはいかないんです」
ランスロットたちの救出。それが僕たちの目的だ。
ハルトが斬りかかってくる。
僕は棒剣で応戦する。剣技は向うの方が全然、上だ。
何発か、肩や腹にもらう。が、その度に、軟化&硬化を行って、気力のダメージを逃がした。
「くっ! なんて身体だ!」
歯噛みするハルトの集中力が途切れている。今がチャンスだ。
何気ない動きで、僕は鉄鞭スコップを掴み、鉄鞭を飛ばした。
鞭の先が、ハルトの右腕にからまる。
「なんだ、こんなもの!」
ハルトはからまった鉄鞭を無視して僕へ向かってくる。
が、僕は鉄鞭を硬化した。
「な! なんだこれは! 先へ進めん!」
腕に絡まった鉄鞭は、鉄の棒以上の硬さで僕とハルトの間に挟まっている。
それ以上、こちらに来れるはずはない。
「くっ、位置入れ替え!」
一瞬で、入れ替えられる。が、位置が変わっても、ハルトが近づいて来れないことに変わりはない。
「くそっ! こんなもの!」
ハルトは鉄鞭に剣を振り下ろした。が、その瞬間、僕は鉄鞭を硬化する。
「なに! こんな細いものが斬れんだと?」
ハルトが動揺した瞬間を狙い、僕は鉄鞭を軟化させて突進した。
「重硬タックル!」
が、体当たりが成功するかと思われた瞬間、その姿が消えた。
「――その瞬間を待ってたんだ」
僕は鉄鞭が、背中側に流れているのを見ながら、それを思い切り引っ張った。
位置入れ替えで背後に廻ったハルトの重量を、思い切り引っ張る。
と同時に、僕は思い切りバネ脚で背中側へと跳び出した。
背面重硬タックル!
背中に、思い切り重量が当たった衝撃を感じる。
が、その相手は吹っ飛んだはずだ。
「――ごあぁっっ!」
ハルトの呻き声がして、何かが後方に吹き飛ぶ気配がした。
振り返ると、ハルトが倒れている。
まったく動く気配がない。近寄ってみると、完全に失神していた。
「終わりました、スーさん。行きましょう」
「うん、こちらも終わりましたわ。ところで、これからどうしますの?」
スーがカエデのところから離れて、こっちに向かってくる。
「とりあえず、家に帰ります。それから作戦を練りましょう」
*
僕はスーを背中に乗せ、そのままバネ脚ダッシュで、最大速度で家に戻った。
さすがに息が切れた。
「ど、どうしたんだ? それに……スー?」
「おじゃまします」
驚くエリナに、スーは微笑んでみせた。
とりあえず、キャルとエリナにリビングに集合してもらうと、僕はスーに訊いた。
「それで、ランスロットたちは何処にいるの?」
「街の外れの、三階建ての建物の二階部分にいますわ。三人とも怪我をしてます」
スーの言葉に、僕は頷いた。
「よし、じゃあブランケッツ号で行こう。特別版で、浮かせをスーさん、エリナさんは透明化をお願いします」
「私も……連れていってもらえないだろうか」
その時、リビングの扉から声がして、僕らは振り返った。
カサンドラだった。
「救出に――協力したい。頼む」
カサンドラが頭を下げる。僕らは、スーを見た。
スーは細い眼のまなじりを下げて言った。
「そうしていただけるならば――ありがたいお話ですわ」




