5 脱出と救出
水牛の咥えてる光の球が僕の額に入ると、脳内にスーの声が響いてきた。
“クオンさん、判りますか? スーです!”
“判りますよ、スーさん。一体、何が起きてるんですか?”
“ランスロットたちが捕まってるんですわ。わたくしを逃がして、クオンさんに連絡をとれと、ランスロットが言ったのですわ”
“やっぱり……本当に捕まってるんですね”
僕は歯噛みした。なんて汚いやり方なんだ。
“ランスロットたちを助けないと、僕は証言すらできない。そういう状況です”
“ランスロットたちは、街の外れの古い建物にいます。そこがあのカリヤたちのアジトになってるみたいですわ”
その話を聞いて、僕は言った。
“ランスロットの居場所が判ってるんですか? それならチャンスはある。すぐに助けに行きましょう”
“そうしたいのはもちろんですが……クオンさんがまず、そこから脱出する手立てを考えないと”
“ああ、それなら何でもないことですよ。今、出ます”
“え?”
僕は後ろ手に嵌められた手錠を軟化で溶かし、首のリストレイナーを外す。
「これは……役に立つかもな」
リストレイナーは持っていくことにした。
それからミスリル製とか言ってた足環を外した。それと足環についている鎖。
これも使えそうだから、壁から外して持っていく。
「後は……と」
鉄格子を軟化させて外に出る。少し離れた場所の机に、雑に僕の棒剣と鉄鞭スコップが置いてあった。重要物と見做さなかったらしい。
「さて、どこから出るのがいいのかな?」
僕は足元の虫サイズの水牛に言った。チビヌーと言ったところか。
「もぉ」
チビヌーが小さく鳴いて、壁の一ヵ所に行く。
「此処だね」
僕は左手をあてて壁を軟化させると、スコップで丸く壁を切り取った。
その壁を軽化して外し、外側に出る。
何か廊下のような長い通路を通るが、少し坂になってる感じだ。
やがて角に行きあたると、チビヌーが鳴いた。
僕はそこも丸く切り取る。
と、外は人気のない通りの一角だった。いつの間にか地下から、一階に移動してたらしい。
「もぉ」
チビヌーが少し大きくなって走る。僕はそれについていくと、やがて建物の陰から、スーが飛び出てきた。
「クオンさん! 大丈夫でしたか?」
「大丈夫です。スーさんの方こそ、大丈夫なんですか?」
「わたくしは大丈夫ですけど……他の三人は怪我をしたまま監禁されてると思いますわ」
スーの顔に影がさした。無理もない。
「大丈夫です。必ず救出しましょう」
僕がそう言った時だった。
「――こっちだ! 見つけたぞ!!」
ふと見ると、通りの向うの兵士が声をあげている。
「しまった! 意外に動きが早かった」
「逃げましょう、クオンさん!」
僕たちは、兵士たちとは逆の方向に逃げ出した。
「そっちだ、追え!」
何処かで声があがる。
気づくと僕らは、通りの真ん中で、前も後ろも兵士たちに囲まれていた。
「……仕方ない。突破しましょう、スーさん」
「判りましたわ」
兵士たちが声を上げる。
「捕らえろ!」
兵士たちが剣を抜いて迫ってくる。
「ボアオオッ!」
そこに巨大化したチビじゃなくなったヌーが、雄叫びをあげて突っ込んでいく。
兵士たちが数人、一気に吹き飛ばされた。
「ぐわぁっ!」
僕は棒剣を手にすると、刃をひっくり返し、柄の球の方を構えた。
バネ脚ダッシュ!
通り過ぎ様に、兵士の膝がしらを打ち抜く。
軽化させた棒剣は寸前まで軽く速いが、当てる瞬間に重くする。
「ぎゃあっ!」「い、いてっっ」
僕はバネ脚ダッシュで、次々と兵士たちを打っていった。
狙うのは、膝、肩、手など。致命傷にならないけど、戦闘不能になる場所。
「フレイムスロワー!」
魔導士らしい兵士が、僕に火炎放射を浴びせてくる。
「コート・シールド!」
僕はコートを翻して、火炎放射を防いだ。そしてその場から離脱する。
うん、有効だったぞ、コート・シールド。
その魔導士に水牛のファントムが突進し、突き飛ばされた兵士が壁に当たって昏倒する。全ての兵士が、地に倒れ戦闘不能になっていった。
僕はスーを顔を見合わせ、頷いた。が、新たな声が響いた。
「――なるほど…なかなかの戦闘力、というわけですね」
「やる~」
近づいてきた声の方を見る。それはあのハルトと名乗った騎士と、ダルそうな眼のカエデだった。
「逃げましょう」
僕はスーに言って、背を向けて彼らとは逆方向に走ろうとした。
別に戦って勝ちたいわけじゃない。むしろ戦闘は避けたいくらいだ。
そう、僕が走り出した瞬間だった。
「――え?」
僕は気づくと、わざわざカエデに向かって走っている。
「はあい、ありがと」
カエデが指から光の矢を発射する。
まずい! コート・シールド!
「く……」
ギリギリでシールドが間に合って、コートの向うで爆発が起きる。
僕は横に跳び退いた。
「一体――どういう事だ?」
「こういう事さ!」
その瞬間、背後から、ハルトが剣で斬りつけてくる。
僕は棒剣で、その剣を受け止めた。
「クオンさん!」
スーの分霊体が突っ込んできて、ハルトがそれを躱す。
スーが傍に駆け込んできた。
「クオンさん! 今、彼とあなたの位置が一瞬で入れ替わったんです!」
「…なん……ですか、それ?」
理解が追いつかない僕に、ハルトが微笑んで見せる。
「位置入れ替え(ポジション・チェンジ)――それが私の異能さ」
「ディギア?」
驚いた僕に、ハルトは言葉を続けた。
「私の名前はハルト・ノウミ――元の名は…能見晴人だ」
「まさか……」
「そう。君と同じ転生者だ」
ハルトはそう言った。驚きの中で、僕ははたと気付いて、スーを見た。
スーが、驚きの眼で僕を見ている。
「クオンさん……」




