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4 逮捕されたクオン


 僕が迷っていると、カリヤの後ろから何か出てきた。

 さっきの、薄緑の髪の少女だ。


 手に何か持っている。遊んでいるようだが――何か見覚えがある。


 ……あれは――ミレニアの魔法杖!

 と、思っていると、その杖の魔晶石の『首』をもぎとる。


 無邪気に遊んでいるように見えていた少女が、不意に僕の方を見た。

 口が、三日月形に裂けた。


 僕の背中を――言いようのない恐怖が走った。


 なんだ、この子は?

 いや、これは……子供じゃない! 

 子供に見えているが、明らかに違う何かだ。


 本当に――ニンゲンなのか?


「おい! 正直に言え! 女隊長の部隊と戦ったのは、てめぇだろうが!」


 カリヤの怒鳴り声で、僕は我に返った。


 少女が、笑みを浮かべたままだ。

 間違いない。最低でも、ランスロットとミレニアは人質にとられている。

 そして、こいつらが指示を出せば、瞬時に命をとられる。


「僕が……部隊と闘った――」


 僕は、歯噛みする思いでそう口にした。

 ハルトと名乗った騎士が、僕を睥睨する。


「そうか…やはり君が犯人という事だな。――カエデ!」


 ハルトに呼ばれて、別の女性が出てくる。

 ダルそうな眼をした、赤髪を短いパーマにした女性だ。


「はい、おとなしくしてねー」


 カエデ、と呼ばれた化粧っ気のない女性が、僕を後ろ手にして手錠をはめた。

そして首にリストレイナーをつける。


僕は何も言えずに――拘束された。


 カエデが僕の脇を引っ張るようにして歩く。

 ギルドの中の全員の視線が、僕に集中していた。


「なんだ? 自作自演だったのか?」

「なりたてパーティーのくせに、五角イノシシを獲ってきたのもヘンだったしよ」

「おとなしい顔で、騙してたんだぜ」


 囁き声が聞こえる。

 違う! 僕は騙してないし、嘘なんかついてない!


 そう叫びたかった。だが――ランスロットの命が危ない。

 僕は歯噛みをした。


 と、眼の前に一人の女性魔導士が立ちふさがる


「ちょっと待って!」


 山火事の消火の時に、一緒にいた魔導士だ。顔に見覚えがある。


「クオンはそんな人じゃないわ。一緒に消火にいった人なら、みんな知ってるわよ。クオンがいなかったら、ファイアー・ジャッカルは駆除できなかったんだから!」

「そうだ! 彼はそんな人物じゃない!」


 もう一人、男性魔導士も出てくる。他にも、あの時の人たちが、出てきて声をあげた。


 みんな……

 正直、みんな名前も知らない人たちだけど――ありがたかった。


 ハルトがそれを見て、前に出てきた。


「君たちは、我々が彼を捕らえるのを阻止する――という事かね?」

「「「そうだ!」」」


「我々は政府の人間だ。我々に抗するという事は――皇帝に対し叛意をみせる…という事でよろしいか?」


 皇帝、という名前を聞いた途端に、皆の表情が変わった。


 強張った顔に、もう声をあげる意志を持つ人はいない。


「どいてもらおう」


 ハルトがそう言うと、皆が脇に退いて道を開けた。

 カエデに引っ張られた僕は、何も言えず黙り込む人たちの間を抜けて、ギルドから外へと出た。


 僕は待たされていた馬車に乗せられた。

 少しだけ走ると、また歩かされる。宮殿に裏から入っていくが、地下への階段を降りると、牢屋が並んだ一角へと到着した。


「しばらく入ってもらうわよ。カリヤ、装備をとりあげて」

「フン――なんだ、お前? 妙な物ばかり持ってて、ロクなものがねえ」


 カリヤは僕から、棒剣、鉄鞭スコップ、ナイフを取り上げた。

 その上で、間近に黒マスクの顔を寄せる。


「ざまあねえなあ、クオン? 俺に偉そうに説教たれてたけど、てめえは人殺しだよ!」


 そう言うなり、カリヤは僕の腹にパンチをぶち込んだ。

 ここは――敢えて、硬化しない。


「ぐはっ――」


 重い衝撃をモロに受け、僕は呻いた。

 久しぶりの感触だ。殴られるのって――こんなに痛かったか。


 僕は思わず、床に倒れた。

 その僕を、カリヤが連続で蹴る。


「どうだ! この野郎! 思い知りやがれ!」


 思い切り蹴りを入れた後で、カリヤは僕の顔を踏む。

 ぎりぎりと、床に頬が押し付けられた。


「やめないか、カリヤ! ギュゲス様の命令は彼を捕らえることだ。拷問しろなどとは言われてない」

「へっ、そうかよ」


 そう言うと足を上げ、カリヤはしゃがんで僕の顎を掴んで自分を覗かせた。


「おい、クオン。てめえには地獄をみせてやるからな」


 僕は何も言わない。


「彼は牢屋に入れておけ」

「おい、こいつは鎖でつないでおいた方がいいぜ。何をするか判らねえ」

「心配性だな。……しかしよかろう。そっちの奥の牢には、ミスリル合金の鎖がある。それにつないでおくといい」


 カリヤは頷くと、奥の牢屋へ僕を連れていった。

 部屋には鎖があり、その先の足環を僕にはめる。


 そして外へ出ると、牢に鍵をかけた。


「ククク……いい眺めだな、クオン。いずれ、もっと痛い目を見せてやる」

「行くぞ。我々はギュゲス様に報告だ」


 ハルトの声で、カエデとカリヤも一緒に出ていった。


 牢屋に入れてるのに、手錠もとりやしない。窮屈な事この上ない。

 僕は独りになって、情報を整理した。


 まず――カリヤはカサンドラが生きてることを知らない。

 僕に罪悪感をもたせるつもりで、カサンドラが死んだことを嬉々として喋ってた事から伺える。それを喋るカリヤには、兵士たちを皆殺しにした罪悪感はゼロだ。


 そしてハルトとカエデ、という二人。あの二人は、ランスロットたちの事は追ってないし、知らない。つまり、ランスロットを誘拐してるのは、カリヤ。カリヤはあの二人の前で、僕が真実を話すことを防ぐために人質をとっている。


 さらに言うと、カリヤは僕と闘ったが、僕の能力を正確には把握してない。だからリストレイナーや手錠で、僕を拘束できると思ってる。


 ――こんな牢屋、いつでも抜け出せる。見張りは近くにはおらず、先のホールにしかいない。

けど、問題はランスロットたちを助けないと、動きがとれないことだ。


「ランスロット……大丈夫なのか?」


 僕は思わず、呟いた。カリヤに蹴られた頬や腕が痛い。

 あいつ……次は容赦も躊躇もしないと言ったはずだ。記憶力がないんだろう。


 しかし、カリヤの黒マスクをつけた変貌ぶりにも驚いた。

 あいつは、あいつで多分、強くなってる。厄介な奴だ。


 それにしてもあの子供――あの不気味さはなんだ?

 僕がそう思った時、視界の隅に動くものがあった。


 なんだ? と思って見ると、小さな乳白色の虫のようなものが、牢屋に入ってくる。


 いや、虫じゃない。小さいが――水牛だ!


「スーのファントム?」

「もぉ」


 鳴くのか! 僕が床に座ると、水牛は僕の身体を駆け登り、肩まで上がってきた。

 見ると、口に光る玉のようなものを咥えている。


「……そうか、リンクだね」


 僕が額を向けると、水牛は僕の額にリンクの光を触れさせた。


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