第十三話 クオン包囲網 1 カリヤの企み
「スー! ――貴様!」
ランスロットは稲妻と化し、ネラを急襲した。
そのあまりの速さに、誰も反応できてない。ネラはスーへの拘束を解いて、斬りかかってきたランスロットの剣を、念動力で防いだ。
「へぇ、ボクの外見を見ても躊躇なく斬りかかるんだ……。判断が早くて、いいリーダーだね、キミ」
ランスロットは一旦、距離をとると、スーの処へと戻った。
「大丈夫か、スー?」
「大丈夫です。けど……信じられない霊力です。あんな念動力の使い手は、見たことがありませんわ」
ランスロットは黒牙のマスクを睨みながら、声をあげた。
「お前たち、何者だ! 何が目的だ?」
ランスロットの声に、黒牙マスクの男が応えた。
「俺はカリヤ。お前たちには、クオンをハメるためのエサになってもらう」
カリヤの言葉に、ランスロットは目を細めた。
「クオンをハメる――だと? ……そうか、あの女隊長の部隊を皆殺しにしたのは、お前たちだな?」
「フフン、察しがいいじゃねえか。あまり頭が回ると――早死にするぜ」
カリヤはそう言うと、黒のいマントを翻し黒炎のガントレットを露わにした。
その掌をランスロットに向けると、黒い炎が発射される。
「ムン!」
ランスロットは黒炎を斬り裂いて、そのまま気力を発動してカリヤに襲い掛かろうとした。が、その途中で、身体の動きが止まる。
「くそ……なんだ、これは?」
「こいつが一番の獲物かな? ボクもまぜてもらうよ」
ネラが念動力で、ランスロットの動きを止めていた。
「暴虐の矢!」
突如として現れた光の矢が、辺り一帯を縦横無尽に飛来する。
「うげっ!」
「ぐぉっ!!」
カリヤの手下たちには、直撃を受けて倒れる者もいた。ミレニアの魔法である。
ネラは自分に飛来してきた矢を、眼力で止めた。
「ム――」
その瞬間に、ランスロットが再び動けるようになる。
ランスロットは高速移動して、すぐに三人の手下を倒した。
「――オレは止められんぞ!」
さらにガドがネラに向かって、斧を振りかざし突進する。ネラの眼が光る。
一瞬、立ち止まるが、ガドはそれを押し切り、さらに前進した。
「じゃあ、オレが止めてやるよ」
その前に、鼻ピアスをしたカザンが現れた。
と、その姿が変貌していく。
「ぐっ……ムム…う…ぐぅ――」
小さな呻き声を上げながら、カザンの身体は蒸気を上げながら膨れ上がっていった。うつむいた頭部からは、二本の巻き角が現れる。身長は1.5倍ほどに膨れ上がった。
「フーッ!」
鼻息を荒く噴き出した時、カザンの顔は伸びた前髪でほとんど隠れていた。
その前髪の間から、赤くなった眼が鈍く光る。
「なんだ……? バイソン人間か?」
「ウオーッ!」
カザンの突進に、ガドは斧を振る。
が、その腕は途中で止められていた。
「こいつ――オレの力を止めやがった!」
「フーッッ!!」
鼻息を荒く吐いたカザンが、そのまま力でガドを押し込んだ。
「ガド!」
スーが事態を察して、水牛のファントムを作り出す。それでカザンを襲わせようとした瞬間、不意に近づいた影にファントムは真っ二つにされた。
ゲイルが、長い棒の先にうねった刃を持った奇妙な武器で、ファントムを両断していた。
ぎろり、と睨んだ炎のペイントをした眼の中で、瞳が金色になって黒い縦線になる。口をあけると、ゲイルは先が二つに割れた細い舌を、シャーッと音をたてながら、ちらちらと動かして見せた。
「なんなんですの?」
ゲイルの首筋に、蛇の鱗模様が浮かび上がっている。
その金色の眼が光った。
「これは……邪視――」
動きを止められたスーが、苦し気に洩らす。
ゲイルはうねるような動きで、スーに襲い掛かった。
「――お前さんの魔法、なかなかよかったぞ」
赤目のゴーグルをしたビヤルは、そう言ってミレニアに笑いかけた。
「別に、あんたみたいなのに褒められたって嬉しくないけどね」
「お返しに、ワシの魔法をあんたにプレゼントしよう」
そう言うと、ビヤルは両手を広げた。
と、その頭上に、紫の光の髑髏が幾つも現れる。
「ヴァイオレット・デストラクション」
ビヤルの声をともに、紫の髑髏が辺り一帯に振りかかる。
「うわ!」
「お、おれたちまで――」
所かまわず爆発を起こすビヤルの魔法に、手下たちが悲鳴をあげる。
凄まじい爆発が辺り一帯を包み込むと、ビヤルは愉快気に笑い声をあげた。
「ケケケ……さて、どれくらい残ったかのう?」
カリヤの手下の大半が倒れていた。
中には絶命してる者もいる。
「――なるほど、こいつはムチャしやがるぜ」
黒炎に身を包んで防御したカリヤが、呆れたような声を出した。
かろうじて魔導障壁で防御したミレニアだったが、次の瞬間に宙に浮かされた。
ネラが三日月形の笑みを浮かべながら、念動力を使っている。
雑巾を絞るように、その身体が捻じり上げられていく。
「ひっ――」
小さな呻き声をあげると、ぼたり、とミレニアが地面に落ちた。
「ミレニア!」
ランスロットは叫んだ。爆発後の辺りを見回す。
カザンに岩に押し込められたガドが、動かなくなっていた。
スーは爆発のおかげで邪視から逃れ、防御していた。が、息をきらしている。
ゲイルとカザンは、それぞれ気力で防御していた。
「次はお前だ」
カリヤはそう言うと、ランスロットに向けて黒炎を放った。
ランスロットがそれを察知して躱そうとする。が、ネラの念動力が、その動きを止めた。
「クっ……」
ランスロットは歯を食いしばって、魔道障壁で黒炎を防御する。
それを見たカリヤが、愉快気な声を出した。
「フン、Bランクモンスターのブラック・バイソンと戦った後で、どれくらい魔力が残ってるかな?」
「貴様――それを狙って襲ってきたのか? 卑怯だぞ!」
「馬鹿か、お前? 相手が弱ってるところを襲うのが基本だろうが」
カリヤはそう、うそぶいた。ランスロットがカリヤを睨む。
「――ボルト・スパーク!」
突如、ランスロットの全身が光りを放ち、カリヤたちは眼を覆った。
凄まじい速さで走りぬけたランスロットは、スーを抱え、その場を離脱する。
しかし、しばらく走ったところで、ランスロットの光が途絶えた。
ランスロットは地面に膝も両手をもつき、息を乱した。
「スー……お前は逃げろ。逃げて――クオンに連絡してくれ」
息も絶え絶えに、ランスロットはスーにそう言った。




