5 カリヤの手勢たち
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カリヤの凄みに、眼に火のペイントをしたゲイルが口を開いた。
「わ、判った。おれはやるぜ!」
「お、おい、ゲイル……わかった――オレも…やるよ」
鼻にピアスをつけてカザンが、弱気ながらも言い添える。
カリヤはにやりと笑って、ロウを見た。
「だとよ。どうだ、なんかいい方法でもあるのか?」
「う~ん、今二つの方法を試そうと思っているところじゃ。一つはキング・バイパーの体液を静脈注射する方法。もう一つは、ブラック・バイソンの細胞を移植する方法じゃ」
「フン、おもしれえじゃねえか。――おい! どっちがいいんだ!」
カリヤの声に、ゲイルがまず口を開いた。
「お、おれはキング・バイパーの方で!」
「じゃあ……オレは、猛牛かあ…」
カザンは心細そうな顔で呟く。カリヤは二人姿を見て笑みを浮かべた。
二人の施術が済むと、カリヤは二人に言った。
「おい、十人くらいでいいから、金を払えばなんでもやる連中を集めろ」
「い、今からかよ」
「お前らのほうが、ろくでなしに詳しいだろう。俺は『コブラ・ピット』の二階にいる。そこに連れてこい」
カリヤは行きつけの酒場の名をあげた。そこは素行の悪い連中が集まるので、有名な酒場で、カリヤはすっかり馴染みだった。
酒場の二階の広い部屋に、やがてゲイルとカザンが声をかけた連中が集まってきた。明らかに人相が凶悪で、素行の悪い連中と一目でわかる者たちだった。
カリヤはゲイルに訊いた。
「おい、この中で有名な奴はいるのか?」
「あの赤いゴーグルをしてる魔導士――あいつは『赤目のビヤル』って言って有名な奴だぜ」
「おい、ビヤル!」
カリヤはいきなり、赤目のゴーグルをつけた男を呼んだ。
頬のこけた顔に赤目のゴーグル。黒い髪は、パイナップルのように逆立っている。
「なんだい?」
ビヤルが呼ばれて、前に出てきた。
「お前、なんで有名なんだ?」
「ケケ、ちょっと手前にいた奴らを、極大魔法でキング・バイパーと一緒に吹っ飛ばしただけさ。まさか、一人も耐えられんとは思わなかったがな」
「味方殺しか――それで、どうなった?」
カリヤの問いに、ビヤルは笑った。
「ケケケ、冒険者資格をはく奪だと! ったく、弱い奴をかばいたがる面倒なギルドだぜ」
「フン、面白い奴だな、お前」
カリヤはビヤルが気に入ったらしく、眼を細めた。
その時、一角から声があがる。
「おい! ここに集められたのは、それなりの腕利きだろ! なんで、てめえみたいな子供が混じってんだ?」
声をあげたのは、スキンヘッドで片目に傷のある男だった。
「誰だあれは?」
「『心臓つぶしのジャガード』。モンスターの腹に手を突っ込んで、握り出した心臓を潰すんでついた仇名だ」
カリヤの声に、カザンが応えた。
そのジャガードは、傍にいる背の低い子供に声をあげている。
「あの、子供はなんだ?」
「いや…おれが連れてきたんじゃねえがーーカザン、お前か?」
「いや、オレじゃねえ」
ゲイルもカザンも不思議そうな顔で子供を眺めている。
子供は薄い緑色の髪をセミロングにしており、その外見は年端もいかない少女だった。背も低く、身体も細く、色が白い。しかしそこには、妖しい美しさがあった。
「面白そうな話をしてたからさ、ボクも混ぜてほしいなって」
薄緑の髪の少女は、悪気なさそうな微笑を浮かべる。
ジャガードはカザンの方を向くと、声をあげた。
「おい! 集めてんのは10人じゃなかったのか? ここには11人いる。子供はいらねえだろ!」
「ふうん、集めてるのは10人だったんだ。…じゃあ、一人いらないね」
少女が微笑する。
その緑だった瞳が、紅く染まる。
「ぐ……」
突如、ジャガードの身体が宙に浮いたと思うと、その全身が締め付けられた。
ジャガードが息もできずに、ただ小さく呻く。
「げ…がっ…ぁッ……」
右腕がおかしな方向に曲がり、ゴキン、と乾いた音を立てて折れる。
続いて右足、左足――肋骨が絞られるように、バキバキと音を立てて崩れる。
「ぐが……ぅ……」
ジャガードが白目を剥いて、口から泡を吹いた瞬間、ゴキ、という鈍い音とともに首が折れた。
どさり、と音をたてて、絶命したジャガードの身体が床に落ちる。
「お――おい……」
その場にいた、凶行に慣れているはずの男たちの顔が青ざめた。
誰も、あまりの出来事に口もきけない。
が、そこでカリヤが声をあげた。
「おい。――お前、何者だ?」
「ボクはね」
少女と見紛うばかりの子供が、カリヤの元に歩み寄ってくる。
「ネラ」
子供はそう言うと、三日月形に口を開いた。
「お――想い出した…『妖術師ネラ』! 子供にしか見えない外見で、凶悪な霊術の使い手だという話だ!」
ゲイルが、恐ろし気な眼で子供――ネラを見る。
それを聴いたカリヤは、薄笑いを洩らした。
「フン……面白ぇ」
「ねえ、何か面白いことが起こるんでしょ? ボクも混ぜてよ」
ネラの言葉に、カリヤは黒牙マスクの上の眼を細めた。
「いいぜ――楽しみな」
返事の代わりに、ネラは微笑してみせた。
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翌日の朝、僕は新装備の製作にとりかかった。
僕には遠・中距離を攻撃する方法が弱い。今のところ、放ち投げがせいぜいだ。しかし放ち投げは、正直なところ陽動には使えても、威力という点ではあまり有効じゃない。
しかしカサンドラの戦いを見て、判ったことがある。
魔法じゃなくても、鎖剣のような武器を使えば、中距離の相手を直接攻撃できる。
それにヒントを得て、僕は鉄塊を軟化させ、一本の細い鉄棒にしていた。
相当に細くした後で、それを蚊取り線香のように渦巻き状に巻く。
その巻いたものを、スコップの柄にとりつける。完成だ。
「これを、鞭のように使えば――」
振り上げて、軟化させた瞬間に放る。する鉄が鞭のように唸りながら、宙を飛んでいった。
「いいぞ。じゃあ、今度は狙いをつけて――」
丸太を立てると、僕は鉄鞭を放って巻き付けた。
鉄鞭が丸太に巻き付いた瞬間に、硬化する。
ぐい、と引っ張ると丸太が揺らぐ。
「これで、全体を軽化させたらどうだ?」
鉄鞭を通して『一体』となった丸太が、宙に浮く。
僕はそれを遠くに放り投げた。
「うん、いいぞ。先を丸くしたほうが扱いやすいか。それに、スコップ側を武器として使うことも考えて――」
僕はしばらく、夢中になって新しい武器の練習をした。
と――背後から女性の声がする。
「――随分と熱心だな」




