第十二話 クオンを狙う闇 1 カリヤとギュゲスの取引
カリヤの言葉に、ギュゲスは首を傾げた。
「私も知っている――人間だと?」
「そうだ。オレが転生した時、一緒に能なしが転生しただろう」
カリヤの言葉に、ギュゲスは少し目を逸らした。
「覚えておらんな。役に立たぬことは覚えない性分なのでな」
「チッ、性根まで偉そうな奴だぜ。オレと一緒に転生したが、三力のどれも使えねえ能なし野郎。それがクオンだ。あんたは奴が『不用品だから処分する』とか言ってたが、あれからどうしたんだ?」
「不用品は地下の巨大ワニの餌にするのだ。……しかしこのワニが、最近死んだ。見てみると、口の中に大きな傷があり、それが化膿して死んだようなのだ。傷から見ると、どうも二ヶ月くらい経ってたらしい」
カリヤは黒いマスクの上の眼を、じろりとギュゲスに向けた。
「二ヶ月っていうと、オレとクオンが転生した頃の話だ。クオンの奴はワニに喰われずに、そこから脱出した……」
カリヤは少し考えていたが、やがて眼を細めながら口を開いた。
「……なるほど、判ったぜ。奴はワニに喰われる前に、異能――ディギアに目覚めた。あの堅くなったり、重くなったりする妙な力は、奴のディギアだったんだな」
「そのクオンが――爆弾を使って、ワニに復讐したというのか?」
「案外、そうかもしれねえな。奴だったら、やりかねねえ」
カリヤはギュゲスを見て、いかにも自分は知ってるという素振りを見せた。
「奴は、自分を殺そうとしたファフニール――そしてあんたを恨んでる。恐らく、カサンドラの部隊がファフニールの手先だと知って、兵士たちを皆殺しにしたのさ」
「そのクオンという者のディギアは……それほどの能力なのかね?」
ギュゲスは片眼鏡の奥の眼を、きらりと光らせた。
「ああ。奴のディギアは大きく進化してる。とんでもなく速く走ったり、宙に浮いたりもできるようだ。どういう原理かは判らんがな。そして……死ぬ前に、女隊長はオレにこれを預けた」
カリヤは黒マントを翻すと、黒炎のガントレットを見せた。
「泣きながら言ってたよ。『隊士の仇をとってくれ』ってな」
「ふむ……」
ギュゲスは片腕を組み、一方の手を顎にあてた。
「死んだワニの腹から、友人が探している奴隷少女の奴隷環が見つかった。てっきり、迷い込んでワニに喰われたのだと思ってたが――」
「何かあるのか?」
カリヤは訊ねた。
「その奴隷少女を護送していた二人の手下が行方不明になっている、と聞いた。もしや…この一連の騒動にも、そのクオンが関係しているのか……?」
(二人?)
カリヤは顔には出さなかったが、内心で驚いていた。
(クオンんが殺ったのが二人って言ってたな。まさか……そいつらだったのか?)
「おい、その奴隷少女ってのは、どんな奴だ?」
「――白の猫耳少女だと聞いているが」
カリヤは眼を見開いた。
いつかギルドでフードをとって見かけた、白い髪の猫耳の少女。
その少女の事を口にした事で、クオンと戦うはめになった、あの少女。
「ククク……そういう事かよ、クオン…」
カリヤは笑い声をあげた。
「どうかしたのかね、カリヤ君」
「――オレは、その奴隷女の居場所を知ってるぜ」
「なんだって?」
「そいつはクオンと一緒にいる。クオンのペットだ!」
カリヤはそう言い放った。
ギュゲスは平静な表情のまま、カリヤに問う。
「君はそれを知ってると?」
「ああ、クオンの顔も、そいつの顔もオレは知っている。どうだ、オレを雇う気はないか? 奴を殺して、その女奴隷を捕まえりゃいいんだろ?」
「ふむ……」
ギュゲスは考えていたが、やがてカリヤに言った。
「そのクオンも奴隷も、生かしたまま捕らえるのが条件だ。そして君の役目は、こちらが送る実行役の案内とサポート。それで頼みたい」
「フン、いいぜ。じゃあ、前金で300万ワルドよこしな」
カリヤの高額請求に、ギュゲスは顔色も変えずに指を鳴らした。
ドアから部下が入ってくる。
「カリヤ君に500万ワルド準備しなさい」
「は」
カリヤは驚きに少し目を見開いたが、すぐに黒マスクの中で笑みを浮かべた。
やがて戻ってきた部下は、盆の上の五つの札束をカリヤに差し出す。
「さすが、何やってるか知らねえが、金には余裕があるな」
「受け取るからには、仕事はきっちりやってもらう。それは準備金も含めての額だ。実行役とは後で会ってもらおう」
カリヤは札束を手にすると、ギュゲスに言った。
「いいぜ。クク……面白くなってきたじゃねえか」
カリヤは黒マスクのなかで、舌なめずりをした。
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僕たちはブランケッツ号で街へ戻ってきたが、ミレニアはカサンドラを移送するのに最後まで不服そうだった。
「あたしたちは、これ以上タッチしないから」との言葉を残して、ミレニアは去っていった。
スーとガドは苦笑を浮かべている。ランスロットがとりなすように、僕に言った。
「気を悪くしないでくれ。あいつも根は優しい奴なんだ」
「判ってるよ。ミレニアも止めはしなかったし……僕の言ってる事のほうが無茶だと思う。パーティーの中で気まずい思いをさせて、悪かったね」
僕がそう言うと、ランスロットは朗らかに笑った。
「いいってことよ。しかし、ギルドにはなんて報告する?」
「ありのままで」
僕は言った。
「あった事実をそのまま報告してほしい。ファフニールが青霊鳥の乱獲をしたために、ファイアー・ジャッカルの集団移動が生まれ、山火事になった。――そういう事だろ?」
「そうだな。……それをどう判断するかは、ギルドに任せよう。カサンドラは、どうするつもりだ?」
「僕らの家に連れていって、とりあえず看護するつもり」
僕の答えに、ランスロットは軽く微笑んだ。
それからボルト・スパイクと別れて、僕らはパーティーハウスに帰ってきた。
傷は治ったが意識が戻らないカサンドラは、僕の部屋のベッドに寝かせることにした。ひどい状態の着替えをエリナとキャルに任せて、二人に呼ばれたところで、僕は部屋に入った。
「多分……心のショックも大きいのだろう。瀕死のところを――さらにむごい目にあわされてるのだからな」」
エリナが、カサンドラの寝顔を見て呟いた。
キャルがふと、声をあげる。
「敵だったけど……可哀そう……」
「うん。……僕も、そう思うよ」
僕らは寝ているカサンドラを残して、そっと部屋を出た。
翌朝、僕はカサンドラの様子を見に部屋へいってみた。
カサンドラはまだ寝ている。
「――様子はどうだい?」
エリナとキャルが、部屋に入ってきた。
「まだ寝てます」
そう答えた時、カサンドラが眼を覚ました。
「……ここは――?」
「僕たちの家だ」
僕はカサンドラに答えた。
「お前たちは……あの時の、冒険者――」
「貴女以外の兵士たちは…全員、殺されてました」
僕の言葉を聞くと、カサンドラは眼を見開いた。
「そうだ! 私は……」
カサンドラは呆然とした表情になり、片手で顔を覆った。
多分、恐ろしい記憶を思い出したのだろう。
「…どうして……私を死なせてくれなかった………?」
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