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6 堪えきれない嗚咽


 そこで見たのは、血まみれで横たわる兵士たちの姿だった。


 僕は近くにいた兵士の肩を揺さぶった。

 完全に死んでいる。


「どうして……? 僕たちが戦った時は――一人も殺さなかったはずだ…」


 他の兵士たちを見ていたランスロットたちからも声があがる。


「ダメだ。全員死んでる」

「何者かに……襲われたようですね」


 スーが神妙な顔で、顎に手をあてた。

 しばらく見て回るなかで、僕は女隊長カサンドラの姿を見つけて、息を呑んだ。


 前面の鎧と服が破かれ、肌があらわになっている。


「これはひどいな……レイプされている」


 いつの間にか傍にいたエリナが、眉をひそめて呟いた。

 キャルがしゃがみ込んで、手で前を隠してやろうとする。と、キャルが声をあげた。


「ね……この人、まだ生きてる」


 キャルが僕らを見上げた。


 生きてる。――まだ息がある? 助かる可能性がある?

 僕は少し逡巡したが、スーに向かって声をあげた。


「スーさん! この人を……治癒してもらえませんか!」


 ボルト・スパイクの面子がそろってやってきた。


「この人、まだ生きてます。治癒してもらえませんか」


 僕の言葉に、ミレニアが苛立った声をあげた。


「はあ? バカじゃないの! こんな女助ける義理がどこにあるのよ! あたしは、この女に殺されかけたんだよ! この女を助けるなんて、絶対反対だわ!」

「悪いが……オレも賛成できないな」


 ミレニアに続いて、ガドも言う。

 スーは二人の剣幕を見て、口を閉ざした。


「けど……こんな形で殺されかけてる人を見殺しになんてできない。今だったら、まだ助かるんだ!」


 僕はボルト・スパイクの皆に言った。


「この人が助からなければ、ここにいる兵士たちを皆殺しにしたのは――僕たちという事になりかねない。ちゃんと証言してもらうためにも、この人は助ける必要があると思うんだ」

「わたくしは……仲間が反対することには、お手伝いはできません」


 スーはそう言うと、静かに目を伏せた。

 と、エリナがそこで口を開いた。


「じゃあ、私に治癒術を教えてくれないか? さっきそう約束したろ?」


 スーが驚いた顔で、眼を上げる。


「スーができないなら、私がやる。それなら構わないだろ」


 エリナはそう言って、にっと笑ってみせた。


「あんたたち、どこまでお人好しなの!? つきあいきれないよ!」


 ミレニアはそう声をあげると、踵を返して歩きだした。


「見てると腹が立つから――さっさと済ませて!」


 歩きながら、ミレニアがそう声をあげる。


「ありがとう、ミレニア!」


 僕は声をあげた。

 スーがエリナに近づいて、口を開いた。


「エリナは、気力は使えるんですの?」

「最初に充気相伝とかいうのをやった時、爆発呼吸とかいうのがうまくできなかった。だから気力を使えるようにならなかったけど、今度はちゃんとやってみたい」


「じゃあ、横になってみてくれ」


 不意にランスロットが、口を開いた。


「ランスロット、いいんですの?」

「ああ。俺は――自分が負けた相手が、こんな形で死ぬなんて納得できない。もっと修行して強くなって……次は勝つ! だから――今は助ける方を選択する」


 ランスロットは複雑な表情でそう言った後に、笑みを浮かべてみせた。


「スー、ミレニアとガドには悪いが、カサンドラを治癒してくれ。俺はエリナに充気相伝をする」

「判りましたわ」


 背を向けて腕組みをしていたミレニアが、ちらとだけ振り返った。けど、口を挟むことはなかった。


 スーがカサンドラに近づいて、治癒術を施し始める。

 別の場所では、横になったエリナにランスロットが充気相伝を始めていた。


「寝ると必ず腹式呼吸になる。腹に手をあててくれ。息を吸った時に腹が膨らみ、吐いた時に凹むのが判るだろ?」

「うん、判る」

「それを、吐いた時にも腹の膨らみを維持するつもりで、腹に力を入れて吐くんだ」


 エリナはお腹に手をあてたまま、呼吸をしてる。

 ランスロットはエリナのお腹に手を当てた。


「いいぞ、次で気力を送る。ハッ!」


 びくん、とエリナの身体が震えた。


「あ……」

「身体を起こして、大きく呼吸をしてくみてくれ」


 エリナが上半身を起こし、大きく呼吸をする。

 その身体が、ぼんやりと白く光った。


「成功だ。あんたには気力を使う才がある。治癒術の要点は、スーに訊いてみてくれ」

「ありがとう、ランスロット」


 エリナは眼鏡の奥の眼で微笑んで見せた。

 と、カサンドラに治癒術を施しているスーの傍に向かう。


「気力は使えるようになったみたいね。気力で全身を活性化するのを、他人の身体にも同じ効果を与えるイメージ。それで身体回復と、霊体回復の両方を一度に使うのが治癒術」

「透明化を他人にも使うイメージかな。それなら判りやすいんだが――」


 エリナがスーとは逆の側から、傷口に手をあてる。と、その手から白い光が放たれた。


「うん、できてるわ。エリナ、治癒士の才があったみたいね」

「そうか。――これで私たちのパーティーも回復役ができた事になるな」


 エリナはそう言うと、僕の方を見て笑った。


 その時、治癒術を受けているカサンドラが、呻くように声をあげた。


「やめて…くれ……このまま…死なせて――」

「駄目です」


 僕はしゃがみこんで、カサンドラの顔を見た。


「どんなに踏みにじられたことが辛くても……命を投げ出すなんて駄目だ」


 僕はカサンドラに言った。


「う……ぐ…ひぅ…」


 カサンドラの眼から、涙がこぼれ落ちる。

その喉からは、堪えようとしても止められない嗚咽が漏れていた。



   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦



 街に戻ったカリヤは、宮殿へと足を運んでいた。


 その一室で待たされたカリヤのもとに、片眼鏡をかけたギュゲスが現れる。


「久しぶりだな――ギュゲス」


 カリヤは黒マスクの奥で、笑みを浮かべた。

 ギュゲスの片眼鏡の奥の眼は、少しも笑っていない。


「カサンドラに関する報告がある――と、配下に言ったというから来たんだ。君が何故、カサンドラ隊長のことを知ってる?」

「森で会ったのさ、偶然な」


 カリヤは、うつむきがちな顔から横目でギュゲスを見た。


「あの女隊長――それから連れてた兵士たちは、全員死んだぜ」

「なに……? 一体、何が――」

「殺されたんだよ。ある男と、その仲間にな」


 カリヤは正面を向いて、ギュゲスの方を見た。


「その男を、知ってるというのかね?」

「クオン」


 カリヤはそう告げた。


「……よく知ってる男さ。そして、あんたも知ってる奴だよ」


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