5 カリヤの凶行
カサンドラが、口から血を吐いた。
「がっ――な……なに…を――」
カサンドラが、驚きに眼を見開く。カリヤはそれを、面白そうに眺めた。
「悪ぃな。もっと面白いこと思いついたんだ――あんたたちが全滅したのは、クオンの仕業だってギュゲスに報告に行くのさ!」
カリヤは愉快げに声をあげた。
「貴様ッ!」
カサンドラを抱えている兵士が怒号を上げた。が、カリヤは薄笑いを浮かべたまま、その兵士を剣で袈裟斬りにした。
兵士が倒れ、カサンドラも地面に崩れ落ちる。
「お前! どういうつもりだ!」
「許さんぞ!」
周りで色めき立つ兵士を見ると、カリヤは一瞥すると、気力を発揮して兵士たちを三人、眼にもとまらぬ速さで斬り殺した。
「おい! ゲイル、カザン!」
剣を片手にぶら下げたカリヤは、黒マスクの上の眼でゲイルとカザンを睨んだ。
「な、なんだ……よ」
「お前たちがいつまでも二流で、あのクオンに負けた理由が判るか?」
カリヤは剣を肩に担いだ。二人は呆然として、答えられない。
「クオンの野郎は二人殺したと言ってやがった……。つまりな! 奴は腹が据わってたのさ。いいか? だから、俺たちも腹を据える必要がある。――何をやったらいいか、判るな?」
ゲイルとカザンが、息を呑む。
カリヤは黒マスクの奥から言った。
「ここにいる奴らを――全員殺れ」
ゲイルとカザンは顔を見合わせるが、覚悟を決めたように頷いた。
「ウオオォォッ!」
眼の周りに火のペイントをしたゲイルが、剣をとって近くの兵士を斬り倒した。
「クッ――うわあぁぁっ!」
鼻ピアスをしたカザンが、剣を兵士の腹に突き立てる。
兵士が血を吐いて、倒れた。
「フン、やればできるじゃねえか」
カリヤは笑みを浮かべると、瞬時に移動した。
――阿鼻叫喚。という光景だった。次々と、負傷して弱った兵士が、カリヤたちに殺される。
「や……やめろ…やめてくれ――」
倒れたままその惨状を見ていたカサンドラは、涙を流しながら嗚咽を洩らした。
そのカサンドラの傍に、全ての兵士を殺し終えたカリヤがやってくる。
「お、まだ生きてるじゃねえか、隊長さんよ」
カリヤが真上から、身動きできないカサンドラを覗き込んだ。
と、カリヤはカサンドラのガントレットを奪いとろうする。
「や、やめろ……」
「フン、死人には必要のねえもんだろうが。オレが、ありがたく貰っといてやるよ」
カリヤは愉快気に笑うと、ガントレットをもぎ取った。
と、カリヤは息も絶え絶えのカサンドラを見る。
「お前……よく見るといい女じゃねえか」
カリヤは突如、掌に光熱を集めると、カサンドラの鎧を中心部からはぎ取った。
カサンドラの肌が、露わになる。
「なっ、なにを!」
カリヤはそのまま、カサンドラの下腹部の装甲ももぎ取った。
「フン、お前が地獄に行く前に、天国に行かせてやろうってのさ」
「や、やめろっ――」
驚愕に見開いたカサンドラの眼から、涙がこぼれ落ちる。
カリヤはその顔に、黒マスクを近づけて囁いた。
「オレは嫌いじゃねえぜ。あんた、言ってたよな? 『どれだけ綺麗ごとを言ったところで、力のない奴は踏みにじられ、潰される』だろ? オレもそう思うぜ。クオンみたいな奴の言う事には、ヘドが出る」
カリヤは薄笑いを浮かべると、カサンドラを凌辱した。
「や……やめ…て…く……」
絶命寸前のカサンドラの眼から、涙がこぼれ落ちた。
〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇
僕とキャルは、ディプレイ湖に比べれば小さな湖にやってきた。
そこで、カサンドラから奪った収納珠を取り出す。僕らの持ってるものより、一回り大きい。
「この収納珠は、生きてるものも収納できるんだね」
「かなり高価なものね。操士って呼ばれてる人たちは、操るモンスターを入れて運んだりするの」
キャルの言葉に、ふ~ん、と言いながら、僕は収納珠のボタンを押す。
中に収納されてるものがアイコン表示されるが、32、と数字がある。32羽も青霊鳥を捕まえたのか。
「じゃあ、逃がしちゃおうか」
「あ、いっぺんに逃がすと、混乱するかも」
「じゃあ、とりあえず一羽だけ」
一羽出すと、少し弱ってるが青霊鳥が出てきた。
キャルが声をあげる。
「あ、首に何かついてる」
見ると、細い首に輪がつけられている。
「多分……青霊鳥の霊力を封じる、霊封環だよ」
「こんなものを――」
僕は少し暴れようとする青霊鳥を、柔らかく抑えた。
「恐がらないで。君の……本当の君を封じてる道具を、とってあげる」
僕はそう言って、青霊鳥の首輪を軟化してとってあげた。
青霊鳥はぶるん、と首を震わせると、じっと僕を見つめる。
「もう、いいよ。行って」
僕が言うと、青霊鳥は飛びたっていった。
「……やっぱり、クオンって優しいね」
「え? 何が?」
僕が驚いて声をあげると、キャルは嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ」
僕はよく判らなかったけど、キャルと二人で残りの青霊鳥の首輪を一羽ずつとってから、湖に放った。
戻ると、スーの治療は終わっていた。
ランスロットが疲れた表情で、片手をあげる。
「よう、クオン。世話になったな」
「大丈夫かい、ランスロット?」
ランスロットは苦笑した。
「まあ……スーのおかげでな。しかし、お前が離脱してくれたから助かったんだ。礼を言うよ」
「いや……僕のせいで、戦闘になっちゃったんだ。ごめん」
僕はボルト・スパイクの面々に頭を下げた。
「よせよ。俺たちだって、了承済みだし、手も出してる。それに――お前の判断が間違いだったと思わない。…青霊鳥は、逃がせたんだろ?」
ランスロットの言葉に僕は頷くと、手にした収納珠を見た。
「……申し訳ないけど、この収納珠をカサンドラに返しにいっていいかな」
僕の言葉に、みんなが眼を大きく見開いた。
「は? あの女に返す? いいじゃん、別に貰っとけば」
「そうだな。そんな義理ないと思うが」
ミレニアが苛立ちまぎれに言うと、ガドも少し不機嫌な声を出した。
「けど……なんか高価なものみたいだし、強奪したみたいで感じ悪いから」
僕がそう言うと、皆は不承不承ながら納得した。
――が、カサンドラのいる場所に戻った僕らは、予想だにしなかった惨状を目の当たりにすることになった。
「こ――これは…一体……」




