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4 カリヤとカサンドラ


 僕はエリナとキャルを抱えると、スーのいる場所へとダッシュした。


「スーさん、みんなは!?」


 スーがランスロットに治癒術を施している。傍にはミレニアとガドが座っている。二人は僕らの声に、顔を向けた。


「ミレニアさん、ガド! 回復したんですね、よかった!」


 僕たちはボルト・スパイクに駆け寄った。

 まだしんどそうな顔をして、ガドが問いかけてくる。


「あの女隊長はどうした?」

「とりあえず、倒してきました。青霊鳥も持ってます」


 僕は収納珠を見せた。


「まったく……おかげで死にかけたわよ」


 ミレニアが横目で睨みながら口にする。ミレニアの顔はちゃんと治っていた。僕はその事に安堵したが、本人はまだ辛そうだった。


「ご、ごめんなさい」

「いいわよ、うちのリーダーも同意したんだし。けど、あの女を倒すなんて……あんたたち、凄いのね」


 僕はキャルとエリナを見た。

 キャルが口を開く。


「みんなで力を合わせたから……倒せたの。一人一人じゃ、全然、勝てなかったと思う」

「そうだな……正直、滅茶苦茶な強さだった。格上のランカーって、ああいうものか、と思ったよ」


 エリナがそう言ってため息をついた。


「ランスロットは大丈夫ですか?」


 僕はランスロットを治癒してるスーに訊ねた。スーは、キツそうな顔で、答える。


「とりあえず、生命の危機は脱してるけど――ダメージは一番大きいわ。けど、わたくしの霊力もそろそろ限界……」

「そうだ。私が霊力を回復させればいいんじゃないか?」


 エリナはそう言うと、スーの傍にいって手をかざした。霊体回復、というやつか。


「あ、ありがとうエリナ。助かる」

「私も治癒術ができればよかったんだが……」

「きっとできるようになるわ。今度、教えるわよ」

「そうかな? じゃあ、お願いします」


 そんなやりとりをかわしてるエリナたちを見て、僕はキャルに声をかけた。


「僕たちは青霊鳥を逃がしに行こう。地図持ってる?」

「あ、地図は私が持ってるぞ」


 エリナが地図を差し出した。僕はそれを受けとる。

 広域地図を見ると、樹海の中でディプレイ湖の傍に、小さな湖がある。


「こっちの湖の方に、逃がしに行こう」

「うん」


 僕とキャルは、地図を見ながら森の中を進み始めた。



   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦   ♦



「――奴らは、こっちに進んだはずだな」


 カリヤはそう呟きながら、足を進めた。

 その時、森の奥から声が響く。


「残ってるのは、貴女だけです。もう、やめましょう」


(クオンの声だ)


 カリヤにはすぐ判った。カリヤは後ろのゲイルとカザンに目配せをすると、気配を殺して近づいた。


「――やめる、だと? やめてください、と懇願するようになるのは、お前たちだ! お前ら冒険者風情に私の力を使うとは思わなかったが……」


 女の声がする。カリヤがさらに近づくと、声の主の女が目に入った。


 銀色の鎧をまとい、左腕にだけ黒いガントレットをはめている。


「後悔するがいい! 我が『黒炎(ブラック・フレイム)』の業火に焼かれてな!」


 そう言うと女のガントレットから黒い炎が巻き起こり、女はそれを発射した。

 その手の向けられた先にいた屈強な身体の冒険者が、瞬時にして炎に包まれ倒れた。


(なんだ、あの女……やるぞ)


 そう思った瞬間から、女の凄まじい戦闘力が発揮された。

 女魔導士の顔を焼き、稲妻の剣士を業火で下す。

 カリヤは息を呑んだ。


(なんだ、あいつ滅茶苦茶、強ぇぞ)


 女は残ったクオンに言った。


「いいか、どれだけ綺麗ごとを言ったところで、力のない奴は踏みにじられ、潰される。我が身を救うのは、『正しさ』ではなく『強さ』だ。――お前たちは、頼るものを間違えた。お前たちでは、相手にならん。おとなしく死ね」


 女が鎖のついた剣を、霊術士に飛ばす。

 が、その瞬間、クオンがその霊術士を突き飛ばして救った。


 カリヤは歯噛みをした。クオンが何かやるだけで、苛立ちが起きる。


 クオンはその場から離脱すると、残っていた女二人が姿を消した。


(なんだ、あいつ――逃げやがったのか?)


 カリヤがそう思っていると、クオンはその場に戻ってきた。

 そして姿を消したと思った直後、ガントレットの女を叩き潰した。


「もうやめにしましょう。これ以上…戦う意味はない」

「貴様が勝ったのだ……。好きにすればよかろう」


 クオンは女の胸に膝を乗せて、完全に勝利している。

 クオンはさらに言った。


「僕たちは青霊鳥を保護して、別の場所に逃がします。……これ以上、青霊鳥を捕まえないと約束してください」

「フン、約束しなければ――私を殺すつもりか?」


 完全に屈服状態の女の言葉に、クオンは言った。


「自分たちの目的のためなら、人を傷つけても、踏みにじっても――殺してもいいとか…僕は思いません」


(チッ! ムカつくほど甘い奴だぜ!)


 カリヤは腹立たしさを堪えて、成り行きを見守った。

 クオンはやがて去り、女は他の負傷した兵士と残された。


 やがて負傷した兵士がよろよろと歩きながら、女に近づいてきた。


「隊長! ……ご無事ですか!」

「あまり、無事とも言えんがな――」


 隊長と呼ばれた女が、兵士に肩を借りながら立ち上がる。

 兵士たちが、女隊長の周りに集まってきた。


「全員、無事なのか?」

「はい。全員負傷してますが、死んだ者はおりません」

「そうか……」


 女隊長は、うつむいて顔を曇らせた。


 カリヤは、ゲイルとカザンに目配せすると、その場へ出ていった。


「誰だ!」

「おっと! こりゃ、ご挨拶だ。負傷兵ばかりで、そんな強気に出ていいのかい?あんたたちこそ、誰だ?」


 カリヤは黒マスクの中で薄笑いを浮かべると、女隊長に問うた。

 女隊長は兵士に肩を借りたまま、口惜しそうに口を開いた。


「我々は……特務機関ファフニールの特別行動隊だ。私は隊長のカサンドラだ」

「ほう! ファフニールのね! いや、実はオレはファフニールにいた事あるんだよ。あのギュゲス・ネイの部下だったのさ」


 カリヤは笑みを浮かべて、カサンドラに近づいた。


「ギュゲスの……? ならば、伝えてくれないか。我々は負傷し、救援を待っていると――」

「いいぜ」


 カリヤはにやりと笑みを浮かべた。


「ただし、あんたがギュゲスに、オレをもう一度ファフニールで雇うように進言してくれるんならな。なんなら、あんたの部下でもいい」

「判った……約束しよう。お前の名は?」


「オレは、カリヤ。カリヤ・ダイヤモンドだ! よろしくな、カサンドラ隊長」


 カリヤはそう言って右手を差し出した。しかしカサンドラが右手をだらりとぶらさげているのを見て、左手に替える。


 カサンドラが苦々し気な顔で左手を出して握手したその瞬間だった。


 カサンドラの腹を、カリヤの剣が貫いていた。



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