3 ブランケッツ・アタック
「フン…残りはザコだな。どうした? 相手が強大すぎて、もう動けないか?」
カサンドラが黒炎をまとったまま、ゆっくりと歩いてくる。
カサンドラは、陰鬱な表情を浮かべて口を開いた。
「いいか、どれだけ綺麗ごとを言ったところで、力のない奴は踏みにじられ、潰される。我が身を救うのは、『正しさ』ではなく『強さ』だ。――お前たちは、頼るものを間違えた。お前たちでは、相手にならん。おとなしく死ね」
黒炎をまとったカサンドラは、膝から崩れたスーに近寄っていった。
「あ…あ、あ……」
スーが恐怖の表情を浮かべて、完全に戦闘意識を失っている。
そのスーめがけて、鎖剣が放たれた。
「危ない!」
僕はゴム脚ダッシュで、スーを突き飛ばす。
地面にもつれて倒れ込んだ僕は、スーに呼びかけた。
「スーさん! しっかりしてください!」
「あ……あぁ…」
細かいことを言ってもダメだ。
僕は声をあげた。
「エリナさん、キャルと消えて!」
「判った!」
エリナとキャルの姿を消えるのを確認して、僕はスーに呼びかけた。
「スーさん、僕と同調してください。軽くなって!」
「あ……あぁ――」
呆然とした様子だったが軽くなった。
僕はスーを背負うと、ダッシュしてランスロット、ガド、そしてミレニアを両手と脇に抱え込んだ。意識がないから、抵抗がなく軽化できる。
「ムッ! 残りの女二人は何処へ消えた!」
カサンドラは消えたエリナとキャルを警戒してる。今のうちだ。
僕はボルト・スパイク全員をダッシュで運んで少し離れた場所に降ろした。
背中から降ろしたスーに呼びかける。
「スーさん、しっかりしてください! ボルト・スパイクのみんなを治癒してください! まだ間に合います!」
呼びかけられたスーの顔に、生気が戻った。
「わ、わたくしは――」
「大丈夫、貴女はみんなを助けられる。お願いします!」
僕はそれだけ言うと、元来た方向へ向き直った。
「待って! クオンさんたちは?」
「あの女隊長を倒してきます」
僕はそれだけ言うと、ダッシュしてカサンドラのいる場所へ戻った。
「エリナさん! 合流してください!」
「貴様! 何処へ行っていた!」
カサンドラの黒炎が僕を襲う。僕はダッシュでそれを躱した。
と、その先で、僕の袖に触れるものがある。エリナの手だ。
僕の姿が消えた。
「なにっ!? 何処へ消えた!」
僕の姿を見失ったカサンドラが、焦りの表情で周囲を見回す。
「ブランケッツ号の要領で」
僕は小さい声で囁いた。いわば――ブランケッツ・アタックだ。
「そこか!」
カサンドラが声を頼りに、鎖剣を飛ばしてくる。
僕は両脇にいるキャルとエリナを抱え、ダッシュで躱した。
やはり二人は僕の意図を汲んで、完全に軽化に同調してくれていた。
その上で、エリナは透明化、キャルは魔導障壁を張ってくれている。
「逃げたか……? いや、潜んでいるな」
カサンドラは、鋭い目つきで、周囲を見回していた。そして声をあげた。
「姿が見えずとも、攻撃はできるわ!」
カサンドラが黒のガントレットの掌から、360度に円回転しながら黒炎放射をする。
くそ、なんて無茶苦茶な奴だ。だが、僕はその攻撃も想定していた。
僕は二人を抱え、上空に飛んでいたのだ。
カサンドラは、地上しか見てない。
地面に着く直前で、僕は二人を離して棒剣を構える。
「な――」
カサンドラが上空の僕に気付く。ガントレットから黒炎を発射した。
しかし、キャルの魔導障壁に守られる。
そのまま落下する勢いを利用し、僕は棒剣を振り下ろした。
柄の球の方で打つ――重化落とし!
棒剣の柄の先についてる玉は、黒炎の障壁を破り、カサンドラの胸を強打した。
「ぐあ――ふぁっっ!!!」
凄まじい勢いで、カサンドラの身体が地面に叩きつけられる。
僕は勢いのまま、右膝をカサンドラの胸に乗せる。そのまま重化!
「ぐ……うぉ――」
カサンドラが白目を剥く。
僕は右手を棒剣から放し、拳でカサンドラの右肘内側を強打した。
「がぁっ!」
ごきり、という音とともに、カサンドラの肘が折れたのが判る。
しかしカサンドラは、左手のガントレットを僕に向けようとした。
その手を掴み、外側に向ける。
「そこまでにして下さい! このガントレットを、破壊することだってできるんですよ」
「このミスリル製のガントレットを破壊するだと? 何を馬鹿な――」
僕はカサンドラの右手から落ちた鎖剣を掴むと、それを軟化させて握りつぶしてみせた。
カサンドラが、初めて驚愕の顔を見せる。
「もうやめにしましょう。これ以上…戦う意味はない」
「貴様が勝ったのだ……。好きにすればよかろう」
諦めた表情で、カサンドラは横を向いた。
「僕たちは青霊鳥を保護して、別の場所に逃がします。……これ以上、青霊鳥を捕まえないと約束してください」
「フン、約束しなければ――私を殺すつもりか?」
皮肉そうな笑みを浮かべるカサンドラに、僕は言った。
「自分たちの目的のためなら、人を傷つけても、踏みにじっても――殺してもいいとか…僕は思いません」
僕はカサンドラの上に乗ったまま、質問をした。
「そもそもですが……どうして青霊鳥を捕獲してるんです? それも一羽二羽じゃなく、大量だ。一体、なんのためにこんな事をしてるんですか?」
「……それは軍事機密だ。が、厳密に言うと、私も知らん。私はただ命令に従ってるだけだ」
僕は正直、唖然とするよりなかった。
「貴女……自分が何のためにやってるのか判らない事で、人々が被害を受けても平気なんですか?」
「命令は国のために出されてる事だ。そこに我々は疑問を差し挟まない」
僕は正直、論争しても無駄だと思い、カサンドラの上から身体をどかした。
「貴女は国のためとか言ったけど、そこに住んで暮らしてる人が『国』なんじゃないんですか? 貴女はただ一部の人の利益になる事をやってるだけで、『国』の役になんか立ってない。青霊鳥を捕らえることは、むしろ国の害だ」
「そう思うなら……私を殺せばいい。戦場では甘さを捨てろ。そうでなければ、生き残ることはできないぞ」
倒れたままのカサンドラは、僕にそう言った。
その物言いに、僕はため息をついた。
「それは軍人に対する教訓ですか? 僕は軍人じゃないし、此処は戦場でもない。ここを戦場にしたのは貴女だ。貴女は世界がこうだから、そうするんだと思ってるかもしれないけど――世界をそうしてるのは、あなたがこうするからです。――なんか、うまく言えないけど……」
僕は踵を返して、エリナとキャルに頷いた。
「……本当は世界は、貴女のところで変わる」
僕はそれだけ言うと、その場を後にした。
そう言ったのは――僕がそうだったからだ。僕はずっと、自分を取り囲む世界が「こう」だと思っていた。けど、本当は「そう」でなくてもよかった。
……今では、そう思っている。




