2 黒炎のガントレット
「ハンッ!? 我々を相手に手加減するつもりか? 舐められたものだな!」
カサンドラの鎖剣が、僕に向かって飛んでくる。僕は硬化したが、その剣をランスロットが叩き落とした。
「女隊長は俺がやる! みんなは兵士を頼む」
「判ったわ」
ミレニアの返事を聴くや否や、ランスロットは全身に稲妻を帯びて跳びだした。
「稲妻剣!」
眼にもとまらぬ瞬時の急襲だったが、カサンドラはその剣を受け止める。
「どうやら、このパーティーで一番の使い手はお前らしいな」
「それはどうだかな」
ランスロットが離れ際に剣を振って稲妻を繰り出す。カサンドラは、その稲妻を剣で斬り裂いた。
立て続けに放たれる稲妻に、カサンドラが後退していく。
ランスロットが、女隊長を遠ざけてくれているのだ。
その間にも兵士たちが僕らに襲い掛かってきた。
「暴虐の矢!」
光の矢の大群が現れたかと思うと、滅茶苦茶な飛び方をして兵士たちに襲い掛かる。飛び方が無軌道すぎて、迎撃できてない。
ミレニアの魔法だ。
「やるからには――きっちりやるわよ!」
「ミレニアってば、張り切っちゃって」
スーが可笑しそうに微笑む。その背後から兵士が襲い掛かる――のを、突如、現れた乳白色の水牛が突き飛ばした。
「わたくしの分霊体は、手加減が難しいんですわよ」
ガドは敵兵の一番厚いところに突っ込んでいった。一斉に兵士たちが剣で斬りかかる。
「オレは細かいのは面倒なんだ。ビッグ・バースト!」
ガドが巨大斧を一振りすると、気力の波動が兵士の群れをなぎ倒した。
エリナがボルト・スパイクの面々に驚きの声をあげる。
「いやあ……みんな強いな~。私はサポートにまわらせてもらうか」
そう言うとエリナは、手裏剣を持った手を胸の前でクロスさせた。
その両手から、手裏剣が四枚飛んでいく。
「――ハッ!」
背後からミレニアを撃とうとしていた魔導士が、杖を持つ手を手裏剣にやられて杖を落とす。
「くそ! 何処から――」
「花炎連弾」
キャルが魔法輪から放ったのは、花の形をした炎の列だった。
魔導士が魔導障壁を張るが、続けて直撃する炎の花が魔導障壁を破る。
「ぐわぁっ!」
魔導士が呻き声をあげて倒れた。
僕は数人の向かってくる兵士を視界に入れた。
ゴム脚ダッシュ!
一気に加速して、兵士を急襲する。
「重硬タックル!」
体当たりを喰らわせた兵士が吹っ飛ぶ。僕はその場で地面を蹴り、次の兵士に重硬タックルを喰らわせる。次、そして次! ――七人ほどの兵士を、一気に重硬タックルで戦闘不能にした。
「兵士はみんな倒したか――」
僕が周囲を見てそう確認した時、森からランスロットが凄い勢いで転がり出てきた。
地面に転がったランスロットを、飛んできた鎖剣が襲う。
僕は瞬時に駆け付け、鎖剣を棒剣で弾き飛ばした。
「ありがとう、クオン! くそ、あの女隊長だけは別格だったぜ」
ランスロットが身体を起こしながら、僕に言った。
鎖剣が宙を舞って、使い手のところに戻っていく。と、その暗がりからカサンドラが姿を現した。
「まさか……この短時間で、我が兵団が倒されたのか?」
眉間を寄せながら、カサンドラが倒れてる兵士を見回す。
僕は言った。
「残ってるのは、貴女だけです。もう、やめましょう」
カサンドラが僕を見た。と、その唇に、凶悪な笑みを浮かべる。
「やめる、だと? やめてください、と懇願するようになるのは、お前たちだ! お前ら冒険者風情に私の力を使うとは思わなかったが……。後悔するがいい! 我が『黒炎』の業火に焼かれてな!」
カサンドラが左腕を立てる。その黒いガントレットから、黒い炎が燃え上がった。
その黒い炎をまとう掌を、ガドに向ける。と、その掌から黒い火炎放射が発射された。
「ウグワァァァッ!」
一瞬でガドが黒い炎に包まれ、爆炎をあげる。
「「「ガド!」」」
ボルト・スパイクの悲鳴があがった。
その爆炎が静まった時、ガドは地面に倒れていた。
「よくもガドを!」
ミレニアが魔法杖を向けて、光の矢の一斉放射を浴びせる。
しかし黒い炎が全身を包み、光の矢はカサンドラに傷一つつけられなかった。
「ウソ! そんな……」
「今度はお前だ」
カサンドラが、掌を向けて黒炎放射をミレニアに浴びせる。
ミレニアは魔導障壁で防御した。
が、次の瞬間、カサンドラはミレニアの傍まで来ていた。
顔の横に構えた手甲だけだった掌が、黒い金属製のグローブに覆われていく。その黒い爪は、鋭く伸びていた。
カサンドラが黒い爪を、魔導障壁に突き立てる。
ぎり、と力が衝突した後で、黒い爪が障壁を破って侵入した。
「死ね!」
ミレニアの顔面手前で、黒い爪が開かれる。
そこから黒炎が一気に爆発した。
「ミレニアァッッ!!」
ランスロットが怒号をあげた。
その中で、顔が焼かれたミレニアがゆっくりと倒れていった。
「貴様ァッ!」
ランスロットが咆哮しながら、カサンドラに突っ込む。
全身に稲妻をまとった、閃光のような速さ。
しかしカサンドラは、その一撃を剣で受けていた。
が、ランスロットが鬼の形相で、連撃を繰り出す。
だが黒炎を身にまとうカサンドラは、余裕の笑みを浮かべながらその攻撃を凌いでいた。
「速さは中々のものだ。が、威力はまだ弱い。Cランクの上ではあるが、Bランクの私に勝てる威力ではないな」
「だまれえっ!」
距離をとったランスロットが、周囲を駆ける。
眼に見えない程の速度のランスロットの駆ける軌道に、電気の残留が見える。
そのカサンドラを中心においた瞬間移動は、五芒星の形をしていた。
だが、その中心にいるカサンドラのまとう黒炎も、恐ろしいほどの爆炎と化している。
「魔星光断破!」
「爆炎暗黒斬!」
稲妻の閃光と黒い爆炎が交錯した瞬間、僕らは凄まじい爆風に眼を覆った。
そこで見たのは――倒れているランスロットと、黒炎をまとうカサンドラだった。
「ふう……なかなかやる奴だったが、私の相手ではなかったな」
「そんな……」
スーが怯えた眼で、呟きを洩らした。
僕ははっきり判った。――この相手が、まったく僕らより強い相手であることを。




